DNA劣化修復薬 4

 姉ちゃんがスペースコロニーを作るとか言い出した。

 宇宙人の技術なら簡単にスペースコロニーも作れるハズだ、どんな物が出来上がる予定なのか、とても気になる。


「姉ちゃん、スペースコロニーは、どういった形で、どのくらいの規模で作られるの? 設置場所はどこ? 完成するのは、どのくらい先?」


 次々と質問を浴びせると、眠たそうな目で、こう答える。


「ちょっと待って、そんなに一度に質問しないで、ひとつずつ答えるから」


 そう言って、姉ちゃんは残ったお茶漬けを一気に口の中に放り込んだ。

 さて、どんなスペースコロニーが出てくるのだろうか。



「ええと、まずは形から答えましょうか。スペースコロニーの形は、用途と目的によって色々とあるみたいなの。効率だけ見ると、チーフ宇宙人の母船のような、球状が良いみたい。ただ今回は、閉塞感の問題があるから、開放感のあるタイプを選んだのよ。チューブのような輪っかのタイプ、ちょうど丸形の蛍光灯みたいな形ね」


 丸形の蛍光管と聞いて、僕はレトロなスペースコロニーを思い浮かべる。

 中心には軸がありコマのように回る。輪っかの周りには、潜水艦のような丸窓がついていて宇宙を見渡せる。この形は、SF小説などでは定番の形だろう。


「ひとつのコロニーには、どのくらいの人が住めるの?」


 僕は姉ちゃんに質問をする。

 おそらくこのタイプだと、100~200人くらいが限界だろう。そう思っていたのだが、想定外の数字が返ってきた。


「後から拡張もできるんだけど、とりあえず10億人くらい住めるみたいね」


「じゅ、10億人……」


 僕は言葉を失ってしまう。相変わらず宇宙人のスケールは桁違いだ。



「10億人が住めるなんて、どんな大きさか想像出来ないんだけど……」


 僕が聞くと、指でグルグルを輪を描きながら、姉ちゃんが答えてくれる。


「あー、えーとね。イメージ的には土星の輪っかに近いかな。惑星の赤道上の外を、グルッと取り囲む形で建設する予定なの」


 姉ちゃんの答えにめまいを覚えた。確かに地球を取り囲むくらいの長さがあれば、10億人だって住めるだろう。



「そのスペースコロニーって、本当に建築するの?」


「ええ、もう指示をしたから、工事に入っているはずよ」


「出来たら昼間でも見えるかな?」


 僕は青い空に浮かぶ、一筋の銀色の線を思い浮かべる。

 小さな人工衛星が肉眼で見える事もあるのだから、このバカでかいスペースコロニーが見えないハズが無いだろう。


「いやぁ、昼間はちょっと無理かな。金星に作る予定だし」


「……ああ、そうなんだ、金星にね」


 またしても予想外の答えが返ってきた。



 あまりのスケールに、頭があまりついてきてないが、それでも僕は質問を続ける。


「なんでまた、金星に建設するの?」


「だって、ほら、地球に建設したら、一部の環境に過剰な人たちから『地球の資源を勝手に使って、スペースコロニーを建設するな』とか、『スペースコロニーが出来たせいで、日当たりが悪くなった』とか、文句を言ってきそうじゃない」


「あっ、うん。確かに言いそうだね」


「それに、地球の資源を使って建設しようとすると、それなりに資材を購入するお金が必要よ。金星だったら、ありとあらゆる資源を勝手に採掘しても怒られないし、お金も払わなくて良いからね」


 姉ちゃんが親指を上げて、笑顔で答える。

 まともに寝ていないせいか、言ってる事に現実味が全く無いせいか、その笑顔は僕を不安にさせた。



 僕は気分を変える為に、スマフォでちょっと金星のデーターを調べてみる。

 データーでは、地表での気圧は地球の92倍、気温は460度、それに硫酸の雲まで有るようだ、とても暮らせそうに無い。

 しかしスペースコロニーとなると話は別だ。過酷な地表に留まる必要は無いし、おそらく火星同様の快適な暮らしが出来るだろう。


「金星かぁ、凄い事になっちゃったね」


 僕がつぶやくように言うと、姉ちゃんが深く頷きながら答えた。


「そうね。『美容』の相談から、こんな話になるとは思わなかったわ。『美容』なんて、大した問題じゃないから、適当に対策を決めたのがマズかったかもしれないわね」


「えっ! 適当に決めたの?」


「そうよ。正直に言って、今回のテーマはどうでもよかったのよね。私もレオ吉も、そこまでお肌を気にするような年齢じゃないし、ビールを片手に決めた政策が、こんな事になるなんてね……」



 『ビール』という驚くべき単語が出て来た。僕は姉ちゃんの言ったことを確認をする。


「……もしかして、お酒を飲みながら決めたの?」


「ええ、会社にお中元でビールが届いてね。それがまた美味しい地ビールだったのよ。普段はあまり飲まないレオ吉が、つぶれるほど飲んでね。その後、チーフと二人で話し合って、この政策を決めたはずなんだけど、いまいち覚えていないのよね」


 酔った勢いで『若返りの薬』の採用を決め、その結果、金星への人類進出という話になってしまったのだろうか?

 今回の決定は、人類の歴史に載るような、重大な出来事だと思うのだが……


「さてと、ご飯も食べたし、タップリ寝ましょう。今日は仕事が休みだから、起こさなくてもいいわよ」


 そういって姉ちゃんは、フラフラと自分の部屋へと歩いて行く。



 姉ちゃんが居なくなった後、テレビをつけると『若返りの薬』の普及という、偉業いぎょうに対して、ありとあらゆる人達が、褒めたたえていた。

 老人、おばさん、いつもは批判的なコメンテーターまで、賞賛しょうさんを惜しまない。ある専門家は、『ノーペル平和賞』最有力候補とか言っていた。


 ……世間は姉ちゃんを持ち上げすぎではないだろうか?

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