#019(3日目・午後・セイン2)
「さっきは助かったにゃ、おに~ちゃん」
「いや、あの場は話を合わせましたけど…」
俺はニャンコロさんと兄妹のフリをしながら、とりあえず外のフィールドまできた。
「まぁあれにゃ、どうせアイツラ3人てわけないにゃ。夜になったら絶対また来るにゃ」
「そうでしょうね…」
今は平日の昼間。あの場は何とかなったが…、その話を他のメンバーに報告すれば、もう一度挑戦する流れになるのは必然だろう。
「っというわけで~、しばらくは偽装に付き合ってもらうにゃ~」
「いや、そこまでする義理は…」
「ぐしし~、そんなこと言っていいのかにゃ~」
にやにやと嫌らしい笑みを浮かべるニャンコロさん。この人、主導権を握っている時は本当にグイグイくる。
「なんですか藪から棒に…」
「セインはC√だにゃ?」
「(バレテーラ)何のことですか? 自分はLですよ。クエストだってこなしているじゃないですか?」
「ビーストの放送、見てたにゃ」
「人違いですよ。このアバターはテンプレ設定ですからカブっている人は多いと思いますよ」
「素人の目はごまかせても、アチシの目はごまかせないにゃ~。身のこなしが達人レベルにゃ。あんなの見よう見まねでコピーできるものじゃないにゃ~」
バレないように気を使っていたつもりだが…、さすがにランカーの目は誤魔化せなかったようだ。
ランカーとは各ルートの上位100人が対象だが、実際にランカーを名乗れるのは不動の地位を確立している者のみ。ギリギリのラインを浮き沈みしている者にはランカーを名乗る資格はないし…、もし名乗ればライバルにあの手この手で蹴落とされる。
そう、真のランカーは挑戦者を真正面から返り討ちにするだけの実力をもった…、正真正銘のバケモノ集団なのだ。
「もしそうならどうします? 仲間内に声をかけて、俺を潰しますか?」
「はははっ、そんなことしないにゃ~。実は前から話そうと思っていたことなんだけど…、アチシ、C√に転向しようと思っているにゃ~」
「あぁ…」
納得してしまった。L√はL&Cにおける正規攻略ルートで、とくに理由もなくL√をすすめているPCは多い。
しかしニャンコロさんはロールプレイ重視なので、たえずクエストに煩わされるL√に大した魅力はない。むしろ魔物や魔人に転生できるC√のほうが選択肢は広い。
「そんなわけで、しばらく妹ってことにして…、アチシにC√のこと、いろいろと教えてほしいにゃ~」
「そうですね…、一度、妹と相談させてもらってもいいですか?」
この話は俺にとっても悪い話ではない。スバルの時と違って、ニャンコロさんには実力と名声がある。連れて行っても足手まといにはならないし…、なにより、元L√ランカーが√変更をしてC√の連中とつるんでいるとは誰も思わないだろう。
「全然OKにゃ~。最悪、口裏だけ合わせてくれればそれでいいにゃ~」
そう、あくまでニャンコロさんはソロプレイヤーだ。俺もそうだが、一時的に他のPCとつるむことはあっても、結局最後は自由気ままなソロ生活に戻ってしまう。
世の中にはそんな生き方しかできない不器用なヤツが…、じつは結構いたりする。
「じゃあ詳しい話は夜、妹がログインしてからと言うことで…。とりあえず時間まで、どこか行きますか?」
「それなら"コボルト"を狩りにいきたいにゃ!」
「いきなりC√から離れましたね。さすがはニャンコロさんです」
「はははっ、そんなにほめるにゃよ~」
コボルトは獣人型の魔物で、かみ砕いて言えばゴブリンの犬バージョンだ。人型であり、動物型であり、精霊でもある…、なにかと特攻の乗せやすい相手だが、ゴブリンよりも
ドロップはコモンが[コボルトの毛皮]でDランクの毛皮系素材。アンコモンがコボルトの装備各種。レアは[コボルトの魔結晶]と下位の魔法金属である[コバルト鋼]となっている。
「とりあえず、"ウルフ"でも狩りませんか? あそこなら[毛皮]も出ますし」
ちなみにウルフの適正レベルは30なので、これでもわりと無茶なことを言っているが…、ランカーならこのくらいは倒せないと話にならない。
「"中ボス"はどうするにゃ?」
「基本無視で」
「うい~」
べつに中ボスが倒せるかどうかの話はしていない。これが廃人プレイヤーの会話だ。
特定のフィールドには少し強い固有種が出現するエリアがある。基本的にはコレを中ボスと呼ぶ。コイツラは個体数が少なく固有ドロップも落とすので狙うPCもいるが…、その性能は中途半端で繋ぎ装備の域をでない。どうせしばらくは自分のステータスやターゲットにあわせてエンチャント装備を組みかえていく形になるので…、ぶっちゃけ相手するだけ無駄だ。
中ボスはある種の腕試し的な存在なので、自信のあるPCは挑戦したがるが…、ランカーともなれば特殊素材を落とす個体以外は無視するのが基本。いまさら雑魚相手に試す腕など持ち合わせてはいないのだ。
結局その日は夕方まで、お互い一言も喋らず、もくもくとウルフを狩って狩って、狩りまくった。
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