#030(5日目・午後・セイン)

「おぉ~、[猫耳]にゃ! でかした兄ちゃん!」

「まぁ、コツコツ集めていたら、もっと集まったでしょうけどね…」


 継続は力なり。自警団の一件さえなければ、ニャンコロさんならとっくに[猫耳]をコンプリートしていただろう。


「それはいわない約束にゃ~。まぁ[毛皮]集めに飽きてたのも事実だし、気分転換としては上出来にゃ」


 たしかに、1時間に10個集められるアイテムを、1時間集めるのと、100時間集めるのでは全く話が違う。


 それに…、平均レベルが上がって流通している装備が充実すれば、今苦労して集めている[猫耳]の価値は一気に暴落して市場に大量に出回る。それでも集めないではいられないのがエンジョイ勢の悲しいサガだ。


「それで、どこか行きたいところはありますか? 今のレベルだとゴブリンを狩って[魔結晶]で一山あてる狩りが安定だと思いますけど」

「また敬語になってるにゃ」

「うっ」

「そいえば、"アレ"はすすめなくていいにゃ?」


 アレとはC√攻略のことだろう。手ほどきをすると言って、結局何もやっていない。


「例の攻略はタイミングが重要です。今は背伸びをしたがるPCが多いので派手な行動はできません。狙い目は…、週明けですね」

「にゃるほど、さすがはベテランにゃ。いろいろ考えているみたいで安心にゃ」


 C√攻略で一番注意しないといけないのは、他のPCの動向だ。序盤にあせって指名手配でもされたら終わり。このゲームはあくまでMMO、単純な力量や装備だけでなく、不確定要素にまで気を使う必要がある。


「話はそれましたけど、ゴブリンでいい…、か?」

「ぷっ! ん~、まぁアイニャンがいないとゴブリンは激マズだから。アチシはやっぱりコボルトがいいにゃ」


 アイニャンってアイのことかな?


 それはともかく実際のところ、ゴブリンを狩る旨味は[魔結晶]しかない。装備のリサイクルは商人がいれば、なんとか形にできるが…、今はいない。


 [魔結晶]のドロップ率は0.01%。体感で、一晩狩りをつづけて1週間で1つくらいのペースでドロップする。昨日のように3人がかりで狩りをするなら、2日に1つ入手できればラッキーくらいの感覚だ。


 いくらサービス開始して間もないと言っても、ベテラン3人がかりの成果としては…、微妙と言わざるをえない。


「ただ…、コボルトも結構、微妙なんだよな…」

「<咆哮>にゃ?」

「それです」


 ランクが上がると、プレイヤースキルだけではどうにもならない相手が増える。動物系の魔物がよく使う<咆哮>というスキルもそうだ。


 <咆哮>は魔力をのせた声を放つ攻撃魔法で、威力は低いが前方に広い攻撃範囲を持っている。とうぜん紙一重でかわせる代物ではないので…、低レベルのうちはガリガリとHPを削られる。


 対処法はゴリ押しが一番で、本格的に狩りをするなら攻撃を受けるタンク役や回復役が欲しいところ。回復アイテムをがぶ飲みする手もあるが、補給の問題もあるので長時間篭もるのには向かない。


「アレは特に"蓄積ダメージ"とかないから、立ち回りでなんとかなるにゃ」

「立ち回りですか…」


 蓄積ダメージとは、局部破壊などと同じ回復できない攻撃のことだ。魔法攻撃全般はダメージを負っても簡単に回復できるが、物理攻撃スキルや特定の武器には回復を阻害する効果が付与されている。


「わかりました。とりあえず試しってことで、持てるだけ"食糧系"をもって行ってみましょう」

「さすがは兄ちゃん! 話がわかるにゃ~」


 どうせ今は自警団の依頼はストップがかかっている。NPCを襲うのも今は同業者と鉢合わせる可能性があるから避けた方がいい。


 それならこの機会に、効率が悪いと思って、食わず嫌いしていた魔物を狩るのも一興だ。あんがい稼げたり、意外な利点が見つかるかもしれない。


 ちなみに食糧系とは、ぶっちゃけ普通の料理で…、回復薬と違って即効性はないが時間をかけて徐々に回復する特性がある。<咆哮>などの削り攻撃や毒で頻繁に体力が削られる狩場で有効だ。


「それじゃあ早速買い出しにゃ! どうせ<咆哮>は避けれなにゃいから、移動制限がかかるくらい持っていくにゃ!」

「はぁ~、まだパリィ系スキル持ってないんで、それだと通常攻撃が避けられないんですけど…」


 ノリノリのニャンコロ…、ニャン子に対して、俺の気は重い。もちろんワクワクする気持ちがないと言えば嘘になるが、できれば万全の状態で挑んで、完璧に勝利したいのが俺のスタイルだ。





 サーラムの森1


 このエリアは木の魔物"トレント"と精霊系獣人族のコボルトが出現するエリアだ。移動は有料だが転送サービスで"秘境の街・エルサーラム"までワープすれば、意外に早くつく。


「こんな感じにゃ。どうにゃ? コボルトを狩ってみた感想は」

「そうですね…、思っていたよりは悪くないですね」


 面倒な削り攻撃があるせいで、先入観から俺は食わず嫌いしていたが…、戦ってみると意外に悪くない。もちろん、今のままでは使えないが、"条件さえそろえば稼げる"狩場という認識にかわった。


「よし、それじゃあガンガンいくにゃ!」


 ガンガン行くと言っても、周囲攻撃がない現状では、1体ずつ処理していくので戦闘自体は地味だったりする。


「はい、今です!」

「もらったにゃ!!」


 2人がかりでコボルトを1体ずつ着実に処理していく。



 コボルトの対処法は…、

①、タゲを受け持ったPCが引き気味にコボルトを誘い、もう1人と挟み込む形にもちこむ。


②、挟み込んだらタゲを持っているPCが軽く削って、クリティカル1撃圏内までもっていく。


③、ほどよく削れたところで後ろに回り込んだPCがトドメをさす。



 コボルトの<咆哮>は体力が半分以下になると発動率が上昇する。つまり、チャンスだからと無暗に最初からダメージを稼ぎにいくより・・・、安全圏は我慢して、後半の危険域の戦闘を極力短くすれば<咆哮>で体力を削られるリスクを最小限に減らせる。


 それでも低確率でいきなり<咆哮>を撃ってくることもあるが…、しょせんは削り攻撃なので小まめに回復していれば即死する心配はない。


 まぁ回復アイテムは欠かせないが、その程度の経費は払っても問題ないくらいの稼ぎはある。


「ん~、やはりこういう狩場はアイのありがたみを感じますね。ドロップしている装備だって、ゴブリンに比べれば、充分売りに出せるランクなのに…」


 初心者は経費をケチって回復魔法が使える僧侶をつれていきたがるが…、それはベテランに言わせれば間違いだ。回復なら回復アイテムで補えるので、わざわざ戦闘面で役に立たないヒーラーをつれていくのは非効率でしかない。


 その点、商人なら僧侶よりは遥かに戦えるし、ドロップした装備を拾えるから回復アイテムの経費も帳消しにできる。まぁ街から遠いマップだと補給の問題が出てくるが…、大人数のPTでもなければ効率は商人をつれていく方が上になる。


「そのかわり魔結晶は安いから、レアが出た時の感動はうすいにゃ」

「まぁゴブリンはそれだけですけど」


 [コボルトの魔結晶]は水棲種族特攻。対人に比べると価値は驚くほど安い。


「とりあえず、[コボルトの毛皮]と[コバルト鋼]がアタリにゃ。それ以外は無視にゃ~」

「よし! 時間まで、ガッツリ行きますよ!」


 そう言えば、ニャン子と連携プレイらしい連携をするのはコレが最初か? L&Cはプレイヤースキルが大きく出るので素人との連携は不快でしかないが…、ニャン子の場合は…、うん、悪くない。




 そんなことを思いながら、コボルトを狩って狩って狩りまくった。

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