#003(1日目・午後・セイン)

「そうそう、うまいじゃないか。それ、そこだ!」

「うぅ~、"セイン"さんも手伝ってくださいよ~」

「"さん"はいらん」

「今はそういうの…、ぴぎゃ!」


 巨大な緑の蛇の突進で見事に吹き飛ばされるスバル。


「おいおい、死んだら、またアルバから歩きだぞ?」

「セインの鬼ぃ~」


 俺はたまたま知り合った初心者プレイヤーの"スバル"とPTを組み、中立都市クルシュナを目指していた。


 L&Cは作成したキャラの体格が一部ステータスに反映される。スバルが考えてキャラメイクしたかは知らないが…、中性的で小柄な男性アバターを使っており、回避や魔法で戦うスタイルに適性がある。


 とは言ってもゲーム開始当初は、アバターに大した個性はだせない。最初に支給された[ナイフ]と[麻の防具]で道中に出現するザコを狩りながらドロップを集め。それを元手に攻略をすすめていくことになる。


 そうこうしている間に、スバルはなんとか緑のヘビの魔物"グリーンスネーク"を撃破した。


「おつかれ。ドロップは忘れず拾えよ」

「うぅ~。ちょっとくらい手伝ってくれたっていいじゃないですか。危うく死ぬところでしたよ~」


 見ればスバルのHPは残り2割まで減っている。あと1発くらっていたら、本当に死んでいただろう。


「C√はPTメンバーでも気を許せない。今からソロで戦うのになれておけ」

「はい…、でも、倒せるものですね。あんな大きなヘビ。普通じゃ絶対に倒せないですよ」

「普通ってリアルのことか?」

「あぁ、すみません。多分その意味であっています」


 スバルはネットゲーム自体が初心者なので時々専門用語が通じないが…、それが何だか新鮮で、いっしょに旅をしていて楽しかった。


「グリーンスネークはヘビ系の魔物の中では最低ランクだから見た目のわりに弱い。毒攻撃もないし、攻撃できる範囲も限られるから、なれてくれば初期装備でもなんとかなる」

「それならせめて、お手本とか見せてくださいよ~」

「あまったれんな。っと言いたいとこだけど、まぁ俺も路銀は欲しいから、ちょっと見てろ」

「はい」


 俺は見つけたグリーンスネークの前に立つ。


「グリーンスネークはセミアクティブモンスターで、見つかってもすぐに襲い掛かってくることはないが…、こうして近づいて攻撃体勢をとると応戦してくる」

「はい!」


 敵AIの行動パターンは3つ。

①、ノンアクティブ。攻撃をするまで攻撃してこないパターン。知覚能力の乏しいものや温厚な種族が多いが、難易度が上がるとほぼ出現しなくなる。


②、アクティブ。知覚範囲に侵入したユニットに対して即座に攻撃する。魔物同士でも種族が違うと攻撃しあう。高難易度の魔物は一部の例外を除いてコレに該当する。


③、セミアクティブ。一定以上近づく、あるいは知覚範囲内で戦闘体勢をとるなど、種族によって条件は異なるが、知識さえあれば無用な戦闘を回避できる。


「隠蔽スキルや中・遠距離装備なら、そのまま先制してもいいが、今は[ナイフ]しかないから…、まずは相手の攻撃してくるのを待つ」

「え?」


 グリーンスネークは頭をわずかに後ろに引き、そのまま口をひろげて<噛みつき>を仕掛けてくる。


 俺はその攻撃を半歩下がって回避して…、そのまま突き出されたノドに[ナイフ]を突き刺す。


「こんな感じで喉のあたりを攻撃するとクリティカルダメージも加わって簡単に倒せる」

「おぉ~」

「ちなみにコモンドロップは[ヘビの皮]と[ヘビの牙]、アンコモンは[魔石]、レアは[グリーンスネークの魔結晶]だな」

「こもん?」

「レアリティのことだ。かなりバラツキはあるけど基本的にコモンは60%前後、アンコモンは30%から1%程度、レアになると小数点以下の世界で…、最低確率は0.01%だな」

「うぅ~、1つ聞いたら分からない単語が増えました」

「まぁ今はそれほど重要じゃないから覚えなくていい。今はとりあえずコモンドロップを20個か、アンコモンを2個集めることを目指せ。それで途中の"商人のキャンプ"でクルシュナへの"転送サービス"が利用できる」


 アルバからクルシュナまでの道のりは魔物を無視したとしても…、なんとリアル時間で徒歩2時間の道のりだ。当然、バカ正直に歩いていては時間の無駄だし、多少強い魔物が出現するポイントもある。半日かけて歩いて、途中で死んだら目も当てられない。


 救済措置として、各地には要所を結ぶ転送サービスが配置されており、お金を払うことで対応した場所まで瞬時に移動できる。


 俺たちは道すがら出現する魔物を倒し…、なんとか死ぬことなくキャンプ地に到着した。


「お、あれだあれだ。やっぱりバージョンアップしてもそのままだったな」

「え? もしかしてあるかどうか…」

「知るわけないだろ? 今日が初日だぞ。とは言っても、このへんの基本システムはL&Cの初期バージョンから殆ど変更されていない。L&Cはそういう無駄な変更はしない硬派なゲームなんだよ」

「はぁ…」


 いまいち理解できていない表情のスバル。まぁ他を知らないなら仕方ないが…、L&Cは他のゲームと違ってアップデートが入っても大きな仕様変更はされない。大抵は季節限定イベントかシステム面の最適化だけで終わる。


 そう言った部分を手抜きだと言う人もいるが…、実際のところ、多くのMMOでは"イベントの追加"よりも"基本システムの最適化"を願う声が多く上がる。常に新しい課金要素を出し続けなければいけないアイテム課金だとそうもいかないが…、月額課金のL&Cでは、客引きや一時的な収益よりも、迷惑行為への対策やシステム面の安定化をとことん重視する運営方針となっている。


 アイテム課金制ゲームは、その弊害として、多額の課金で手に入れた最強装備が、次のイベントではいきなりゴミになりさがるなどの暴挙が平然と起こる。確かにガチャを回すのは面白いし、それを話題にして仲間とワイワイやるのも楽しいが…、結局そういうゲームは一時的に話題になっても、すぐに飽きてしまったり、ゲーム性の変化についていけなくなるユーザーが増えていく。


 L&Cは、あくまで玄人ゲーマー向けの硬派な仕様を売りにしている。だから集まったユーザーも課金ゲームに飽きた廃人ゲーマーがほとんどだったりする。


「ほら、あそこの"NPC"に話しかけるとアイテムを換金できる」

「えぬぴーしー?」

「ノンプレイヤーキャラの略だ。AI制御で決まった受け答えしかできない自販機で…、逆に人が操作しているのはプレイヤーキャラ、通称"PC"だが、これはパソコンとダブるから、アバターとかキャラと呼ぶ人もいるな。厳密に言うとどれも違う言葉だが、まぁ、ほぼ同じだと思って問題ない」

「なるほど…」


 商人のキャンプ地では、ちょっとした消耗品の販売と転送サービスが利用できる。一応クエストで来ることもあるが…、C√だとあまり関わることはないだろう。


「えっと、出来ました。所持金は…、2632円ですね」

「円じゃねぇ。まぁどうでもいいだろうが、この世界のお金の単位は"n"でナールってよむが、そもそも通貨が1種類しかないから省略する場合がほとんどだな。あと大抵は千の単位を"k"と略して2.6kと呼ぶ。100万(1,000,000)だったら単位は"M"だな。現実と違って紙幣や硬貨がないからな。"カンマ"の位置で金額を確認するのが一番ラクで間違いが少ないんだ」

「なるほど…」


 どうしてもC√は殺伐とした雰囲気になることが多いから、こういった初心者レクチャーは新鮮な気持ちで楽しめる。まぁ回数を重ねると面倒になったり、トラブルで嫌になるのだが…。


「さぁ、さっさと行くぞ。あそこの馬といっしょにいるNPCが転送サービスだ。先に行くぞ」

「わわわ、まってくださ~い」


 転送サービスを使用すると専用ムービーが流れ、10秒ほどで目的地に移動できる。


 余談だが、アルバとクルシュナは徒歩だとリアル時間で2時間の道のりだが…、ゲーム内のNPCは"馬車で3日の距離"と発言する。公式では明言されていないが、距離の縮尺は40分の1に設定されているという説が有力で…、この設定を覚えておかないとNPCとの会話が成立しないクエストが存在する。


 そんなことを考えているとムービーは終わり、クルシュナの西門に到着した。


 クルシュナは商人の街で、王都アルバに比べれば敷地面積は狭いが、商人系のNPCが多く配置されており、店に並ぶアイテムも充実している。リアルなら王都の方が品ぞろえがよさそうなものだが、そこはゲーム。地域によって売っているアイテムがガラリと変化する。


「えっと、セインさん」

「おい、"さん"をつけるのはやめろ。あとオープン会話で名前を言うな」

「す、すみません。でもなんでダメなんですか?」

「それはそのうち嫌でもわかる。とりあえず"会話オプション"で"発言範囲"を切り替えるクセをつけろ。『こんなふうにな』」

「は、はい」


 L&Cのキャラネームは常時非表示になっている。このゲーム…、特にC√はそういったところにも気を使う必要があるからだ。


『それでだ、あそこの兵士に話しかけて"リスポーン位置の登録"をしろ。そうすれば死んでもココから再スタートできるから』

『はい。  …えっと、たぶん出来ました』

『そうか。まぁ失敗しても歩き直せば済む話だ』

『はぁ…』


 俺はスバルの話を聞き流しながらコンソールを操作して設定を変更する。


『それじゃあ改めて、おめでとう。ここがクルシュナだ』

『はい! 案内してくれて助かりました!』

『いいってことよ。それじゃあ…、おつかれさま。最後にちょっと後ろを向いてくれる?』

『え? こうですか?』

『そうそう、そんな感じ』


 ぶすっ!


「へ?」


 俺は初期装備の[ナイフ]を…




 スバルの背中に突き刺した。

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