チャンネルプレアデス 1

 改善政策の発表が終わった直後。僕らはキングの家に集合する事にした。

 キングの家には4Kテレビがあり、宇宙人のチャンネルを見るなら、綺麗な画面の方が良いだろうという話になったからだ。


 僕とミサキは、途中でコンビニに寄り、お菓子を買ってキングの家に向う。

 キングの家に着くと、僕らはリビングに通された。ヤン太とジミ子はすでに居て、もうテレビをつけて見ていた。


「宇宙人のチャンネルはどう?」


 僕がヤン太き聞くと、こう答える。


「ちょっとサブ局を見たんだが、まだ番組が出来ていないらしい。番組製作のアイデア募集のCMしか流れてなかった」


 ミサキがヤン太に質問をする。


「たしか、メイン局がニュースで、サブ局が、視聴者のリクエストがあった番組を作るのよね?」


「ああ、そうだ。とりあえずメイン局に切り変えるぜ」



 チャンネルを切り替えると、ちょうど番組の始まる所だった。

『チャンネルプレアデス ニュース』という、飾りも何も無いロゴが映し出されて、ロボットのアナウンサーが写しだされる。


「こんにちは、チャンネルプレアデス、お昼のニュースです。最初は世界のニュースから紹介しマス。まずはアメリカの大統領選挙に向けて、民住党みんじゅうとうの候補者選びの中間発表デス」


 テレビ画面には、アメリカの地図が映し出されて、各州の候補者の獲得票が表示される。

 今までに、よくある番組だと、政治に詳しい専門家を呼んで、解説や予想をするのだが、このチャンネルだとそういった事はしないようだ。あっさりと次のニュースに移った。


「続いて、イギリヌのEU脱退についてのニュースです。先日の国会で、次の内容の議決がなされまシタ」


 このニュースでも、議決された内容の紹介のみに留まっている。

 どうやら、予想や憶測や仮定などといった余計な情報は、徹底的に流さないようだ。


 この後も世界各国のニュースが放送されたのだが、淡々と事実のみを伝える短いニュースが続いた。



「思ったより普通だな」


 ヤン太が素直な感想を漏らす。するとジミ子はこう言った。


「そうね。例えば最初のアメリカの中間発表とか、宇宙人の技術があれば、正確な予想とかできそうじゃない、番組で流さないのかしら?」


 ジミ子の意見に、キングが反論をする。


「いや、正確な予想を出す事で、結果が変わってくるのを恐れているんじゃないかな。さっきの話だと、負けると分りきっている候補者に、わざわざ投票するヤツは少ないだろう」


 僕もこの意見に賛同する。


「そうだね。宇宙人の予想通りになると考えてしまうと、投票してもしなくても、結果が変わらないような気もするし」


「結果が変わらないなら、私は投票に行かないかな。めんどくさいし」


 ミサキがオヤツのポテチを食べながら言う。確かにそういう状況になれば、投票する人は減るだろう。

 宇宙人は、意外と考えてニュース番組を制作しているのかもしれない。



 アナウンサーのロボットは、海外のニュースを一通り紹介すると、次は日本の話題に移る。


「続いて国内のニュースに移りマス。国会では今日も『チューリップを見る会』の追求が行なわれまシタ」


『チューリップを見る会』とは、内閣総理大臣が主催で行なわれる、春にチューリップを見ようという会である。この会については、半年以上にわたって野党が追及を続けているが、真相はつかめていない。宇宙人なら、お金の流れもバッチリ掴んでいると思うので、この問題に対して終止符を打てるだろう。


「5時間ほど、野党は追及しましたが、特に進展はありませんでシタ。次のニュースです」


 あっさりと結果だけを告げて次の話題に移る。宇宙人は『チューリップを見る会』について、あまり興味が無いのだろうか?


 この後は、野球とサッカーの試合の結果発表が行なわれて、その後に今年の夏の気温と、夏野菜の出来の話題に移っていった。特に夏野菜に関しては丁寧ていねいで、畑の様子や、手軽に食べられるレシピの紹介などがあった。



「あのカボチャ、おいしそう」


 ミサキがテレビに映ったカボチャ料理を見つめる。ふっくらとしていて、たしかに美味そうだ。


「そういえば、『チューリップを見る会』については、あまり触れなかったね」


 僕が話題を振ってみると、ヤン太がこう答える。


「そうだな。時間にすると、だいたい10秒くらいか。夏野菜の特集の方が、はるかに長い時間を使っているよな」


「政治については関心が無いのかもね」


 ジミ子が感想を言うと、キングがこんな意見を言う。


「確かに短かったけど、一応、国内のトップニュースだったぜ。重要だとは思っているんじゃないか?」


 そう言われて、僕は答えが分らなくなってしまう。


「うーんどうなんだろうね? 何を基準に考えているんだろう?」


「他の局のニュースの順番を意識しているとか?」


 ヤン太がそれっぽい答えを言った。確かにそうかもしれない、他の局のマネをして『チューリップを見る会』をトップニュースにしたものの、伝えるべき内容はほとんど無かったなら、あの放送も納得が行く。



 この後もニュースは続く。

 黙々とニュースを読み上げているロボットを見て、ジミ子が言った。


「宇宙人がテレビを放送しても、あまり影響は無いかもね」


「そうだな。他の局と似たような内容だしな」


 ヤン太もうなずきながら答える。そんな事を言っていると、「ティロン、ティロン」と緊急告知の音が流れて、字幕と共にロボットがこんな事を言う。


「『チューリップを見る会』について、真相を追究して欲しいというアンケートが殺到していマス。10分後に、サブ局にて『チューリップを見る会』の特別番組を放送しマス」


「サブ局の番組の方が面白そうだな、時間が来たら切り替えようぜ、良いだろ?」


 ヤン太がみんなに意見を聞く。


「いいよ」「いいわよ」「いいぜ」「どっちでもいいわよ」


 みんなサブ局の方が、面白そうだと判断した。

 はたしてこの特別番組で、宇宙人はどのような内容を公開するのだろうか?

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