富士登山 1
晩ご飯の時、姉ちゃんとの会話で、レオ吉くんの話題になった。
「レオ吉くんとプールに通っているけど、だいぶ体力が付いてきたみたい。今だと20メートルくらいは泳げるようになったよ」
「へえ、あのレオ吉くんがね。進歩したのね」
「そうだね。最初の頃のちょっとした登山で、筋肉痛になっていた時とは大違いだね」
最初の登山は、登った高さは40メートルほどで、距離だと250メートル程。登山とはとても言えないような高さと距離だ。
僕がこの話をしたら、姉ちゃんがこんな事を言ってきた。
「レオ吉くんを誘って、登山でもしてみる?」
「うーん。まだ登山は早いかも。ハイキングぐらいがちょうど良いんじゃないの?」
「それなら大丈夫よ。ちょうど、うちの旅行会社で、新しい登山旅行を打ち出す計画があるんだけど、モニターになってくれない? 旅費は会社が持つから、タダで良いわよ。もちろん、お友達も誘ってみてね」
「いいけど、どこら辺に旅行に行くの?」
「それはね、日本人なら一度は登ってみたい山よ」
姉ちゃんに日本人と言われて、僕は一つの山が思い浮かんだ。というか、一つだけしか思い浮かばない。
「姉ちゃん、それってもしかして、富士山なの?」
「そう、正解よ。こんどうちの会社が富士山旅行を売り出すの」
相変わらず、姉ちゃんはとんでもない事を言い出してくる。
そこら辺の低い山でもレオ吉くんには辛そうだ、富士山なんて絶対に不可能に決まってる。
「いや、レオ吉くんには絶対に無理だよ」
「大丈夫よ。うちの会社がサポートするから、お年寄りでも登れるわ」
「どんなサポートをするの?」
「富士山って、途中まで車で入れるのを知ってる?」
「うん。確か半分くらいまで入れるんだよね」
「そう、今でも5合目までは車で入れるの。でも、それだとお年寄りにはキツイから、8合目まで空飛ぶバスで送迎をする予定よ」
なるほど、それだと、残りの2割を登るだけで済む。
何とかなりそうだが、どうだろう? 僕は富士山の標高を思い出す。たしか3千メートルを越えていたような気がするのだが……
「姉ちゃん、富士山の標高ってどのくらいだっけ」
「ちょっと待ってね」
姉ちゃんは仕事で使う鞄から、タブレット端末を引っ張り出してきた。
タブレット端末で調べながら言う。
「ええと、3776メートルね」
「8合目ってどのくらいの高さなの?」
「およそ3000メートルだから、残りの776メートルくらいは自分で登らなければいけないわ」
776メートルというと、普通の山くらいはある。しかも標高が高いので、空気も薄いハズだ。
「姉ちゃん、レオ吉には、やっぱり無理じゃない?」
「そんなに心配しなくても大丈夫よ。サポートする装備があるからね」
姉ちゃんは
「姉ちゃん、それって宇宙人の技術を使った装備品?」
「もちろんそうよ。お年寄りだって、らくに登山が出来る装備なんだから」
そう聞いて、僕は一つの装備品を思い出した。その装置で合っているのか、姉ちゃんに確認してみる。
「それって、もしかして、重力をコントロールできる宇宙服?」
あの宇宙服は、気密性が高いので、高い標高でも気圧を維持できる。
重力を操って、空も飛べるので、登山だって思いのままだろう。
そう考えたのだが、答えは違ったようだ。
「うーん、アレね。実はあの宇宙服でテストをやってみたんだけど、あんまり評判が良くなかったのよね」
「えっ、そうなの? あれ以上の性能は無いんじゃないの?」
「いや、まあ、テストをしてくれた人達は、性能が申し分ないのは認めてくれたんだけど。あの服を使って山を登っても、達成感がまるで無いって言われちゃってね」
「ああ、うん。楽すぎて達成感は出ないだろうね」
「あと、気密性の関係でガラスに覆われるのもいけないみたい、山や森の空気を全く感じられないって言われたの」
「……そうだね。アウトドアって感じは無くなるね」
「そこで、もうちょっとカジュアルな感じの装置にしたのよ。お手軽に使えるような感じにね」
「ソレを使えば、レオ吉くんでも富士山に登れるの?」
「うん、多分だけどね。試して欲しいの」
「分ったよ。ちょっとレオ吉くんとみんなに連絡を取ってみる」
「よろしくね」
この後、レオ吉くんに話をすると、とても乗り気でOKをして来た。
他のみんなも、すっかり富士山に登る気になったようだ。
日程を調整して、後日、僕らは富士山に挑む事になった。
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