#011(2日目・午後・セイン2)

 鬱蒼とした森を進んでいくと、そこには風化した石の壁が立ち並んでいる。


 ここはアルバの北東に位置する"ミルミロ砦"。この砦は現在、本来の役目を終えて予備の軍事拠点として維持管理のみがなされている。敷地内には数名の"軽装下級兵士"が巡回しており、イベント以外で立ち寄ることのないエリアだ。


「さて、それじゃあ行きますか…」


 俺はあらためて装備を確認して、ミルミロ砦に挑む。



・追加装備

スティレット(Dランク・直剣・両刃・短剣):刺突に特化した短剣で防具の隙間を通すことができる。刺突時にダメージ増加。


バンク(Dランク・曲剣・片刃・短剣):三日月の形に大きく湾曲した鎌の一種。内側のみに刃が刻まれており刺突攻撃は使えないが急所攻撃時にダメージが増加する。


煙玉(消耗品):使用すると10秒間、敵味方問わず強制盲目状態にする。


道化師の仮面(顔装備):防御力はないが、IDの参照を阻害する効果がある。攻撃を受けると消滅する。



 俺は2人の兵士が立ち番をしている裏口に…、どうどうと姿をさらして近づく。


「とまれ! ここは軍事施設だ。許可のない者は立ちされ」

「許可証を持っているなら提示しろ」


 兵士は手に持った槍を×の字に交差させて行く手をはばむ。本来ならココでクエストアイテムを見せると中に入れるのだが…、当然俺はそんなものは持っていない。


「それじゃあ、[煙玉(これ)]でお願いします」

「「な!? 警戒!」」


 煙玉の発動にあわせて兵士は"警戒状態"になる。この状態になると敵対PCを攻撃してくるほか、周囲の兵士を呼び寄せる。


 俺は片方の兵士の背後に滑り込み、素早く[バンク]で首を切り落とす。


 下級兵士のレベルは30以上だが、防具で首を守っていない軽装兵士は首へのクリティカルを決めれば1撃で倒せる。


 片方の兵士が消滅して…、のこった兵士が鋭い突きを放つ!


 しかし俺は見えない槍の攻撃を紙一重でかわす。


 兵士の装備している槍はEランクの[ショートスピアー]で、刺突に特化しており、攻撃のタイミングさえ読めていれば横ステップで回避できる。盲目状態の兵士は、本来なら音を頼りに闇雲に攻撃してくるが…、自身か、リンクしている仲間に敵対PCが肉薄している時のみ、正確な位置に攻撃をしかける。俺はその特性を利用して、見えない攻撃を回避したのだ。


 白煙を切り裂く槍の軌道を頼りに、俺は兵士の正確な位置をつかみ、素早くゼロ距離まで詰めよる。この状態だとリーチの長い槍は役に立たない。


 兵士は慌てて距離をとろうとするが、攻撃速度に優れた短剣の攻撃は移動スキル無くしては回避できない。


 下がろうとする兵士の動きを知っていた俺は、距離の変化も考慮して[バンク]を振るい、無駄のない動きで兵士の首を切り落とす。


 [煙玉]の効果が切れて視界が回復したところで、すばやく兵士のドロップを拾い、すぐに砦に飛び込み、物陰に隠れる。




「チッ、はずれパターンだな。まぁいい、先に他のを片付けるか…」


 集まってきた兵士は2人、周囲にいる兵士の配置は外からは確認できないので、複数人来るのはハズレパターンだ。しかし兵士の総数はそれほど多くない。相手の視線に注意しながら孤立している兵士を見つけ…、あとは[煙玉]を投げて暗殺していく作業の繰り返しとなる。


 NPCの兵士はそれらしい行動をとるが、しょせんはAI制御。細かい動きに穴があると言うか…、攻略の糸口が存在する。イチイチ[煙玉]を使うのもそのためだ。


 兵士は本来、敵対PCを発見すると"戦闘状態"に移行する。しかし、攻撃しないまでも挑発スキルを使うなどの不信行為に対しては"警戒状態"にとどまる。その状態なら、俺のようにあきらかに敵対しているPCが侵入しても戦闘状態には移行しない。


 あとは[煙玉]で視界を奪った状態で肉薄して、急所攻撃で即死させれば、状態変化をさせずに兵士を殺してまわれる。


 ちなみに戦闘状態にしてしまうと、砦の奥に待機している重装備下級兵2体と中級兵士1体がPTを組んでコチラを追ってくる。コイツラは鎧で首を守っているので[バンク]で即死させられない。最悪、防具の隙間を貫けるスティレットで応戦することになるが…、今の装備では割に合わない相手なので無視する方針だ。




『ピーン 殺害者数が一定以上になりました。称号<殺人鬼>を獲得しました』


「よし、って<殺人鬼>の方が先だったか…」


 黙々と兵士を暗殺してついに上位称号を手に入れた。しかし、予想では<暗殺者>の方が先だと思っていたが…、どうやら行商人狩りのおかげで<殺人鬼>が先に来てしまったようだ。狙いとは違ったが、上位称号はジョブの前提条件に加えて、追加効果もあるので、どの道コンプリートするつもりだ。



・称号情報

殺人鬼:人を50人殺す。追加効果で人型種族に対する物理攻撃力が僅かに上昇する。C√の戦士系上位職"ウォーリアー"の前提条件。


隠者:奇襲攻撃で1人即死させる。


暗殺者:奇襲攻撃で30人殺す。隠蔽効果が僅かに向上する。C√の猟師系上位職"アサシン"の前提条件。



 それからも孤立している兵士を黙々と狩り続け、<暗殺者>の称号も手に入れた。余談だが、ミルミロ砦にいる軽装の下級兵士はちょうど30人だったりする。


「結局、PCには会わなかったな…」


 予想ではそろそろ攻略ガチ勢がイベントでココを訪れるころだと思ったのだが…、どうやらタイミングが合わなかったようだ。


 ガチ勢ならPTの可能性もあるが、ただのお使いクエストなのでソロで来る可能性の方が高い。どうせしばらくココは警戒レベルが上がって使えなくなるので、ついでにPCのキル数も稼いでおきたかったのだが…、まぁしかたない。




 こうして俺は何事もなく…、ミルミロ砦のイベントを24時間、実行不可能にした。

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