廃線レストラン 4

 左手の窓には広大な畑が広がり、右手の窓には水平線まで海が続く絶景ポイントにくると、食事のアナウンスが聞えた。僕らはレストラン車両に移動をする。



 レストラン車両に移動に入ると、通路と座席の配置がちょっと特殊だ。

 通路は畑側の窓枠に沿うように延びていて、座席と食事を取るためのテーブルは、海側に寄っている。


 片側に通路を寄せたことで、かなり大きなテーブルを置けるように設計したらしい。大きなテーブルを挟むように、3人掛けのソファーのような椅子が配置され、6人、一組のボックス席が並んでいた。

 テーブルは窓の位置に合わせて配置されているようで、どこの席からも、海の景色が眺められる様になっている。



「私たちの席はここみたい、早く早く!」


 先に行ったミサキが手招てまねきをして僕たちを呼ぶ。ミサキに急かされて移動すると、テーブルの上には、ひとりひとりに、上品なランチョンマットが敷かれていて、ナイフとフォークとスプーンと箸が置いてあった。少し高級感が漂う感じだ。


 僕らが座席に着くと、そのタイミングを見計らったように、すぐに冷たいお茶が出て来る。お茶を出してくれたのは、機動戦士ガソダンに出てくるボールのようなマスコットロボットの八口はちぐちだ。八口はウェイトレスがわりに2体ほどいて、お茶をついだり、座席に案内したりと、車両内を忙しく動き回っていた。



 僕らは料理が出てくるまでの間、窓の外の海を眺める。

 波は列車のすぐそこまで来ていて、かなり迫力がある。これだと、線路の土台も流されても不思議はないだろう。

 みんなは、この雄大な景色に見とれる。ただ、1人だけは例外だった。ミサキはこの光景に見向きもせず、ずっとテーブルの脇に置いてあった『本日のお品書き』を見つめていた……


 しばらくすると、八口が料理を運んできてくれた。ただ、僕はちょっと驚く。収納式の腕が左右3本ずつ、合計6本もの腕が出ていて、それぞれの腕に一皿づつ料理を持っている。座席は6人掛けのテーブルなので、確かにこの方が都合が良い。


「お料理をお持ちしまシタ。一皿目の『きたあかりのビシソワーズ』と『ホタテのカルパッチョサラダ』デス」


 八口が配膳をしてくれると、ミサキはすぐに喰らいつく。


「おいしい~。とってもおいしい~」


 嬉しそうに食べている横で、キングは写真を撮るようだ。


「トゥイッターに上げるの?」


「ああ、見た目もかなり美味そうだからな。手をつける前に写真を撮っておくぜ」


 僕が質問をすると、キングはそう答えた。確かにその通りだ。僕も目で堪能たんのうした後に、ゆっくりと食べ始める。



『きたあかりのビシソワーズ』は、冷たいジャガイモのポタージュスープだ。口に含むと、滑らかな口触りと、コンソメの旨みが押し寄せてくる。とても上品な味は、無骨ぶこつなジャガイモから作られているとは思えない。


『ホタテのカルパッチョサラダ』は、オリーブオイルだけではなく、昆布だしを使ったドレッシングが使われているようだ。ホタテの旨みを最大限に引き出していた。


「ああ、おいしかった」


 僕が半分も食べきる前に、ミサキは全てを食べ終えた。早すぎる、もっと味わって食べれば良いのに。

 そう思っていると、八口が二皿目を持ってくる。




「二皿目ヲ、お持ちしまシタ。『肉豆のジンギスカン風、チーズソース掛け』デス、鉄板がお熱いので気をつけて下サイ」


 鉄板には野菜が敷き詰められていて、その上に肉がかぶさるように乗っかっている。そして、さらにその上からはチーズが掛けられている。


「いただきます、あつぅ、あつっ」


 ジュウジュウと熱そうな音を立てているが、ミサキは躊躇ちゅうちょなく口に放り込む。

 僕は、ふうふうと口で少し冷ましてから、ゆっくりと味わう。



 肉にチーズを掛けると、しつこくなりそうだが、宇宙人が開発した肉豆の肉は、あっさりとした赤身の肉なので、ちょうどバランスが取れていた。肉の下に引かれているシャキシャキとしたモヤシが、肉の脂を吸い、クセになるおいしさだ。僕はピーマンはあまり好きでは無いのだが、ここに入っているピーマンは美味しく感じた。


「美味いな、これ。ジンギスカンなんて食べた事なかったけど、今度、家でもやってみるか」


 ヤン太が気に入ったようだ。食べ始めて、僕らは半分も食べ終わっていないが、ミサキは別だ。


「本当においしいかったわよね」


 完食をしたミサキが、僕らの鉄板を、獲物を狙うような目で見ている。

 これはいけない。早く食べきらないと、取られるかもしれない。

 そう思っていたら、八口が三皿目を持ってくる。どうやら、誰かが食べ終わると、次の料理を持ってくるらしい。



「三皿目ヲ、お持ちしまシタ。メインデッシュの『ウニとイクラと花咲はなさきガニの海鮮丼』デス、特製の醤油ダレで、味付けを調整して食べて下サイ」


 どんぶりは、それほど大きくなく、ご飯の茶碗より少し大きいくらいだったが、炊きたてのご飯の上に、ウニとイクラと花咲ガニの足のむき身が、これでもかと乗っている。


「待ってました!」


 ミサキは海鮮丼を箸ではなく、スプーンを使ってガツガツと食べ始めた。まあ、確かにその方が食べやすいかもしれない。



 ジミ子が海鮮丼を食べながら、感想を言う。


「これ、冷凍食品なのよね? 信じられないわ」


 ジミ子の言うとおりだ。ウニは口に入れた時に風味が広がり、イクラはプチプチとはじけ、カニはぷりぷりとした歯ごたえだ。


「そうだね。すごく新鮮だね」


 僕も同じ様な感想をもらす。

 海鮮市場で、このどんぶりを食べても、冷凍食品とは気がつかないだろう。


 感心をしていると、八口が四皿目を持ってきた。ミサキはもう食べ終わったようだ。



「四皿目のデザートをお持ちしまシタ。『シュークリームのソフトクリーム乗せ』と『タ張たばりメロン』と『ホワイトチョコのモンブラン』デス、最後のお皿となっておりマス」


「もう最後かぁ~、写真を撮ってから味わいましょう」


 ミサキはスマフォを取り出すと、適当に写真を撮り、タ張メロンに豪快にかぶりついた。タ張メロンには切れ込みが入っていて、フォークで簡単に食べられるようになっていたが、お構いなしだ。


 あまりゆっくり食べていると、ミサキに横取りされてしまうかもしれないので、僕も出来るだけ急いで食べる。


『タ張メロン』の果肉は完熟らしく、おそろしいほど柔らかくて甘い。

『シュークリームのソフトクリーム乗せ』は、ソフトクリームが濃厚で、牛乳の味が強く残っていた。

『ホワイトチョコのモンブラン』は、甘さ控えめで、栗の風味を上手く生かしている。

 どれも素晴らしいスイーツだった。



 ミサキが食べ終わり、かなり時間がすぎて、僕らも食べ終わった頃に、姉ちゃんの声でこんなアナウンスが流れた。


「これからマスコミの人たちの写真撮影が始まります。先頭の展望車両に乗っている鉄道ファンの方は、いったん3両目のリニューアルされた旧車両の方へ移動して下さい」


 アナウンスをして、少し経つと、ゾロゾロと鉄道ファンたちが、2両目のレストラン車両を通り抜けて、3両目の方へ移動をする。


「ずいぶんと、ゆったりとした作りの食堂車だな」

「上手そうな匂いが漂っている」

「どんな食事が出たんだろう?」


 そんな事を言いながら、移動をしている。

 食べられないのを気の毒に思ったのか、キングがスマフォでQRコードを表示しながら言った。


「俺が撮った料理の写真なら、トゥイッターに上げたぜ、見てみるか?」


「おお、ありがたい」

「是非、見せてくれ!」


 何人かがQRコードを読み取り、仲間にも伝える。そして、トゥイッターの料理の写真を見ると、こんな言葉が飛び出した。


「なんだこれ、美味そうだな」

「こんな画像を見せられたら、腹が減ってきた」

「あー、失敗した。何か食べ物を買ってから、乗り込むべきだった……」


 写真を見た人が、空腹に襲われる。

 時刻は昼をちょっと過ぎたあたりで、お腹が空いて当然だろう。


 このやり取りを聞いていた姉ちゃんが、マイクを通して、こう言った。


「3両目の昔の車両には、開発中の駅弁の自販機と、ラーメンの自販機もあるわよ。試作品は何点か積んであるから、よければ買ってみて。値段はちょっと張るけどね」


「いくぞ! 食べに行こう!」

「うぉぉ!」


 鉄道ファンたちは、もの凄い勢いで3両目の列車に移動を開始した。


「私たちもちょっと見てみましょう!」


 ミサキがその後を追いかけていく。

 どうやら、先ほどあれだけ食べたというのに、また食べ足りないらしい……

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