ロボット刑事

 新聞のテレビの番組表を見ていると、気になる番組が目に入る。

 テレビ都京ときょうで放送される、ロボット刑事デカという1時間枠の刑事ドラマだ。


 このドラマは、新番組らしく、紹介の記事が載っていた。


『タイトル通り、ロボットが主役の新ドラマ。宇宙人が来訪後らいほうごの、現実に基づいたリアルな警察を描いた作品』


 そんな紹介文が書かれていた。主役のロボットも気になるが、『リアルな警察』というフレーズがとても気になった。一体どのような刑事ドラマなのだろう?


 僕はとりあえず、この番組を見てみる事にした。



 放送の時間が近くなり、テレビをつけて、この番組が始まるのを待っている。

 やがて『ロボット刑事』という何も飾り気のないタイトルが表示され、番組が始まった。


 冒頭のシーンでは、刑事役でおなじみの丙藤剛志へいとうたかしが出て来て、若い部下らしき人物に状況を聞き出す。


「今回の殺人未遂事件の概要がいようを説明してくれ」


「はい、被害者は自宅の玄関で刺されています、包丁くらいの刃物で、ひと突きですね。死んでもおかしくないような深手でしたが、宇宙人の緊急処置で一命は助かっています」


「なるほど、被害者から事情聴取じじょうちょうしゅは取れたのか?」


「いえ、まだ集中治療室に入っていて、聴取が取れる体調ではありません」


「分った。では我々は出来る範囲での捜査をしよう。A班は現場周りの監視カメラのチェック、B班は周辺住民から聞き込み、C班は被害者の人間関係を洗ってくれ。もちろん、現場の鑑識かんしきも頼む。恨みによる犯行と、物盗りの犯行、両方の可能性を考慮して、捜査に当ってくれ!」


「「「了解しました!」」」


 ここでロボット刑事デカが出てくるかと思ったのだが、普通に警察の捜査が始まった。



 A班は、監視カメラの情報をあたる。周りに設置されている監視カメラを洗い出し、その映像をチェックする。

 しかし、現場付近に監視カメラは無く、有力な情報は得られなかった。


 B班は、近隣の住民から、ひたすら聞き込みをする。玄関のチャイムを押し、ひとりひとりと話して、何か変わった事がないかと訪ねて歩き回る。

 地道な捜査だったが、特に情報は出てこなかった。


 C班は、人間関係を探っていく。すると、捜査線上に二人の人物が上がった。

 一人は職場の直属の部下。もう一人は別れた元恋人。


 職場の直属の部下は、あまり優秀でない人物だったらしく、職場で被害者によく叱責しっせきされていたようだ。逆恨みの犯行が考えられたが、当日のアリバイがあり、容疑者から外れた。


 元恋人は、すっかり被害者の事を忘れて、新しい恋人を見つけていた。念の為、当日のアリバイを確認したが、こちらもちゃんとしたアリバイがあり、やはり容疑者から外れる。


 番組が始まってから30分ほど時間が過ぎたが、ここまでの捜査の進展は全く無い。テレビはCMに入った。



 CMが空けると、女優の沢回靖子さわかいやすこが出て来た。

 どうやら警察の鑑識かんしきを務めているらしい。


 慣れた手つきで現場の指紋を採ったり、証拠になりそうな変わった物の鑑定をしている。

 その映像の描き方から、おそらく優秀な人物なのだろう。しばらくして、鑑識のシーンが終わると、結論が出たようだ。責任者の丙藤剛志へいとうたかしに、結果を報告をする。


「残念ながら、特に変わった物は出ませんでした」


「そ、そうか。参ったな……」


 鑑識のシーンは15分ほどあったのだが、まさかここまできて手がかりがゼロだとは……

 この番組はどうなるのだろう? そう思っていると、またCMに入った。



 CMが空けると、捜査本部に全員が集まっているシーンだった。

 これまでの情報を改めて復習する。


 一つ一つを丁寧に確認するが、やはり有力な情報は出てこない。


 すると、誰かが丙藤剛志にこんな事を言う。


「こうなったら、宇宙人の情報に頼るしかありません。ロボット刑事デカ要請ようせいをしましょう!」


 丙藤剛志はしばらく悩んでから、決断をする。


「そうだな。このままでは事件は迷宮入りだ、ロボット刑事の要請をしよう!」


 そういって、どこかに連絡を取ると、すぐにロボットがやって来た。



 番組が始まってから50分が過ぎている。この番組は1時間なので、残りの時間は10分を切っている状況だ。


 おそらく今週は『導入編どうにゅうへん』で、ロボット刑事が登場するまでを描き、来週は『解決編かいけつへん』で、事件の謎を次々と解決するのだろう。


 僕はそう思っていたが、番組は違った。

 ロボット刑事が出てくると、こんな事を喋り出す。


「話は聞いていまシタ。犯人は干代田区かんよだくに住んでいる次越満つぎこしみつるさんデス。空き巣で被害者宅に侵入シテ、偶然、被害者と鉢合わせしたので、反射的に刺しまシタ」


「よし! 総員、逮捕に向うぞ!」


「「「おう!」」」


 全員で犯人の自宅に押し寄せて、あっさりと逮捕をする。

 ちなにみ証拠もロボット刑事が押さえているらしく、裁判のシーンでは、あっさりと有罪が確定した。


「これで正義が守られたな」


「ええ、平和が一番ね」


 丙藤剛志と沢回靖子が最後に番組をまとめて、ドラマは終わってしまった。



 ロボット刑事が出て来て、一分も経たないうちに、事件が解決した。

 前半の捜査のシーンは、一体何だったのだろう?


 色々と納得が行かないドラマだったが、僕はふと思い出す。

 番組の宣伝に『リアルな警察』というアピールがあったのだが、実際の警察も、こんな感じで、宇宙人に頼り切りなのだろうか?

 そうだとしたら、現在の刑事という職業は、とても楽な仕事だと思う。

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