#024(4日目・午後・セイン)

「(よし、準備はいいか? まだ確殺できないと思うから反撃に注意しろよ)」

「(わぁってるって。お前こそ、警戒しすぎて時間までに倒しきれないとかよしてくれよ? [煙玉]の効果時間は10秒だからな)」


 なにやら2人はアイテムを用意して最終確認をしている様子。まず間違いなく[煙玉]だろう。[煙玉]を使った兵士狩りは俺のオリジナル戦法ではない。C√プレイヤーなら誰でも知っている基本テクニックだ。


 当然、このテクニックの弱点も知っている。


「とまれ! ここは一般の立ち入りは許可されていない」

「許可証を持っているなら提示しろ」


 どこかで聞いたセリフを口にする兵士。AIの疑似的な感情表現の精度は日に日に進歩しているが、こんなどうでもいいところにリソースをさいてゲームを重くするのは無駄でしかない。


「はいはい、[煙玉これ]でおねがいしま~す」

「「な!? 警戒!」」

「いくぞ!」

「おう!!」


 [煙玉]の発動と共に兵士の後ろに回り込む2人。


 犯行現場のSSを撮影して、俺も一気に距離をつめる。


「くらえ!!」

「ぐっ! まだだ!!」

「チッ! やはり重装甲だと一撃は無理だったか!?」


 煙の中で、僅かな青い光の後に、赤いダメージエフェクトの光が見えた。状況から察するに<スラッシュ>あたりの攻撃スキルで兵士に強襲攻撃を仕掛けたのだろう。


 しかし、いくら強襲攻撃を成功させてもレベル差のある相手、しかも防具越しの攻撃では致命傷には至らない。


 当然、2人もそのことは想定しているはず。それなら…。


「!?」


 音とエフェクトの光をたよりに背後から接近して…、まずは1人。


 PCが死亡すると、視界が暗転して、声も出せなくなる。突然のブラックアウト。相手からしてみればVR機の故障を疑うような状況だ。すぐにタイトル画面に戻ってセーブポイントからリスポーンするかの選択が出る。すぐに第三者に奇襲されたことを仲間に伝えるべき状況なのだが…、煙の中での突然死で、本人も何が起きたか理解できないだろう。


 ガキン!!


 息つく暇もなく、近くで金属音とともに白い光が炸裂する。あれは兵士の<シールドパリィ>の成功エフェクトだ。


 たしかに[煙玉]の強制盲目状態は厄介だが、なにも完全に視界がきかなくなるわけではない。音などもそうだが、スキルエフェクトやダメージエフェクトなどの"光"はある程度見えたりする。


「チッ! さすがにレベル不足だったか。だが、ここで死んでたまるか! おい! 余裕があったら[煙玉]を追加してくれ!」

「その必要はない」

「へ?」


 突然背中からかけられる声に素っ頓狂な声をもらすPC。


 しかし、俺はその声を待っていた。わずかな声をたよりに相手の正確な首の位置を特定して…、[バンク]で首を斬り落とす。


 PT会話の切り替えは、その都度設定を操作する必要がある。操作自体は大した手間ではないが…、どうしても戦闘中はイチイチ切り替えていられない。結局2人も、兵士に応答したときから発言がオープンになったままだった。


 こうして、10秒もしない間に2人のPCは、光になって消滅した。


 そして!


 先ほどまでPCがいた場所を兵士の切っ先がカラぶるのを見て、"アクセサリー2"にセットしておいたサブウエポンの[スティレット]に持ち替え…。


「ぐっ!」


 無言で兵士の首をつく。


 L&Cでは第2アクセサリースロットにサブウエポンをセットできる。後衛ジョブは装備を持ちかえることはないが、前衛職は相手に合わせて上手く装備を切り替えるのも重要なテクニックだ。


 やがて[煙玉]の効果が切れて視界が回復する。


「貴様、侵入者だな!?」


 突然あらわれた俺に向けて、剣をかまえる兵士。


 [煙玉]を追加してもよかったが、それだと兵士の正確な位置をつかみそこねて急所を外すリスクがある。どうせあと1人なら…、通報スキルを使われる前に倒せば済む話だ。


 兵士の切っ先が、輝きを放つ。


 体勢からして刺突強化スキルの<ストライク>だ。アクティブ攻撃スキルの一撃は強力だが、その分リスクをともなう。



①、一瞬ではあるが発動エフェクトが発生するので攻撃を察知されやすい。


②、ひとたびスキルが発動すると細かい調整が出来なくなる。つまり、かならず大ぶりな攻撃になるわけだ。


③、スタミナ(SP)の大量消費。SPを一気に消耗するので、そのあとの行動にスキがうまれる。



 つまり避けてしまえば相手はカカシ同然になる。本来なら確実に当てられるタイミングまで温存するべきではないのだが…、そんな難しい状況判断をNPCができるはずもない。


「ぐはっ!!」


 兵士の攻撃を紙一重でかわし、[スティレット]で一突きすると…、もともと瀕死だった兵士はアッサリ倒れた。


「キル4か…、待ち伏せの時間も考えると効率は最悪だな」


 今更この程度の成果に感動はない。むしろ効率の悪さにウンザリしているくらいだ。


 しかしまぁ、とりあえずココでやることはなくなった。時計を見れば、そろそろニャンコロさんがログインする時間だ。


 さて、帰るとするか…。




 SSの保存フォルダーを作りながら、俺はサーラムの密林をあとにする。

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