人工温泉 4

 僕らはロボットに連れられて、『カスタム温泉』の案内板の前に来た。

 案内板には、様々な効能の一覧表がある。その数はザッと見て50種類くらいだろうか。


 どれにしようか迷っていると、ジミ子が一覧のある部分を指しながら言う。


「『美白の湯』とかもあるのね。最近、プールで日焼けしたからちょうど良いかも」


 普通だと『美白』という名前が付いていても、温泉に入っただけで肌の色が白くなる事は無いが、ここは宇宙人の技術を使った温泉だ。本当に白くなっても不思議ではない。


「こっちに正反対の温泉があるぜ」


 そういってヤン太が一覧の一部を指さす。


「『美白』の正反対ってなに? どんな効果なの?」


 僕が不思議に思い、ヤン太が指をさした部分を見てみると、『日焼けの湯』と書かれていた。


 温泉に浸かるだけで日焼けをするとは、いったいどんな薬品が入っているんだろうか……


 やはりここは慎重に選ぶ必要がありそうだ。他にも『激太げきぶとりの湯』や『マッチョの湯』といったヤバそうな効果の温泉がある。



 僕が色々と悩んでいると、キングがあっさりと温泉を決めた。


「俺はコレでいいや『目の疲労回復の湯』。ゲームをやってると目が疲れるからな」


 ロボットに注文をすると、簡単な説明がされる。


「『目の疲労回復の湯』デスネ。このお湯は目を閉じてもらう必要がありマス。入浴時間の設定は3分でヨロシイでしょうか?」


「ああ、うん。それでいいぜ」


「デハ、こちらにドウゾ」


 ロボットに案内をされて、キングは個人専用のバスタブへと誘導された。

 どんな事をされるのか、僕らはその様子を見守る。



 ロボットはバスタブに誘導した後に、いくつか道具を持ってきた。

 まず手のひらに収まるような、とても小さな容器を取り出す。


「目薬をさします。バスタブに入って、目を開けてください」


「おう、分った」


 キングはバスタブに入り、上を見上げると、ロボットは目薬をさした。

 つづいて蒸しタオルを取り出す。


「デハ、タオルをかぶせて、上からお湯をかけマス」


 キングの目の上に蒸しタオルを置くと、ジョウロを取り出して来て、さらに上からお湯をかける。

 お湯にも何か薬品が入っているみたいだ、薬草をせんじたような、ちょっと変な匂いがした。

 湯気が出て、けっこう熱そうだが、キングは気持ちよさそうにジッとしている。



 そして3分後、蒸しタオルを回収しながらロボットが言う。


「終了デス。どうでしょうか?」


「ああ、すげぇスッキリした。これは良いな、また来るぜ」


 満足そうに言うキング。

 この銭湯に来るには、電車とバスに乗り継いで、時間と費用が掛かるのだが、どうやらそれだけの価値があるらしい。



 キングの番が終わると、次にミサキが入ると言いだした。


「『ダイエットの湯』ってあるじゃない。私はコレに入りたいわ」


「まあ、そうだな。腹回りがそれじゃあ必要だな」


 ヤン太がそう言うと、ミサキが反論する。


「ちょ、ちょっと失礼ね。そこまでは太ってないわよ」


 すると、ジミ子がちょっとからかうように言う。


「太ってないなら、他の温泉にしてみれば?」


「きょ、今日は、なんだかこの温泉に入りたい気分なの。たまたまだけどね、なんとなくだけどね」


 このやり取りを聞いて、ロボットの従業員が確認をしてくる。


「『ダイエットの湯』でよろしいデスカ?」


「はい、それでお願いします。『ダイエットの湯』が良いです」


 ちょっと恥ずかしそうに言うミサキ。どうやら『ダイエットの湯』という選択は外せないらしい。



 ロボットはミサキ専用のバスタブに行き、入浴剤を入れる。

 入浴剤をいれると、お風呂のお湯は白く濁った。


 ロボットがお湯をかき混ぜながら、ミサキに言う。


「入浴して下サイ」


「わかったわ、えいっと。入ったけど、普通のお風呂と変わらないみたい。これで痩せられるのかしら?」


 不思議な顔をするミサキに、ロボットがこう言った。


「これは電気風呂です、電流の量を今から調整しマス。コレが『中』ですが、どうでしょうか?」


「うわ、ビリッときた。けっこう痛いけど、電流の量が強い方が痩せられるの?」


「ハイ。強さに応じて効き目が違いマス」


「じゃあ『最強』にしてちょうだい」


「時間の設定は標準の3分でヨロシイでしょうか?」


「倍の6分でお願い。耐えてみせるわ!」


「了解しまシタ。それでは始めマス」


「あいた、痛っつ、ぐぅわぁ」


 定期的に電気が流れるようで、そのたびにミサキが叫び声を上げる。

 かなりうるさいが、僕ら以外には他のお客さんが居ない。周りに迷惑が掛かっていないので放っておく事にした。



 僕たちは再び温泉の一覧表を眺める。すると、レオ吉くんにピッタリの人工温泉があった。


「レオ吉くん『筋肉痛回復きんにくつうかいふくの湯』ってあるよ。コレが良いんじゃない?」


「そうですね、ちょうど良いです。ボクはこれにします」


 そんな話をしていると、ジミ子がある疑問を口にする。


「これ、カロリーが摂取できる『疲労回復の湯』と何が違うのかしら? 『疲労回復の湯』だったら無料で浸かれるじゃない。同じだったら、わざわざこっちに入る必要は無いと思うけど?」


 その質問にはロボットが答えた。


「違いマス。『疲労回復の湯』はカロリーの補給が効能ですが、『筋肉痛回復の湯』は筋肉のコリをほぐすのと、血行の改善、疲労物質の除去が効能となりマス」


 それを聞いて、さらにレオ吉くんがロボットに質問をする。


「肩こりとかにも効きますか?」


「ハイ。肩こりにもオススメです」


 肩こりにも効果が出てくると聞いて、僕も興味が出て来た。女性になってから、僕は肩こりが酷いからだ。


「じゃあ、僕も『筋肉痛回復の湯』にしようかな」


「デハ、こちらにドウゾ」


 ロボットに連れられて、僕とレオ吉くんが個人用のバスタブに誘導される。

 肩こりは一般的な温泉の効能にもよくある物だ。とても無難ぶなんな選択だろう。

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