廃線レストラン 6

 終点の『様以駅さまいえき』近くになると、姉ちゃんが僕らに言う。


「ちょっと気になった点があって、確認しなきゃいけない事があるの。よければ付き合って」


「うん、まあ良いけど」


 そんな会話をしていたら、たまたま聞いていた丁Rていあーる北海道の社長さんが、興味を持ったらしい。声を掛けてきた。


笹吹ささぶきアヤカさん、確認しなければならない点とは、何ですか?」


「これは丁Rの社長さん、ちょうど良かった。出来れば知事もご一緒にどうですか、ちょっと観光に関わる話なんですけど?」


 それまで丁Rの社長さんと話していた北海道の知事にもお誘いをかける。


「いいですよ。一緒に行きましょう」


 知事からこころよい返事をもらい、列車は終着駅へと着いた。



「本日は曰高本線いだかほんせんのご利用、ありがとうございマス。終着駅の様以駅デス」


 ロボットの車内アナウンスの後、姉ちゃんが補足を言う。


「しばらくこの駅で停車します。再出発する時には駅の構内アナウンスをするので、あまり遠くには行かないで下さい」


 そう言い終ると、列車のドアが開く。

 鉄道ファンの人たちが、真っ先に降りて、再び列車の写真を撮り始めた。

 出発前にあれだけ撮っていたのに、まだ撮り足らないらしい。


 姉ちゃんと知事と丁Rの社長さん、それに僕たちは、まとまって列車を降りる。



 僕らは列車を降りて、駅の改札を抜けて、駅前の広場に出る。

 終着駅なので、多少は栄えているかと思ったが、そんな事はなかった。バス停とコンビニくらいしかない。


「思ったより、何もないな……」


 ヤン太がポツリとつぶやく。僕らたちだけに聞える様につぶやいたつもりだったが、丁Rの社長さんにも聞えてしまったらしい。


「一日あたりの平均利用客数が、このくらいだからね」


 そういって5本の指を出した。


「500人ですか?」


 ジミ子がそう言うと、こう答える。


「いや、ちょっと桁が多いかな」


「50人なんですか?」


 再びジミ子が聞くと、再びこう答える。


「まだ桁が多いかな」


「えっ、もしかして5人なんですか?」


「……まあ、そうだね。もちろん平均なので、それより利用者が多い日もあるけどね」


 丁Rの社長さんは、ちょっと寂しそうに言う。

 しかし、一日の平均で5人か……

 これなら廃線になっても仕方がなかっただろう。



 姉ちゃんは駅を出ると、すぐそばにあるバス停へと向った。僕らはその後についていく。バス停にはもちろん、バスの時刻表がある。この駅から出ているバスは、平日は7本、休日は4本しか無かった。


 姉ちゃんは、時刻表を見てこう言った。


「調べたとおり、バスの本数が少ないですね。この辺だと、観光の目玉になりそうな場所は、森進二もりしんじさんの代表曲にもある『えもり岬』くらいでしょう。この場所へのアクセスをよくしないと、観光目的のお客さんは来ないと思いますよ」


 それを聞いて、知事もこう言った。


「北海道の観光収入を増やす為に、是非ともバスの増便を、お願いします」


「いやぁ、採算がちょっと……」


 丁Rの社長さんが気まずそうに答える。

 確かに鉄道の利用客数が5人だった事を考えると、バスの利用者数も想像がつく。



「それに他の問題もありまして……」


 丁Rの社長さんが他にも何かを言いたそうだ、姉ちゃんが聞き出す。


「それはどのような問題なんでしょうか?」


「『えもり岬』は、とても風の強い場所でして、あまりの風の強さに、バスがよく運休するんですよ。風速10m以上の日が、年間290日以上ある地域ですからね」


「なるほど、うちの会社の『空飛ぶバス』なら、強い風でも平気ですが、導入費用を捻出ねんしゅつできそうですか?」


「なにぶん、赤字路線なので……」


 丁Rの社長さんが、やんわりと無理だと言う。すると、姉ちゃんがあごに手を当てて、しばらく考えた後に、こう言った。


「じゃあ、バスの代わりに電車を走らせますか。曰高本線の終着駅を『えもり岬』まで延長しましょう」


「「「ええっ」」」


 この場にいた全員から声が上がった。姉ちゃんはバスの時刻表を指さしながら言う。


「そろそろ、バスが出る時間ですよね。バスの代わりに、さっそく試しに電車を走らせてみましょう」


 さらっと姉ちゃんがとんでもない事を言い出した。

 僕らはいつもの事なので慣れているが、丁Rの社長さんと北海道の知事さんは、死ぬほど驚いた様子だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る