チャンネルプレアデス 3
宇宙人がチャンネルプレアデスを開局して、3日ほど経った。
このテレビ局は、徐々に視聴率を上げて行く。
視聴率が良い理由は、主に二つある。
一つ目は、短くまとまったニュースが好評らしい。世界のニュースと国内ニュース、それに天気予報がワンセットで、およそ30分ほどだ。そう言えば、夕方6時付近のニュースだと2時間とか、3時間近くある番組もあるが、これらは長過ぎて余計な情報が多い。見ていて飽きてくるのだろう。
二つ目は、リクエストがあれば、サブチャンネルで解説をしてくれる点だ。
分りやすくデーターを出して解説してくれるのだが、時々、とんでもない事を特集する。
この間の『チューリップを見る会』の特集が良い例だろう。あの後、汁元議員は入院したままで、姿を現していない。
この日はヤン太の家に集まって遊んでいた。
平日の昼間のテレビは、見るべき番組が無い。あるとすればテレビ
テレビをつけて、テレビ都京に合わせる。すると『
テレビを見ながらミサキが言う。
「あっ、私、この話は覚えてる。色々と調査をするんだけど、けっきょく謎が分らなかったのよね。それで、最後に冥探偵ポロアが『灰色の能力』というスキルを使って、被害者の死体をゾンビに作りかえて、犯人を噛ませて、犯人もゾンビになって終わるのよね」
「映画のオチを言うなよ。この映画は『灰色の能力』の使い方しか見どころが無いんだから。まったく面白くなくなったから、チャンネルをかえるぞ」
ヤン太が文句を言いながら、チャンネルプレアデスに切り替える。
チャンネルプレアデスにすると、お昼のニュースを流してる最中で、国内の政治の話題をやっていた。
「『チューリップを見る会』の問題デス。今日は
ロボットは相変わらず淡々と進行する。
そして、次のニュースに移ろうとした時だ、「ティロン、ティロン」と音がなり、字幕とロボットの音声でお知らせが流れた。
「説明責任の問題で、蓮船議員の国籍問題を追求して欲しい、というアンケートが殺到していマス」
蓮船議員は、ちょっと前まで二重国籍だと騒がれていた。
国会議員が、他の国籍なら大問題だと思うのだが、蓮船議員はこの問題をうやむやにして、真相を語っていない。おそらく、ごまかしている本人が「説明責任」と騒ぎ立てていたので、視聴者がイラッとしたのだろう。
これもサブチャンネルで特集が組まれるかと思ったのだが、違った。
「蓮船議員は、この前まで他国籍で、
あっさりと致命的な事実を言い放つ。
この様子を見ていたヤン太が、納得しながら言った。
「まあ、そうだろうな。問題が無かったら、ちゃんと公表するからな」
「これは、急病という理由で入院するだろうな」
キングがあきれた様子で言う。
「まあ、そうでしょうね。これで与党が2人、野党が4人目かしら」
ジミ子思い出しながら答えた。
宇宙人がテレビを放送し始めて、まだ3日ぐらいしか経っていないが、既にそのくらいの人数が入院している。
この後も、なにか事件が起きないかと、僕らはテレビを見ていたが、特に何も無かった。
経済のニュースに軽く触れて、野球とゴルフの結果だけを伝えて、天気予報に移る。
「時間が余ってしまいまシタ。お天気のニュースを長めに行ないマス」
ロボットのアナウンサーはそう言って、国内の天気予報を始めた。
全国の地図が表示され、各都市の上にはおなじみの天気のマークが並ぶ。今日はほとんどの地域で『晴れ、時々雨』の予報だった。
「全国の予報はこちらデス。最低気温と最高気温はこちら、
「あれ、もう終わり? 長めに天気をやるんじゃなかったの?」
ミサキが驚いた様子で言う。長めにやると宣言して、あっという間に終わった。
宇宙人のシステムでもミスはあるんだろうか?
そう思っていたら、次にこんな事を言い出した。
「続いて世界の天気デス」
世界地図が表示され、主要な都市の部分には、お天気マークが並んでいる。
ロボットは、世界の天気について説明を始めた。
「カルフォルニアのロサンゼルスは、晴れ、最高気温は29度デス」
「意外と熱くないんだな」
ヤン太がちょっと驚いた様子で言う。カルフォルニアといえば、
「南半球は、ただいま冬ですが、オーストラリアのシドニーの最低気温は9度、最高気温は18度デス」
「なによ、冬なのに全然、寒くないじゃない」
ミサキがちょっと不機嫌に言う。確かに18度だと冬より春に近く、とても過しやすい気温だ。
「イギリスのロンドンの最低気温は15度、最高気温は23度デス」
「今、夏よね? 夏をなめているの?」
ジミ子がキレながら言う。最高気温23度は、日本でいうと5月くらいだろうか? 真夏というのに羨ましい。
「もしかしてロンドンって、冬はとんでもなく寒いのかな?」
僕がそう言うと、キングがすぐに調べてくれた。
「一番寒い時期が、一月か二月くらいで、最低気温は2度、最高気温は10度だってさ」
「異様に低いわけじゃないね。日本の東京や大阪とそんなに変わらないのか……」
僕が感想を言う。こうして気温だけを見ると、日本は意外と過酷な環境なのかもしれない。
世界の天気に感心をしていると、テレビの中は、こんな中継場所に移っていった。
「こちらは月面の『動物ノ王国』の首都デス。本日は夏気温の設定で、最低気温は17度、最高気温は24度デス」
「こちらは火星の刑務所の前デス。こちらも夏気温の設定で、最低気温は18度、最高気温は26度デス」
「両方とも、過しやすそうだな」
キングが羨ましそうに言う。たしかに羨ましい。この気温なら、あまり動かなければ、冷房など要らないだろう。
世界の天気が終わり、今の時間は13時57分、14時までは残り3分。番組の終了時間が迫る。
ここで適当に意見をまとめて、また2時からニュースを最初から流す。僕はそう思っていたのだが、この番組は大きく違った。
テレビは次の中継場所に移動する。
そこはガラスで覆われた真っ暗な部屋の中で、ガラスの外には、これまで見たことのないような分厚い雲がうねりながら渦巻いている。時々、激しい
この部屋の中から、ロボットが中継をする。
「こちら木星からデス。本日の気温はマイナス139度と、ヒーターの欠かせない気温になっておりマス」
「「「木星だって!」」」
僕たちは思わず声を上げた。ロボットは、さも当然のように中継を続ける。
「今日の予報は、1メートル級の小惑星が17個、5メートル級の小惑星が6個、10メートル級の小惑星が一つ、衝突する予定デス。この中継場所は、10メートル級の小惑星の落下地点のすぐそばで、これから92秒後に小惑星が衝突しマス」
テレビカメラが外の景色をズームする。
分厚い雲の向こう側に、真っ赤に燃え上がっている、赤い点が映し出された。
「マジかよ……」「これから衝突シーンがみられるのね」
ヤン太とミサキが最前列でテレビをにらみつける。
「60秒を切りまシタ。間もなく……」
そこまで言うと、中継が突然切れた。
もしかして小惑星が衝突して、中継が途切れたのだろうか?
心配していると、テレビはスタジオに戻り、ロボットのアナウンサーがこう言った。
「14時になりました。お昼のニュースをお伝えしマス」
さも当然のように中継を打ち切って、普通の番組を流し始めた。
ミサキが悲痛な叫びを上げる。
「えっ、ちょっと、何で普通の番組が流れるの!」
ジミ子とヤン太も似たような悲鳴を上げた。
「さっきの続きを、なんで流さないのよ!」
「続きはどうなった!」
「そうだ、宇宙人にリクエストだ! サブチャンネルで中継の続きの放送をリクエストしようぜ!」
キングのアイデアで、僕らは慌ててリクエストを送る。
すると、番組内で「ティロン、ティロン」と音がなり、ロボットが告知をする。
「先ほどの木星の中継を放送して欲しいというアンケートが殺到していマス。これからサブチャンネルで木星の中継を行ないマス」
慌ててチャンエルを切り替えると、既に落ちた後だった。
「そんな……」
「歴史的、瞬間が……」
みんながガッカリしている様子をみて、何か出来る事はないかと考える。
ふと、僕はあるアイデアを思いついた。
「そうだ。衝突するシーンは録画していると思うから、リクエストをして、そのシーンを流してもらおう」
「それだ! みんなでリクエストを送るぞ!」
僕らは再び全員でリクエストを送る。
しばらくすると、この要望は、無事に通り、みんなでこの映像を見る事が出来た。
まあ、あのテレビを見ていた人は、誰しもがそう思ったのだろう。
映像は、素晴らしい映像だった。小惑星が落ちた瞬間、一瞬だけ、分厚い雲が晴れ、宇宙が見える。
木星は、毎日のように小惑星や彗星が落ちているので、このくらいは、よくある事らしい。心配は全く要らないと、ロボットが解説をしてくれた。
……しかし、あそこで中継を辞めるなんて、宇宙人はいったい何を考えているのだろう。地球人の常識が通じないのか、あの対応が宇宙の常識なのだろうか……
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