チャンネルプレアデス 2

 僕らがサブチャンネルに変えて、しばらくすると、『チューリップを見る会、特集番組』というタイトルが表示され、番組が始まった。


 ロボットのアナウンサーが現われて、こんな事を言った。


「始めに意識調査のアンケートを取りマス。テレビのリモコン、又はインターネット経由か、プレアデス・スクリーンからの解答をお願いしマス」


 ミサキが僕らに聞く。


「どれが楽かしら?」


「たぶん、プレアデス・スクリーンが楽なんじゃないか?」


 ヤン太に言われて、僕らはプレアデス・スクリーンを開いた。

 すると、光のスクリーンのメニューには『テレビ』というボタンが付いていた。それを押し、さらに『アンケートに協力する』というボタンを押し、僕たちは待機をする。



「初めの質問デス、あなたは『チューリップを見る会』に招待されたら、支持する政党や政治家を変えるでしょうか? アンケートは一分以内にお答え下サイ」


 ロボットがそう言うと、僕らのプレアデス・スクリーンには、質問の文章と『はい』『いいえ』というボタンが現われた。


「チューリップを見たくらいで、考え方を変えないわ」


 ミサキが迷わず『いいえ』を選択する。


「まあ、そうだな」「確かに、花を見せらたくらいじゃねぇ」


 ヤン太とジミ子も続いて『いいえ』を選択する。


「会場になる公園は、入場料がかかるらしいけど500円だってさ」


「500円くらいじゃ、ちょっとね」


 キングと僕も『いいえ』を選んだ。金額が全てではないが、500円くらいで心境しんきょうが変わるとは思えない。



 しばらくするとアンケートが集計され、結果が表示される。

『いいえ』が96パーセントで、『はい』が4パーセントだった。

 一部の人は変わるかもしれないが、やはり大半の人は、この会に呼ばれたくらいで支持政党を変えたりはしないのだろう。



「続いての質問デス。『チューリップを見る会』は税金が使われており、お金を使った票の買収という意見がありマス。そこで、仮にアナタの票の買収が行なわれるとしたら、幾らで投票権を売りますか? 金額を入力して下サイ」


「最低でも1万円くらいは欲しいわね」


 ミサキが1万円と入力する。


「俺は3万円くらいもらったら考えるかな?」


「俺は2万円でも良いかな。ネンテンドーのスウォッチライトが買えるからな」


 ヤン太が3万円、キングが2万円という値段をつける。


「ツカサはいくらなら良いの?」


 ミサキが僕に聞く。


「うーん。3万円くらいもらったら気が変わるかも?」


 そう言うと、ジミ子が含み笑いを浮かべながら、こう言った。


「あなたたち、そんな安い値段で良いの?」


 それを聞いてミサキが反応する。


「そう? 3万円ってそこそこの値段だと思うんだけど、ジミ子はどんな値段をつけたの?」


「私は10万円をつけたわ。そもそも票の買収って犯罪行為じゃない。このくらいもらわないと割が合わないわよ、口止め料も含まれるし」


 ジミ子の言う事も一理あるが、さすがに10万円は欲張りすぎだろう。こんな相場だと、政治家は破産してしまう。


 僕らが金額を入力して、少し時間が経つと結果が表示された。

 票の買収にかかる平均金額は『14627円』という数字が出た。

 確かに1万5千円くらいもらえば、その人に投票しなくてはならない気がする。



 アンケートを取り終わると、ロボットのアナウンサーは、いよいよ本題に入る。


「『チューリップを見る会』は、国会で半年以上、取り上げられている問題デス。この問題は二つの問題点を抱えていマス」


 そういってロボットは紙のテロップを出す。

 そこには『支持者への利益供与りえききょうよ』、『反社会団体との繋がり』と二つの点が書かれていた。


テロップを出した後、ロボットは一言つけ加える。


「他にも、ホテルの割引の問題などがありますが、料金の割引は合法でデス。法に触れない行為なので、この点は取り上げまセン」



 ロボットは引き続き、この問題の解説を続ける。


「『支持者への利益供与』については、『チューリップを見る会』の予算は5200万円デス、参加者は1万8200人なので、1人当り2857円デス。先ほどのアンケート結果を反映すると、2857円で票の買収に応じる人は、全体の0.6パーセントです。票の買収としては、ほとんど効果がありまセン」


 ひとりひとりは小額でも、合計では5200万円もの金額を使って居る。5200万円もの大金を、無駄に使ってほしくない。僕はこの点に関しては問題に感じた。


 そんな事を思っていたら、ロボットがこんな事を言う。


「この問題には、国会で67日もの討論が続いていマス。国会の費用は、一日辺りおよそ3億円なので、今までに200億円以上の費用が、この討論に使われていマス。この点を考えると5200万円の費用は、無駄とは言えまセン」


「はぁ? 200億円! 200億円使って、何も結果が出てこないってどういう事?」


 あまりの金額にジミ子がマジギレをした。


「まあまあ、落ち着いて」「とりあえず、麦茶を飲もうぜ」


 僕とキングが2人でなだめる。

 しばらくして、ジミ子は少し落ち着いてきた。

 チューリップを見る会は無駄遣いという批判もあるが、金額だけ見ると、確かにこちらの方がよほど無駄遣いだろう。



 僕らがジミ子をなだめている間にも、ロボットは淡々と番組を進める。


「『反社会団体との繋がり』について、ワレワレの調査で、反社会団体から首相への政治献金が発覚しまシタ」


 ヤン太が思わず声を上げる。


「おっ、マジかよ。大スクープじゃん」


「これが本当なら、総理辞任とか、議員辞職に発展するかもね」


 僕がテレビを見ながら言うと、ロボットは紙のテロップを取り出した。


「コレが首相への去年1年間の、反社会団体からの献金額デス」


 取り出したテロップには『6万5000円』と書かれていた。


「とても微妙ね」


 ミサキが率直な感想を言うと、ジミ子も似たような事を言う。


「そうね。一国の首相に対する献金額だと考えると、微妙すぎるわね」


 ロボットは続いて、こんな情報を言った。


「国会議員数は、衆参合わせて710人いマス。反社会団体からの献金額を、多い順番に並べると、首相の金額は563番になりマス」


 キングが思った事を口にする。


「本当に、すげぇ微妙だな。全体的にはもらってない方だな」


「そうだね。これで首相が議員辞職をする事態になったら、首相より額の多い562人も辞めなきゃおかしいね」


 これだけ国会議員が辞めることになったら、前代未聞ぜんだいみもんの出来事になるだろう。

 おそらくそんな事にはならないと思うけど……



 ロボットは続いて、用意された紙のテロップを出して言う。


「こちらが国会議員の反社会団体からの献金額のランキングになりマス。1位は『汁元しるもと』議員デス」


 ヤン太があきれた様子で言う。


「おいおい、嘘だろ」


「この人、首相に『説明責任をはたして下さい!』と、さんざん責め立てていた人よね。その人が不正をしてたなんて……」


 ジミ子もあきれながら言った。

 まさか不正を追及する人が、不正まみれだったとは……



 みんなであきれていると、「ティロン、ティロン」と緊急速報の音がなり、字幕とロボットの音声で、こんな告知がされた。


「『汁元議員』の反社会団体との関係を、解説して欲しいというリクエストが殺到していマス。この後に、『汁元議員と反社会団体との繋がり』という特別番組を放送しマス」


 僕らは引き続き、この番組も見たが、その内容はかなり酷いものだった。

『チューリップを見る会』なんて放っておいて、こちらの問題を追及するべきだと思った。



 この後、汁元議員は、その日のうちに急病にかかり、どこかの病院に入院したらしい。おそらく説明責任を果たす事は無いだろう。

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