廃線レストラン 2
新型車両を前に人が集まっている。
地味なスーツを着た、公務員のような人が15人ほど。
報道関係者らしき人は、合計で10名ほど。テレビ局が一局と、新聞記者が数社来ている。
他には鉄道ファンと見られる人たちが、20人ほどいた。
姉ちゃんが、偉そうな人たちに挨拶をしに行く。
すると、インタビューをしていたマスコミの人たちが騒ぎ出した。
「
姉ちゃんのインタビューを撮っても、あまり意味は無いと思うが、これも仕事なのだろう。カメラの向きを変えようとすると、姉ちゃんはこう言った。
「ちょっと待って下さい。私は後で答えるので、まずは知事のインタビューからお願いします」
「わかりました、それでは後でお願いしますよ」
そういうと、マスコミの人たちは、ふたたび先ほどの人のインタビューに戻った。
どうやらこの人は北海道の知事らしい。
カメラマンが再び知事を映し、地方テレビのアナウンサーと見られる人が、こんな事を聞く。
「この度の『
「地域住民の足が復旧されて、まことに嬉しい限りです。それに、曰高本線は住民の足だけではありません、この車両をご覧下さい、これからの新たな観光の発展としても期待をしております」
知事は穏やかな表情で答える。
鉄道の復活は嬉しいだろう。もし、僕の地元の路線が廃線となったら、父さんが会社に通えなくなってしまう。おそらく引っ越しを考えなければならない事態だ。まあ、ここら辺の人は、移動と言えば自動車がメインかもしれないが、移動手段は多いに越したことはない。
この後、知事と少し話をして、インタビューは他の人に移った。鉄道の制服を着た人に、カメラとマイクを向ける。
「
「まず、長らくご迷惑をおかけしてきた事を、心からお詫びさせて下さい、まことに申し訳ありません。この新車両に関しては、我が社に様々なメリットをもたらしてくれます。空を飛ぶので線路の保持が必要なくなり、維持費がかなりに安くなるので、他の廃線を考えていた路線を存続できるかもしれません」
ここでアナウンサーが質問をする
「いままで線路を維持していた人たちはどうなるのですか?」
そう言うと、後ろの鉄道ファンから罵声のような声が上がった。
「それは『
アナウンサーはちょっと苦笑いを浮かべたあと、インタビューを再び仕切り直す。
「はい、すいません。では改めて聞きます。いままで線路を整備していた保線技能職員の方々はどうなるのでしょうか? リストラですか?」
すると丁Rの社長はこう答えた。
「うちの会社には無人駅が多くあります。まわりに店も何もない駅も多いので、そういった場所にカフェを兼ねたコンビニを建てて、そこに人員を配置する予定ですね」
「失礼ですが、そのコンビニに人が来るのでしょうか? あまり売れずに、食品などを腐らせて、さらに赤字が拡大するのでは?」
「その点は大丈夫です。食品の扱いは、冷凍食品がメインとなるので、すぐに売れなくても無駄にはなりません」
「冷凍食品ですか…… でも、そのクオリティだと、あまり人が呼べないのでは?」
言葉を濁すアナウンサーに、姉ちゃんが横から答えた。
「味は大丈夫ですよ。これから車内のレストランで出す食事も、ほとんど冷凍食品なので、それを味わって下さい」
「あっ、はい。車内で出される料理は、冷凍食品なのですね」
アナウンサーが愛想笑いを浮かべながら答えるが、周りの人の表情は素直だ。冷凍食品という事が期待外れだったのだろう、アナウンサーの後ろにいるスタッフは、ちょっと残念そうな顔をしていた。
「すいません、笹吹アヤカさん。新型車両について、説明をお願いできないでしょうか?」
アナウンサーは、ターゲットを姉ちゃんに切り替える。すると、車両の事には興味があるようで、鉄道ファンも周りに寄ってきた。
注目を受け、姉ちゃんは大げさに身振りと手振りを加え、新型車両を説明する。
「新しく作った車両は、空飛ぶ列車ですね。曰高本線は海岸沿いで、線路の土台が根こそぎ流されたと聞かされました。そこで、土台が無くなっても走れる車両を用意しました。今は夏なので関係ありませんが、冬は雪かきをしなくても、走行する事が可能です!」
「なるほど。あそこに止まっている車両は、非常に先進的に見えます。もっと詳しく説明をお願いできますか?」
「列車なので、編成は自由ですが、今回の編成だと、先頭は展望車両ですね。ガラスを多く使った、見晴らしの良い車両です。2両目にレストランの車両ですね、広いテーブルがありまして、食事を提供する事が出来ます。3両目は、従来の車両の外観と内装をそのままに、使いやすくリニューアルをしました。あまり利用者のいない路線という事なので、座席数を減らし、シート間隔を広げています。従来より、だいぶ足下が広くなったと思います」
ちょっと自慢げに言うと、周りにいた鉄道ファンからヤジのようなものが上がる。
「座席は狭い方が味があって良いんだよ!」
「オリジナルを尊重しろ! 手を加えるな!」
騒ぎはしばらく収まらない。批判を受けた姉ちゃんはどうするのだろうか?
様子を見守っていると、姉ちゃんは指を使って、この場にいる人数を数え始めた。
「ええと、もともと乗車予定の人数が30名で、ここにいる鉄道ファンの人たちは、およそ20名か…… 充分に乗れるわね」
つぶやくように言った後、いきなり大声で、この場にいる鉄道ファンに問いかける。
「あなたたち、今回は関係者だけの試験運転の予定だったんだけど、撮影に協力をしてくれるなら、新型車両に乗ってみる? レストランの食事は用意してないから食事は無しで。料金は、通常の乗車料金でどうかな?」
「やった、乗ります! 乗らせて下さい!」
「今日、ここに来て良かった……」
「笹吹アヤカさん、最高です!」
これまでの批判が嘘のように、歓声が上がる。
「じゃあ、乗りたい人は切符を買ってきて。行き先は、終点の『
そういうと、鉄道ファン達は、ダッシュで切符を買いにいった。
鉄道ファンが居なくなり、静かになったホームで、知事が姉ちゃんに言う。
「大丈夫ですか、アレは?」
「騒がしくなるかもしれませんが、彼らの情報配信の力は凄まじいですよ。良い宣伝となると思うので、少しだけ我慢をお願いできませんか?」
「観光客が増えるというなら、私は大歓迎です。この地方の観光客数は、昔と比べると3分の1くらいに減りましたからね。今回の曰高本線の復興には期待しています」
「プレアデスグループとして、出来る限り
そういって、二人は強い握手をしていた。
知事に頼られるとは予想外だ。姉ちゃんは、意外とちゃんと仕事をしているのかもしれない。
その後、丁Rの社長さんも加わり、何やら話し合いをしていると、鉄道ファン達が戻ってきた。
「さて、そろそろ電車に乗りましょうか」
姉ちゃんがそう言うと、鉄道ファンから突っ込みが来る。
「『
姉ちゃんが死ぬほど面倒くさそうな顔で言う。
「ああ、うん。じゃあそれに乗りましょう。扉をあけてちょうだい」
家で見せる、素の顔と声で、気動車に呼びかけるとドアが開く。
いよいよこれから出発だ。
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