#006(1日目・午後・セイン)

「はいはぁ~い、みなさぁ~ん、ちゅ・う・も・く! その勝負、ちょっとまって、くれるぅ~」


 突然現れたガタイのいい"男"。あきらかにキャラメイクで限界まで体格にふっている。L&Cはキャラの外見がステータスに影響するので…、ほかのゲームでは敬遠されがちなマッチョキャラを使うPCは多い。とは言ってもゲームのメインサーバーは日本であり、極振りマッチョは敬遠されがちだ。


 しかもこの独特の喋り方は…、外見的な特徴を別の印象に捻じ曲げる。


「あいかわらず、隠す気ないですね、"色欲"」

「今は違うけどね~。そういうアナタぁは~」

「まってください。俺は"オープン"ではないので」

「あら、ごめんなさぃ」


 騒めく周囲に、1人だけポカン顔のスバル。


 このゲームをやっていて、彼の名前を知らないものはいない。彼を知らないPCはモグリか…、ドがつく初心者だ。


「うそだろ…、ビーストって、そんな…」

「ヤバい、ランカーどころか"魔王"じゃねぇか!?」

「終わったっ、第3部完…」


 4人も流石に自分が置かれた状況に気づいたようだ。


「スバル、"ビースト田所"の名前に聞き覚えはないか?」

「へ? えっと、あれ? なんか聞き覚えはあるんですけど…、うぅ、思い出せない…」

「傷ついちゃうわねぇ。まぁ5年もたったし、これが1発屋の宿命よねぇ~」

「あ! オカマの人!」

「そうそう、って! オカマじゃないわよ!」


 周囲がドっと沸き立つ。


 そう、彼は5年前、オカマネタで一世を風靡した芸人ビースト田所だ。彼は一発屋芸人として時の人となり…、年明けとともにTV業界からフェードアウトしていった。それでもしばらくは巡業で稼いでいたようだが…、アクの強い彼のキャラは地方でもすぐに飽きられてしまった。


 このまま、誰もが彼の存在を忘れてしまうものだと思われたが…、ビーストはとある世界で成り上がり、かつての栄光…、とまでは言わないが、また有名人になった。


 その世界はもちろんL&Cだ。彼は仕事がなくなり、空いた時間を現実逃避…、ぶっちゃけ、ネトゲにドハマリして廃人になっていた。そして上位プレイヤーとなった彼は、L&Cの生放送を配信する人気実況者の1人となり…、とうとうランキングのさらに上の存在、"大罪の魔王"の1人にまで登りつめた。


「ビーストはC√のトップ7に入る実力者だ」

「え、それって…」

「そういう、こ・と! それでねぇ、放送でぇクルシュナの街中でぇ、どうどうとPKをしているPCがいるからぁ、懲らしめてくれって、頼まれちゃったのよぉ~」


 ちなみにビースト田所は、もともとはオカマ…、女性のような格好の男性ではなく、ゲイキャラ…、同性愛者の男性キャラを売りにしており、"オカマと混同されて怒る"のをネタにしていた。しかし、ブームが去って迷走したのか、今は開き直って、ただのオネエキャラになってしまった。巷ではビースト田所は芸人を辞めて一般人に戻ったと思われているが…、じつは配信者という形で芸能活動をつづけている。


「なるほど、それで俺のエモノを横取りしに来たんですね?」

「あいかわらず言うわね~、で、その子、もしかして"空鍋"?」

「いえ、たまたま知り合った新入りです。ちょっと案内していたらコイツラに絡まれて…」


 「ひ!」っと声を上げて震え上がる4人。どうやらトッププレイヤーを前に、完全に委縮してしまったようだ。


 L&Cはワンサーバーのネトゲなので、トッププレイヤーにも普通に会える。特に今日はサービス初日。気づいていないだけでほとんどのトッププレイヤーや実況者とすれ違っているのだ。いくら人が少ないと言っても、ヘイトの集まり方は平時のソレを遥かに超えるだろう。


「そぉ、珍しいこともあるはねぇ~」

「話がそれていませんか?」

「あら、ごめんなさい。わたしぃとしては、加勢してあげるつもりぃだったんだけど…、相手が戦意喪失しちゃってるわねぇ~」


 L&Cはアクション主体の戦闘システムなので、ビビった状態の相手はカカシも同然。そもそもビーストが来た時点でPK行為が生放送で晒された事になる。もうこのキャラはデリートして作り直すしかないだろう。


「おい、おまえら」

「はい!」×4

「L&CではPKは禁止されていない。街中でもセーフティーがかかっているだけで完全な安全圏ではない。だからPKをしてもルール違反にはならない」

「(こくこく)」×4

「しかしだ、悪の道にも秩序はある。オフラインゲームみたいな我がままプレイは、すぐに他のPCに潰される」

「(こくこく)」×4

「それでも潰しあう覚悟があって、やっているなら俺は構わないと思う。それもこのゲームの醍醐味だ」

「そぉね~、わたしぃも、正義のためにココに来たわけじゃないわぁ~」


 気が付けば、ガラにもなく説教をする流れになってしまった。偉そうなことを言っているが、俺もC√プレイヤー。言っていて背筋がむず痒い。


 つか、俺を見るスバルの視線が痛い。初心者狩りをしたのは俺も同じだからな!


「悪いことは言わない、キャラをデリートしてやり直せ。すでに情報は掲示板に上がっているはず。もう、そのキャラでは何もできないだろう」

「うぅ、わ、わかりました…」

「だが…」

「?」

「せっかくギャラリーも集まったことだ。このまま解散も味気ないとは思わないか?」


 周囲から再び歓声がわきあがる。


 今でも充分に"ざまー展開"だろうが…、ギャラリーの注目は"ビースト対PK集団"の戦いに向けられている。


「え、それって、つまり…」

「そういうこと。改めて勝負をしようじゃないか。俺とビースト対キミ達。キミ達が勝てば今回の事は不問。負ければキャラデーターをリセット。ビーストもそれでいいだろ?」

「あらぁ、気がきくじゃなぁい。わたしぃはそれでいいわよぉ~」

「 …は、はい。よろしくおねがいします!」

「おねがいします!」×3


 交渉成立。本来なら装備のそろった相手、それも人数でも優位な相手に勝てるわけがないのだが…、L&CはアクションRPGであり、プレイヤースキルが何よりも重要となる。その事実を知っているPCも、そうでないPCも、この戦いを見ればいやおうなく理解するだろう。


 初心者を相手にいい気になっていた中堅が…、本当の上位プレイヤーを相手に手籠めにされる。


 それは例えるならガキ大将と格闘家の戦いだ。"戦い"というよりは"指導"と呼ぶのがふさわしいだろう。


 こうして俺たちは難なく4人を倒し、歓声のもと…




 ちゃっかり4人が稼いだ資金と装備を手に入れた。

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