#004(1日目・午後・セイン)

『ピーン "名もなき旅人"を殺害しました。称号<殺人>を獲得しました』


 脳内にアナウンスが流れ、警告メッセージが表示される。そこには称号のデメリットやバッドイベントの回避方法がしるされている。


 それを俺は華麗に…、無視する。


『よし、こんなところか。おっといけない、早く拾わないと…』


 俺は足元に転がったクリスタルを拾い上げる。ここには、先ほど殺したキャラの全財産とインベントリーに入っていた全てのアイテムが集約されている。


『 …って! (ずだだだだだ!)何するんですか!!』


 顔を真っ赤にしてリスポーン地点から走ってくるのはもちろんスバル。


 つか、自動感情表現機能が地味にリアルになっていて驚いた。さすがは第7世代VR、疑似的な感情表現も完璧だ。これは…、感情制御系のスキルの重要度が増すかもな…。


『初デス、おめでとう。ついでにメニューからステータスと所持品を確認してみな』

『え? なんなんですか…、って! レベルが1にもどってる!? ぅえぇぇeeEEええ! 所持金までなくなってますよ!?』

『す、すごい声だすんだな…』


 L&Cのデスペナルティーは、この手のゲームの中では断トツにエグい。経験値が大量消失してレベルまでダウンする。所持金やアイテムも他のプレイヤーに盗まれるし、おまけに1時間、経験値が入手できなくなるなどのペナルティーもつく。ぶっちゃけ、スバルの場合ならキャラをデリートして新規スタートした方がマシなレベルだ。


『ほっといてください! ってそうじゃなくって、なにするんですか!!』

『なにってそれは…。…。』


 C√の条件を網羅していない様子のスバルに半笑いで理由を説明する。


 C√はザックリ1言でまとめると、人の道を外れた者が歩むストーリーだ。L√が順番にクエストをこなし英雄になる"クエスト重視"の…、悪く言えば"レールプレイ"なのに対して…、C√はNPCやイベントストーリーに頼らず自分の道は自分で切り開く"オンリーワンストーリー"。その気になれば街にいるNPCを殺してイベントを"詰み"にしてしまう事だってできる、スーパーカオスなルートなのだ。


『え、それって大丈夫なんですか?』

『一応、NPCは殺してもしばらくするとリポップ、つまり復活するが…、それとは別に、重要なイベントエリアには前科持ちは入れないし、殺した相手に応じて各種ギルドから"指名手配"される。最悪、街に入るどころか、全てのNPCサービスをうけられなくなる』

『それって、さっき使った転送サービスとかもですか?』

『当然。あとはクリスマスとかハロウィンなんかの限定イベントも参加できなくなるな』

『うぅ、それは大変そうです…』

『まぁアレだ、C√でも喧嘩を売る相手は吟味しろって事だ。ようは転生する時に必要な"カオス値"や"称号"があればいいんだ』

『えっと、それじゃあレベルが…、最大になってから条件を整えてもいいんですよね?』

『まぁ称号集めがダルくなるだろうが、大体あってる。あと、最高レベルは種族で変化するが…、最初は一律で80だな』

『なるほど…、で! なんでボクは殺されたんですか? あと、さっきからボクもセインさんを攻撃しようとしているのに、なぜか出来ないし…』


 妙に近くで喋ると思ったら、やはり設定OFFの状態で攻撃していたようだ。


『システム画面の"セーフティー"の項目で解除できる。だが、街中で戦闘体勢に移行するとメチャクチャ警戒されるから注意しろよ。それと殺した理由だが…、ギルドなどに加入していないキャラを殺すのが、安全にC値を稼ぐ方法だからだ。最初に言っただろ? "対価は貰う"って』

『うぅ、そう言う事だったんですね…、それなら前もって教えてくれてもいいじゃないですか。 あと、当然ボクも…、セインさんを殺していいですよね?』


 満面の笑顔で猟奇的なセリフをはくスバル。もしかして…、いきなり殺されたことを怒っているのだろうか? まぁ、そのあたりの仕様を知らないと怒るのも当然か…。


『残念ながら無理だ』

『どうしてですか?』

『理由は2つ。1つはゲームの仕様で"不意打ちでダメージが増加する"ってのがある。L&C用語で"サプライズアタック"とか"奇襲攻撃"だな。そうでもないと初期装備のナイフで1撃死は出せない』

『あぁ、なるほど』

『あと、もう俺は"殺人"の称号を持っているから、俺を殺しても"殺人判定"はつくが"称号"はつかない』

『え? …殺人は殺人じゃないですか??』

『そうだが…、それを認めると身内を集めてポイントや称号を簡単に稼がれてしまうからな』

『あぁ、それだと…、トモダチが多い人は…、有利になっちゃいます、からね…』


 みるみる声のトーンが下がっていくスバル。C√は心に闇を抱えている者が集まりやすいので…、友達とか恋人、あとは仕事や将来などの話題は極力さけた方がいい。


『まぁそう言うことだ。あと、リスポ狩り…、えっとゲームを開始したり、死んで再復活した人も、無敵状態だから襲えない』

『え、あぁ、それじゃあアルバで稼ぐのも無理ですね…』

『そういうこと。C√PCだからといってギルドに所属していない保証はないし、外見で所属ギルドを判別する方法もないから…、基本的に無所属のキャラを狙うのは博打でしかない。おとなしく殺されてくれる知り合いでもいない限りは狙えないな。まぁC√に入る方法はいろいろあるから、攻略サ…』


 その時、たまたま近くを歩いていたプレイヤーと目があい、相手は慌てて視線をそらした。


『ん? どうしました??』

『あぁ、俺としたことが、のんびりしすぎたようだ』

『はい?』


 周囲を見渡せば、何人かのプレイヤーが横目でコチラを確認している。


 どうやら俺は気が緩んでいたようだ。久しぶりの"人族"と言うこともあるが、それでも上を目指す者として、これはいただけないミスと言えよう。


『移動するぞ。そこのカドを曲がったら直ぐにログアウトしろ。それまではシステムを操作するな』

『え? どうしたんですか!?』

『いいから、早く来い』


 俺はスバルの手を引き、物陰に連れ込もうとするが…。


「ちょっとまった。残念だったな、いくらベテランPKでも、そんな素人をつれてちゃ足手まといってもんだ」

「まぁ、気づいたのはすげぇと思うけどな」

「フッ、返す言葉もないな」


 行く手を阻むPCが2人、無言だが後ろにも2人。完全に取り囲まれてしまったようだ。


「悪いが、おまえら2人にはココで死んでもらう。恨むなら、のんきに初心者とクッチャべっていた自分の愚かさを呪うんだな」


 長めの剣を抜く音が4つ。相手は店売り装備だが防具スロットも埋め終えているようだ。


 絶体絶命? 四面楚歌? 前門の虎後門の狼ってのもあったっけ?




 つまるところピンチなわけだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る