#005(1日目・午後・相手視点)
「悪いが、おまえらにはココで死んでもらう。恨むなら、のんきに初心者とクッチャべっていた自分の愚かさを恨むんだな」
またしてもバカなプレイヤーが釣れた。1人はすでに殺人を犯してしまったが…、見たところベテランっぽいのでココでデスペナをつけておいて損はないだろう。
俺たちは逸早くC値を稼ぐためにクルシュナで無所属のプレイヤーを監視していた。4人でそれぞれの場所を見張り、エモノがあらわれたら仲間を集めて仕掛ける。
この狩りは、プレイヤーからのヘイトを集めやすいので、すぐに使えなくなるだろうが…、まだ人の少ない初日の日中なら充分チャンスはある。どうせ返り討ちにあっても1日分攻略が遅れるだけ。対して成功した場合は…、大幅なC値のリードと、不特定多数のPCに半日分のペナルティーをかせられる。そうなれば俺たちがランク入りする可能性は一気に高まるわけだ!
『人数の振り分けはどうする? 相手は2人だが、1人は素人だ』
『3・1でいいんじゃね~か? さすがに楽勝だろ』
PT会話で作戦を決める。できれば先に済ませておきたかったが、途中で気づかれてしまったので仕方ない。
問題はベテランの方。仕草だけで奇襲を察知してサプライズアタックを不成立にされてしまった。スキル補正なしでこれができるのは、相当対人慣れしている証拠。下手をしたらランカーかもしれないが…、俺たちだって6時代はいいところまで行っている。どうせならタイマンで倒したい気持ちはあるが…、今、下手をうってデスペナをもらうわけにはいかない。ここは安全策で3人で取り囲むべきだろう。
『そうだな、それじゃあ…』
「おい、まだ作戦は決まらないのか?」
「!?」×4
完全にコチラの動きをよまれている。店売りとは言え、装備をそろえた4人に囲まれて、この余裕…、間違いない、ランカーだ!
「見たところ素人のようだが…、まぁ丁度いいハンデか。待っててやるから全力でかかってこい」
「チッ! 調子に乗りやがって、かまうことはない、一気に押しつぶすぞ!!」
「まて!?」
気の早い仲間が"煽り"につられて早々に仕掛けてしまった。これは完全に罠だ。上位のプレイヤーはゲームシステムに頼らない様々なテクニックも駆使してくる。アイツはワザと余裕を見せることで、俺たちのチームワークを乱したのだ。
先走った1人が正面から切りかかる…
相手はそれを回避できずに左腕で防御するが…
「あまい!」
「はぁ!?」×4
一瞬の出来事にそろって言葉を失う。
完全にとらえたと思われた初撃はあっけなく宙を斬り、カウンターで手首を斬られた!
赤々と手首にダメージエフェクトが輝き…、ライフの減少と"攻撃力低下アイコン"が浮き上がる。
L&Cは各部位に一定以上のダメージを受けると、HPに余裕があっても"局所破壊"とみなされ、場所に応じたペナルティーを受ける。
「くそ! まだだ!」
冷静にサブウエポンの[ナイフ]に切り替える。斬られたのは片腕なので、逆の手を使う分には支障はない。
「なるほど、両手剣を捨てて短剣に変更したか。攻撃力を捨てて軽量武器で動きを重視したのはいい判断だ」
「余裕こいて説教たれてんじゃねぇぞ!」
「落ち着け、まだやられたわけじゃない。今は下がって治療しろ。それまで、2人でおさえているから」
「おいおい、ただでさえ余裕なのに、おまけに2人も落としてくれるのか? さすがにハンデの貰い過ぎで申し訳なくなるぞ」
トコトン煽ってくるベテラン。
HPがマックスなら、ほぼ初期レベルの相手に1撃死を決められる心配はない。しかし、局部破壊は回復に時間がかかり、最大HPも低下する。この状態だとクリティカルを決められれば1撃死も充分ありえる。ベテランは数的不利を背負ってでも確実にコチラの人数を減らす作戦のようだ。
「かまわない。コイツは俺が抑える。そのかわり、そっちの素人は任せたぞ」
「お、おう」
「ひえぇぇ」
素人は、睨まれただけで素っ頓狂な声を上げてベテランにしがみ付く。
幸いなことに素人のほうは完全にお荷物のようだ。L&Cは味方にもアタリ判定があるので、ああしてしがみ付かれると身動きが取れなくなる。
『予定変更だ、まずは3人でベテランを潰すぞ! あの素人は生かしておいた方がプラスだ』
『うっし!』
『おk!』
改めて3人で3方向から飛び掛かる…
しかし、ベテランの余裕の表情は揺るがない。切っ先がベテランを捉えんとする、その刹那…
ベテランの口元がニヤリと吊り上がる!
「ぎぃゃぁぁああ!!」
「な!?」×4
「あいかわらず変な悲鳴だな」
「そんな!?」
「ぐっ、足をやられた!」
「こっちもだ!」
なんとあのベテラン、仲間の素人を盾にして俺たちの攻撃を防ぎ、そのまま地を這うような動きで2人の足を斬った。
あらためて格の違いを見せつけられる。これが本当のランカーの戦い方なのか!?
「おい、なんでソイツ、死んでないんだよ!?」
「悪いな、俺の盾は無敵なんだ」
「ちょ、やめてくださいよ、コレ! ボクが一方的に斬られるヤツじゃないですかぁ!?」
致命傷を受けたはずの素人はいまだ健在。対してコッチは負傷者3名。見る見るうちにリードが削られていく。
「そうか、"無敵リスポーン"か…」
「正解。リスポ狩り防止のために、リスポーン直後のプレイヤーはダメージを受けない設定になっている」
「いや、だが無敵時間なんてとっくに終わってるはずだろ!?」
「そうだ! チートだチート!!」
「さぁ、どうかなぁ~。なんなら運営にログでも送るか? 無駄だと思うけどな」
「くっ、"初期リスポーン"か」
「正解」
通常のリスポーンの無敵時間は最高でも5分だが、特定の条件を満たすと無敵時間を延長できる。特にレベル1で、装備も外した状態だと…、戦闘コマンドを実行したりエリアを移動するなどの条件を満たすまで無制限に無敵時間が延長される。
攻略サイトの"ネタ技紹介"に書いてあったが…、まさか実戦で使われるとは。
「おい、人が集まってきたぞ! どうする?」
「マズいな…」
ただでさえヘイトを集める街中でのPKだ。これ以上目立つと、"粘着"される危険がある。いくらチームを組んでいても、掲示板などにIDを晒されてはなすすべはない。
「おいおい、せっかくイイところなのに、まさか逃げるんじゃないよな? 興ざめにもほどがあるぜ」
「ぐっ、いってくれる」
「俺はやるぜ! このまま引き下がれるか!!」
「俺もだ、ペナルティーって言っても半日潰れるだけだろ!?」
「無理だ、コイツ強すぎる! 絶対チーターだよ!!」
「冷静になれ! これ以上は目立ちすぎる!!」
チームがバラバラになる。圧倒的に有利だったはずなのに、気づけば追い込まれているのはコチラ。レベルや装備に差がなければランカー相手でも勝てると思ったが…、やはり"L&Cのランカーはバケモノ揃い"と言うのは本当だったようだ。
「はいはぁ~い、みなさぁ~ん、ちゅ・う・も・く!」
突然、収拾がつかなくなった空気を塗り替える…、妙にねっとりとした喋り方のプレイヤーがあらわれた。
妙に聞き覚えのある声に、その場に集まったPCが一斉に注目する。
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