#025(4日目・番外編・ツムギ)
「はい、それがアッサリ」
「やったじゃんツム」
「正直1番の問題だったからね」
「はい。一応、成績は落とさないようになどの条件はいただきましたが、機械はお父様が用意してくださるそうで、一安心です」
放課後。私たちはL&Cをはじめるために、経験者である八重の家に集まっていた。
VRゲームをはじめるのに、まず大きな問題が1つある。それはVR機を用意することだ。さすがの私でも高いとわかるほどVR機は高価な代物だ。私はお父様が仕事のツテで用意してくれることになったからよかったが…、問題は琴美の分だ。
しかし運がいいことに、なんと八重が機械を2台も持っていた。どうもお姉さんのお下がりらしく、性能は期待できないと言う話だが…、とりあえずコレで人数分の機械は確保できた。
「とりあえずL&Cは月額課金だから、ソフトを買う必要はないけど、かわりに月々の支払いがいるから、クレカか電子マネーがいるね~」
「はぁ~、予想外の出費だけど…、まぁ追加課金がないなら、なんとかなるかな…」
さすがに無料ではないようだが、よく聞く課金のしすぎで大変なことになる心配はないようだ。金額に関しては他を知らないので高いのか安いのか判断がつかない。
「ただいま…」
そうこうしていると、ついに待ち人が来た。
「お! 帰ってきた帰ってきた。ちょっと捕獲してくる!」
「捕獲って…」
帰ってきたのは八重のお姉さん。
どうも機械に詳しいらしく、よくわからないがVRの機械も自分で作っているそうだ。
まぁ、そんなことはどうでもいい。今度は文系…、いや理系かな? とにかく新しいお姉様候補だ! 八重のお姉さんもL&Cをやっているらしく、がぜんやる気が出てきた。
「おまたせ~。姉ちゃんつれてきたよ~」
「えっと、ここ、こんにちぱ」
「「ぱ?」」
「ははは、姉ちゃん上がり性だから、気にしないで~」
「えっと、はじめまして風間紬です!」
「あ、その、水野琴美です。なんか、ヤエとは性格が逆って感じですね」
「うぅ、姉の"
失礼ながら琴美の意見に同意してしまった。顔は八重と似ているが、雰囲気が真逆で、ちょっとスキの多そうな大人のお姉さんといった印象だ。
これはこれで…、アリだ!
「その、リンお姉様とお呼びしてもいいですか!?」
「え、えぇ!?」
「ははは、話がすすまなくなるから、その話はあとにして~。それで、姉ちゃん。2人にVRの使い方を説明したいから、姉ちゃんのマシン、貸してよ」
リンお姉様を待っていた理由はコレだ。VRの機械は2台あるが、繋ぐ線が部屋に1つしか来ていない。機械も琴美の家に運ぶために分解しているので、どうしても説明のために繋がっている機械がもう1ついる。
「いや、私、用事あるから、すぐログインしないと…」
「ミエはらないの! どうせ万年ボッチでしょ!?」
「いや、私だってゲーム内なら友達くら…」
「はいはい、そういうのいいから!」
リンお姉様を強引に押し切る八重。
少し悪い気もするがコチラも時間が惜しいので、ここは八重にまかせる。
「それじゃあ、とりあえず2人は"キャラメイク体験版"でログインして。私はモニター越しに音声で指示を出すから。ツムは姉ちゃんの部屋、ミコは私の部屋からログインしてね」
「はい! よろこんで!!」
「「うわ、ミコがいつになく元気だ…」」
あらためてリンお姉様の部屋へ移動する。
何と言うか、お姉さんの部屋は汚かった。八重の部屋も汚かったので、似ていると言えば似ているが…、汚さの種類が違う。八重の部屋は、お菓子や雑誌が散乱しており、その、悪く言えば"不潔"だ。対してリンお姉様の部屋は、機械の部品と、あれはなんだろう? 妙にカラフルなプラスチックのオモチャ?が沢山置いてある。言うなれば"騒然"と言った感じだろうか?
「そ、それじゃあ、そこのシートに座って。体を固定するから」
「え…、ベッドに横になるのではないのですか?」
そ、そんな…、リンお姉様のベッドが…。
「それでもいいんだけど、体が傾いていると、中での感覚がズレるから」
「え、あぁ、そうなのですか?」
よくわからないが、そう言うものなのだろう。私はチャイルドシートのような体を包み込むタイプの椅子に固定されて、VRの機械を装着する。
「それじゃあ、指示に従って選択してね」
「あの、どうやって動かせば?」
「大丈夫、意識を向けるだけで勝手に動くから」
「はぁ…」
しばらくして起動画面のようなものが表示されたのち、目の前に様々な絵が描かれたアイコンが浮かび上がる。
「それじゃあまず、右にある音声チャットソフトを選んで、"ひもうと"ってのを選んでおいて。隣の人がログインしたら、それでアッチの人の声が聞こえるから」
「はい、わかりました」
「それで、次は"L&C7キャラメイク+体験版"ってのを選んでね。それでゲーム内のアバターを作るのと、簡単な動作確認ができるから」
「はい、こうでしょうか…」
次の瞬間、白昼夢でも見ているような独特の感覚に引き込まれ…
私の意識は…
仮想の世界に…
つながった。
*
「えっと、これが仮想世界なのですね…」
『OK。とりあえず、〇ァミチキください』
頭の中に直接ひびくリンお姉様の声。
ところで、〇ァミチキって、〇ァミリー〇ートのチキンのことだろうか?
「すみません。チキンは見当たらないです」
『うん、なんかごめん。ただのお約束だから聞かなかったことにして』
「はぁ…」
リンお姉様は意外にお茶目な人のようだ。
『ツム~、聞こえる~?』
「あ、はい、聞こえまーす」
『お互いログインできたみたいだから、はじめよっか~』
「あの、ミコらしき人が見当たらないのですが…」
『ごめんごめん、言ってなかったね。今使ってるのは体験版だからオンライン…、えっと、とにかく同じ空間に立てないけど、ミコもちゃんとログインできているから安心して~』
「あ、はい。わかりました」
よくわからないが、どうやら体験版は動作確認と、キャラクターメイク?をするだけの場所のようだ。
目の前には大きな姿見と、髪形やスタイルを変更する操作パネルがある。
『それで、キャラメイクは時間がかかるから後でじっくりやってもらうとして…、今から駆け足で操作方法を説明するから。とりあえず雰囲気だけ覚えておいて。詳しい事は後程ってことで~』
「はい、すみません。よろしくおねがいします」
この後、琴美の家に機械を運ばないといけないし、なにより私には門限がある。幸いなことに設定さえしてしまえば、あとは機械を通して話ができるので、とりあえずサワリの部分だけ説明してもらう事になった。
それから、簡単にシステム画面の説明や、VR機本体の操作説明などを受けた。
『今更だけど~、酔ったりしてない?』
「はい、思ったよりも違和感がないというか…、むしろ自然すぎて不思議な感覚です」
普通はもっと、ゲーム内で定められたモノサシ通りにしか動けないものだが…、VRの仮想世界は、行きたいと思った場所に、自然な速度、自然な歩幅で移動してくれる。
本当にその場にいるような感覚だが、姿見をみると私とは別人が立っている。
『違和感がないのは、適当に選んだアバターの体格が近かったからだと思うよ~。第7世代VRが高性能だってのもあるけど、VRの世界は…、現実ではないけど、ちゃんと現実と繋がっているからね~』
「あぁ、なるほど…」
この仮のアバターはリンお姉様が選んでくれたものだ。
リンお姉様の機械の性能と、ログインしているシート、そして現実の私の体格に近いアバター。すべてがそろっているからこそ違和感を感じないのだろう。たぶん、なにか1つでも狂えば、ゲームになれていない私はすぐに酔ってしまう。あとで作る私のアバターも、できるだけ私に似せて作ったほうがよさそうだ。
『それじゃあ、細かい説明は各自の家からログインしてってことで。とりあえずログアウトして…、ミコのマシンを運ぼっか』
「はい、ありがとうございます」
*
「あ…、えっと、おつかれさま」
「はい、ありがとうございました。リンお姉様」
ログアウトすると、ちょうどリンお姉様がカラフルなオモチャを片付けていた。
まぁ大人の女性がオモチャで遊んでいると思われるのが恥ずかしかったのだろう。つばさお姉様もそうだが…、そう言うオチャメな部分を必死に隠そうとする姿が…、たまらなく愛おしい!!
「その、今、はずすね」
「ありがとうございます」
「その、リンお姉様もL&Cをやっているのですよね?」
「まぁね。L&Cは、けっこう殺伐とした世界だから、悪く言う人もいるけど…、私は良い人も悪い人もすべて受け入れちゃうL&Cの世界観が…、なんだかんだ言って気に入っているかな? えっと、コムギちゃんだっけ?」
「ツムギです」
「ごめん」
「いえ」
「ツムギちゃん。さっき見たオモチャは…、皆にはナイショね?」
オモチャの話なんてしてたっけ?
リンお姉様はちょっと抜けているけど、優しくて不思議な雰囲気の素敵なお姉様だ。
中学を卒業して1度は絶望したけど…、ここにきて私は、またお姉様に恵まれてきた。
しかし、焦ってはダメだ。なぜだか私は、ときどき変態だと誤解されてしまう。まずはゲームを通して仲良くなり…、続いて現実世界でも親密な関係になろう。
うん、イケる!
その後は、おどろくほど重いVRの機械を琴美の家に運び、解散となった。
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