真花

カゲトモ

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 花の金曜日、通称花金。それは俺たちバーテンダーにとっても花金なわけで。今夜も何度目かのベルが鳴る。

「こんばんはぁ」

「いらっしゃいませ、アイラさん」

 人当たりの良い笑顔でスツールに腰かけたのは優しげな目元が印象的なアイラさんだ。ふんわりと巻かれた長い髪にゆっくりとした話し方がその柔らかな雰囲気を醸し出している。

 彼女はビジネス街にある歯科クリニックの事務員をしていて、俺も半年に一回お世話になっている。ナース服姿のアイラさんはなんだかイケナイ雰囲気がある・・・なんてね。

「やっと金曜日ねぇ」

「お疲れ様です」

「ふーっふふ」

 首を回しながら吐いた溜め息は途中で微笑みに変わっていた。

「さっきまであんなに疲れていたのに、ここに座ったらそんなのどうでもよくなっちゃった」

 彼女は少女のように笑いながら「カミカゼで」とサラリとオーダーした。

柔らかな彼女に強いカミカゼが何ともマッチするなとオーダーされる度に思う。何も胸元を見て言ったんじゃぁない。彼女の魅力は胸だけじゃないんだから。

「はぁ、一週間の疲れが飛んでいくわぁ」

「お疲れ様でございました。クリニック、土曜はお休みなんでしたっけ?」

「えぇ、ビルの中にある歯科クリニックだし、周りの会社が土日休みだからうちも同じように休みにしていて。そのかわり夜遅くまでやっているから」

 アイラさんの勤めるクリニックの一番の売りは、夜遅くまで診療受付をしてくれるってところだ。最終受付は十時だし、先生は丁寧で優しいし、美人が多い。

「昔はこんなに遅い時間までやっている歯医者さんなんてなかったのにね」

「そうですよね」

「私達が子供の頃なんて、あっマスターに向かって私達、なんて」

 口元に手をやって彼女はその肩を揺らした。俺とじゃそんなに大して年齢は変わらないように思うけど。なんて思っていたのに。

「私の子供の方が、歳が近いんじゃないかしら」

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