#018(3日目・午後・セイン2)

 賑わう王都の喧騒をよそめに、俺はなぜか"ゴミ拾い"をしていた。


 いや、もちろん意味はある。わかっていてやっているのだが…、こういった単純作業は思いのほか精神の消耗が激しい。ゲシュタルト崩壊だったか…、とにかく俺は単純作業の繰り替えしにうんざりしていた。


「あにゃ~、もしかしてセインかにゃ~」


 そこに声をかけてきたのは昨日会った猫言葉の女性PC。名前は"ニャンコロ"さん。間違いなく6時代のL√ランカー"にゃんころ仮面"だろう。


 まぁ、あえて指摘はしないが…。


「こんにちは、ニャンコロさん。もしかしてNPCのところで[猫耳]を交換してきたところですか?」

「あったり~。とはいっても~、まだコンプまで、7個もあるけどにゃ~」

「ごくろうさまです。俺はしばらく周辺MAPでアイテムを集めるつもりなので、猫関係のアイテムが手に入ったらメッセージをおくりますよ」

「なんだかわるいにゃ~」

「もちろん見返りは要求しますよ? そうですね…、あまった[魔結晶]とか[属性石]があればうれしいですね」


 [魔結晶]はエンチャント素材で、装備を強化する際に特殊効果を付与できる。基本的にドロップ率は最低値の0.01%に固定されているが…、有用なものは限られるので、それ以外の[魔結晶]はレアなのにもかかわらず捨て値で取引されている。


 [属性石]も似たようなもので、こちらは装備の属性や魔法関係の合成アイテムに使われている。ものによってドロップ率は違うが、攻略がある程度すすめば、わりと頻繁に手に入るアイテムだ。


「ははは~、ちゃっかりしてるね~。でも分かりやすくて気楽かにゃ~。まぁ今はもってないけど、コレ、お近づきの印にゃ」

「え、これって…」


 ニャンコロさんから手渡されたのは[ゴミ]だった。


 いや、もちろん嫌がらせとかではなく、これでも立派なクエストアイテムだ。


・クエスト~王都のゴミ集め~

内容:街に散らばる[ゴミ]を200個集める。

報酬:イベントスキル<アイテム投げ>獲得。


 効果は手持ちのアイテムを消費することで離れた標的に微ダメージを与える、遠距離物理攻撃スキル。攻略がすすむと不要になるが…、魔物のタゲをとったり、"睡眠解除"などのアタリさえすればいい攻撃に使われる。


「アチシはどうせしばらくこの辺を往復するからにゃ~。急いでもいないし、拾う機会はいくらでもあるにゃ~」

「たすかります。正直に言って、もう頭がどうにかなりそうでした」

「ははは~、それはよかったにゃ~。そういえば…」

「すみません!」

「「?」」


 しかし、ニャンコロさんの言葉は、突然あらわれた男性PCの声に遮られた。


「えっと、にゃんころ仮面さんですよね!?」

「え、いや、その…」


 すごく複雑そうな表情のニャンコロさん。変装している芸能人が声をかけられた時の感覚に近いのかは知らないが…、すくなくとも喜んでいるようには見えない。


「聞いてください、にゃんころ仮面さん!」

「いや、だからその…」


「お~い、にゃんころ仮面さんいたか~」

「こっちだこっち」

「ちょ、マジでにゃんころさんなの!? 握手してください!」

「いや、それは…」

「 ………。」


 さらに2人合流して合計3人。その中にはさきほど俺に声をかけてきたレイ?もいた。テンションの高い2人に対して彼だけ妙に気まずそうにしているのが、ちょっと小気味いい。


「すみません。俺たち、声をかけあって見回りをしようって話になって!」

「え、え?」

「だから、C√のヤツラの妨害がドをこしているから、皆で協力して返り討ちにしようって話になって!」

「そうなんです! それで是非! にゃんころ仮面さんにも参加してほしくて!!」

「いや、その…」


 見ていて痛々しい。あきらかに迷惑している表情のニャンコロさんを気づかうことなく自分たちの用件を押し付けてくる3人。


 C√の俺としては…、このノリ自体が気持ち悪い。関係のない話だが、俺は元気や仲間意識を押し付けてくるヤツラのノリが生理的に無理だったりする。


 だからつい、ガラにもなく助け船をだしてしまった。


「おいキミたち、相手が迷惑しているのが分からないのか? そもそも彼女は自分がにゃんころ仮面だと名乗ってもいないだろう!?」

「ぐっ、それは…」

「なんだよおまえ、まじウゼェな。ちょっと引っ込んでてくれない?」


 いや、ウザいのはお前らだろ? なんで逆ギレされなければいけないのか。こいつら全員ブチ殺すか?


「お、おい、やめろ。この人は、にゃんころ仮面さんのお兄さんだぞ!」

「えぇ!?」×4


 おもわず声がハモってしまった。つか、なにをどう勘違いしたらニャンコロさんが俺の妹になるんだ? もしかしなくても、さっきの妹の話を誤解したのだろうけど…、それにしたって早合点すぎるだろ!?


「にししし、そうにゃ、アチシは兄ちゃんとペア狩りするからお前たちには付き合えないにゃ」

「ちょま!」

「げっ! マジかよ!? すんません知らなかったんです許してください、何でもしますから!!」

「ん? 知らなかったら何を言っても許されるのかにゃ~」

「ぐっ」


 猫言葉も戻って絶好調のニャンコロさん。この人…、自分のペースならガンガン話せるけど、主導権がうつると話せなくなるタイプだ。


 しかし、この場は乗っかっておくのが正解だろう。


「C√の連中の動きが気になっているのは俺たちも同じだ。しかし、それとこれとは話が別だ」

「そうにゃそうにゃ~。お前ら失礼にゃ」


 とりあえず煽るニャンコロ。殴りたい。


「L&Cの秩序を守りたいと願う気持ちは尊いと思うが…、まずはネットゲームのマナーを守ってほしい。それじゃあ、そういうことだから失礼させてもらう」

「もらうにゃ~」




 結局その場は"兄妹のフリ"で、なんとかやり過ごした。

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