2ページ

「え、子供さんいらっしゃるんですか?」

 つい大きめのリアクション。うそ、それは知らなかった。もしかして俺が思っているよりももっと年上なのか・・・? 

「ふふ、見えないかしら」

「えぇ見えません」

 十歳も変わらないと思っていたし、若くて綺麗だから結婚はしていないものかと。生活感とか全然見えないし。それに夜遅い仕事だし。

「確かに仕事が終わるのは遅いけれど、もう手のかかるような子はいないし、一人だからどんな時間に働いてもいいかなと思って」

「え?」

 手のかかるような子がいない? 一体子供さんって、アイラさんっていくつなんだよ?

「ふふふ、どうにか大学は卒業させて、今は頑張って働いているのよ。女手一つだったからどんな子に育つかと思ったけど、とても良い子でね。彼女が居ないのだけが難点で」

 こんなに若くて綺麗なお母さんがいるから他の女の子には目がいかないんじゃ? しかもその上女手一つで大学まだ出してくれるような自慢のお母さんだろうし。

「それはないでしょう、一応彼女が居たこともあるし。今は仕事が何よりも楽しいみたい」 

 そうやって笑う彼女は、確かにお母さんの表情だった。今まで見せたことが無かった、いや、俺が気付いていなかっただけかもしれない。こんなにも優しいお母さんの顔を持っていただなんて。

「苦労を掛けて来たのに、良い子に育ってね。今度は私を養ってあげるとか言い出して」

「それは良い子供さんですね」

「え、いやよ」

「んっ」

 予想外の返事にちょっと固まってしまった。だってそんなこと言える子って少なくない?「養ってもらう気はないの、これからは私一人で楽しく生きていくんだから。私の自分勝手に文句を言われたくないし、自分のことは自分でやらなくちゃね。だから私はこんな時間まで働いているの」

 一人で生きる自由が欲しいから?

「そう。それにいつお金が必要になるか分からないし。孫が出来ないとも限らないでしょう?」

 その顔はどこか嬉しそうで。柔らかに見えた芯は思っているよりもうんと強くて、なんだか恰好良かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る