植物園レポート 2
順路どおりに植物園を巡っていると、銀色のドーム状の建物が現われた。
大きさは体育館ほどはあるだろうか、温室と違って、この建物には窓が一切無い。入り口の自動ドアがあるだけだ。
間違いなく宇宙人の技術を使った建物だろう。
建物に近づくと、入り口には看板が置いて有る。
『マイナス2ヶ月館、ただ今は
「みずなしづき? なにそれ?」
ミサキは意味を知らないようなので、僕が説明をする。
「『みなづき』って言うんだよ。昔の日本のこよみの言い方で、6月の事だよ」
「ふーん、なんでそんな看板があるのかしら?」
ミサキはよく分っていないようだが、他のみんなは察しがついたみたいだ。
「まあ、入ってみようぜ」
ヤン太の一言で、僕らは自動ドアの中へと進み出す。
3つほど自動ドアをくぐり抜けると、僕らはドームの中に到着した。
ドームの中に入ると、入り口付近に赤や青や紫の
湿度はかなりあるが、気温は外と比べるとだいぶ過しやすい。
ここは、建物の看板にあった通り、今から2ヶ月前の、水無月の世界のようだ。
「紫陽花が綺麗ね」
ジミ子がちょっと花に見とれる。
「向こうにはキキョウやテッセンが咲いているぜ」
キングが少し遠くの鉢植えを指さして言う。
僕らはゆっくりとドームの中へと続く歩道を歩き出した。
歩道の周りには、手前に花の咲いている植物、その奥には木々が植えられている。
木も、花をさかせる桜や梅がメインのようだが、6月だと特に花を咲かせる事も無く、若い葉っぱが茂っているだけだ。
先へ進むと、紫陽花だけではなく、この時期に咲く様々な花が現われる。
キキョウ、テッセン、ユリ、ハナショウブ。比較的、どこにでも見られるような花ばかりだったが、僕らは季節外れの
やがてラベンダーが現われた時だ、ミサキが鋭く反応をする。
「これ、お菓子に使われているヤツよね、匂いで分ったわ。こんなかわいい花だったのね……」
紫色の、小さな鈴なりの花を見て言うと、ヤン太が少しからかった。
「そのままじゃ食べても美味しくないからな」
「た、食べないわよ!」
ミサキはとっさに否定したが、口元がすこし開いていたので、ヤン太が注意しなければ、やらかしていたのかもしれない。
15分ほど、この施設を散策して、僕らは外に出る。
8月の太陽は強烈だ、うだるような暑さに、ジミ子が文句を言う。
「外は熱いわね」
「確かに熱すぎるよね、もう一度、さっきの場所を見る?」
僕がそう言うと、キングがある場所を指さして言う。
「まだ新しい施設があるみたいだぜ」
キングの指先には、例のピンク色のドアが設置されていて、どこか別の場所へと繋がっているようだ。
「行ってみるか」
ヤン太がちょっと楽しそうに言う何があるのか僕も興味を引かれた。
少し足早に、僕たちは『どこだってドア』をくぐり抜けた。
扉を抜けると、そこは円形の広場の一角だった。
円形の広場には、等間隔に、他の場所へと通じる『どこだってドア』が開いている。
ドアの横には、それぞれ『プラス2ヶ月館』『プラス4ヶ月館』『プラス6ヶ月館』『マイナス4ヶ月館』という看板が立て掛けてある。他には銀色のモノリスのような物体があった。
僕らが出て来たドアを見ると、『マイナス2ヶ月館』と書かれている。
ヤン太が周りを見渡しながら言った。
「どうしようか? とりあえず順番に行くとするなら、次は『プラス2ヶ月館』だな。行ってみるか?」
「そうね、行ってみましょう」
ミサキに言われて、僕たちは別の『どこだってドア』をくぐり抜けた。
ドアの先は、全く別の植物園の中だった。
「どこだろう? ここは?」
僕が周りをキョロキョロと見ながら言うと、キングがスマフォを取り出して、位置情報を確認する。
「ここ、九州だぜ、千キロ近く移動したんじゃないか……」
「あっ、そうなんだ」
この新たな植物園にも、銀色のドームが建設されていた。
僕はコレを指さしながら言う。
「とりあえず、あの建物に入ってみる?」
「ああ、そうしようぜ」
ヤン太を先頭に、新たなドームの中に入る。
入り口には『プラス2ヶ月館、ただ今は
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