#012(2日目・番外編・ツムギ)

 放課後のグラウンド。私はあの人の走る姿を眺めていた。


「はぁ~、やはりあの方は"お姉様"に相応しいお方です」

「ははは、ツムは今日もアレだね~」

「まぁたしかに先輩って、女の私の目から見てもカッコイイと思うけどね。ストイック? なんか劇の男役みたいだよね」


 お姉様は、なんというかオーラを纏っている。キリリとしまった眼差しに、美しい身のこなし。同じ場所に立っていても、まるで1つ上の"ステージ"にいる印象を受ける。


「そうです! 勉強もできて、スポーツもできて、スタイルも抜群、おまけに男っ気もない。まさに完璧な女性です!」

「ははは、言ってることは男の子と同じだね~」


 私たち3人は帰宅部で、普段はアテもなくブラブラしているが…、その日、私はお姉様に出会った。そう、あれはまさしく運命の出会い! あれを運命と言わずして何を運命と言うのか!?


 すこし話がそれたが、ようは危ないところを華麗に助けられて…、私はそれいらいお姉様の虜になってしまったわけだ。


「はぁ~、もっとお姉様のことが知りたい。それで…、あんな事や、こんな事を…、ぐへっ、ぐへへへぇ…」

「ははは、これさえなければね~」


 そんなやり取りをしていると、お姉様は帰りの準備をはじめた。


「あら、もう終わりですか? ほかの方々はまだ続けるようなので、早退でもされるのでしょうか?」


 周囲の部員たちがウォーミングアップ?をおえて本格的に走り出そうといったタイミングで、お姉様はそそくさと荷物を纏め始めている。


「あぁ、先輩って、いつもあんな感じらし~よ~」

「そうなのですか?」

「そうそう。ツムが助けてもらったのも放課後じゃん?」

「あぁ…」

「それではなぜお姉様は陸上を?」

「さぁ~」


 結局なにも分からずじまいだが、まぁ当然か。おおかた、家が遠くて長く学校に残れないとか、私みたいに門限があるとか、そんな理由だろう。


「そう言えば、先輩って中学は陸上部だったっけ?」

「いや、違うよ~」

「お二人は何か知っているのですか?」

「あぁ、私たち、先輩と同じ中学なの、まぁ学年は違うから、あまり知らないんだけど…。そんで、ヤエは中学の時、陸上部だったわけ」

「なるほど…」


 アテは外れてしまったが、まったく接点がないと思っていたお姉様に、思いもしない接点が生まれた。やはり持つべきものは友だ。


 八重は、考えるよりも先に行動するタイプで…、普段は気怠く語尾を伸ばして喋るのに、先生や先輩と話すときは語尾に"っス"をつける癖がある。物怖じしない性格で、率先して前に出てくれるので、引っ込み思案な私は、いつも八重に助けられてばかりだ。


「先輩って前から同性に人気があったけど、本格的に人気が出始めたのって、やっぱり事故のあとからだよね?」

「あぁ~、たぶんそうだね~」

「ちょ、事故ってなんですか! お姉様は大丈夫なのですか!?」

「あぁ、大丈夫大丈夫、先輩は無事だから。でも、なんか大変だったらしいよ。詳しい事は分からないけど…、先輩が今の感じになったのはソレが切っ掛けみたい」


 謎は深まるばかりだ。


 琴美は八重とは正反対で、運動は苦手だけど物知りで知識面でよく助けられる。私は2人と違って全寮制の女子校だったので、世間知らずなところがある。八重は行動面で、琴美は知識面で、いつも私をフォローしてくれる。


「その…、できればお姉様とお近づきになりたいのですけど…」

「ははは、ツムってホント、年上のお姉さんが好きだよね~」

「いや、好きと言うか、安心できると言うか…。私、殿方が本当に苦手で」


 中学を卒業して、私は家に戻り、一番近い女子校へ通うことになった。同年代の同性しかいない寮での生活になれていた私は、新しい生活に大いに戸惑ったが、幸いなことに良い友達に恵まれ、なんとかやれている。


「でも先輩と友達になるのは難しいと思うよ? 先輩って、なんかホラ、人を寄せ付けないオーラがあるじゃん? 失礼な話だけど、なんだかクラスメイトや友達と、ワイワイ遊んでいる姿が想像できないんだよね」

「あぁ…、わかります」


 たしかにお姉様が、クラスメイトと喋ったり、カラオケボックスやゲームセンターに行っている姿を想像できない。私でさえ、2人と知り合うまで行ったことがなかったのに…。


「あぁ、でも、羽島先輩とは仲よかったらしいよ~」

「ハシマ先輩?」

「私も初耳だな」

「陸上部の先輩。なんか、スポーツにおける、先輩のライバル的な~」

「「あぁ…」」


 思わず声がそろってしまった。たしかにお姉様のライバルと言うのなら、親しい相手と言うのもうなずける。


「それで、どうするの? 先輩、帰っちゃうよ~」

「えっと、えっと…、うぅ~」


 頭の中が真っ白になる。


 こういう時、本当に自分の度胸のなさが恨めしい。私も八重のように、積極的に行動で来たらよかったのに…。


「まぁいいや。ちょっと行ってくる!」

「「え!?」」


 返事も聞かずにお姉様のもとへ駆け出す八重。本当に、八重の行動力には毎回驚かされる。


 というか…、どうしよう、お姉様に会えると思ったらパニックになってきた!


 だめだ、失禁しそう…。




 散々慌ててしまったが、結果は…。


「ははは、ごめん。問答無用で断られた~」

「「はぁ~~~」」


 思わず安どの声がもれる。どうやら直接お姉様に会うのは、まだ早いようだ。




 残念だった気もするが、今日はストイックなお姉様に助けられたと思う事にする。

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