太古宇宙人飛行士説と新たなる説 3
『
CMが開けると、司会のジョルジュが宇宙人に話しを聞く。
「えー、ピラミッドの新たなる
「イイヨ。文献は砂の中に埋もれていたケド、ワレワレのスキャンで見つかったネ。文献はいくつか見つかったケド、建築方法に関しては、水の力を使って石を運んでいたと記してあったヨ」
「水の力ですか? それは興味深いですね。どのように石を運んでいたのでしょう?」
「文献によると、まず、石に『浮き』をつけて、水に浮かぶ様にするネ。後はピラミッドに沿うように水路を作って、運河で船を上層部に運ぶように、水のエレベーターを使って上げて行くみたいネ」
「あー、なるほど。パナマ運河の水門のように、船を押し上げていくのですね」
「他にも人の手で作っていた証拠が出て来たヨ。新たに発掘した文献には、『南西部の私が担当している部分の
「その資料から推測すると、確かにピラミッドは人の手で作られていたようです。ただ、いつの時代も、
ジョルジュがちょっと苦い顔をする。
この時代から、人類の労働環境はあまり進歩していないのかもしれない。
それどころか、宇宙人が来る前は、残業代が出なかった会社もあるというから、もしかすると退化していた可能性もある……
「他に何か新発見はあるでしょうか?」
「『ロンゴロンゴ文字』の解読が終わったネ」
「イースター島で発見された未解読の文字ですね。非情に興味深いです。どんな事が書かれていたのでしょうか?」
この後、ジョルジュは、ひたすら聞き手にまわった。『
宇宙人は次から次へと新発見を発表するのだが、意見の対立がないのでつまらない。番組冒頭に繰り広げられたハプニングの様な事が、起こらないかと期待をしていると、ちょっとした対立が起こる。
話を聞いてばかりいて、番組が単調になってきたので、『太古宇宙人飛行士説』の
「昔、日本という国に、『うつろ船の蛮女』というUFOと宇宙人が飛来したという記録があるのですが、それはなんだと思いますか?」
「ワレワレの知る限りでは、宇宙人は来ていないネ。先ほどの意見に従うと、それは『宇宙人』と呼ぶより、『
「『異次元人』ですか? 確かに意味合い的にはそうですね。言いにくい感じですが……」
デルケン氏がそう言うと、司会のジョルジュはすかさずフォローをする。
「それなら『
「確かにその方が
デルケン氏が宇宙人に確認を取る。
「『異世界』の定義に、『別次元』も含まれると思うカラ、良いと思うヨ」
「宇宙人様の許可も得たぞ! 来週からこの番組のタイトルは『
デルケン氏がやや興奮した状態で言うと、スタッフから声が上がった。すると司会のジョルジュが、こちらに向って語りかける。
「まことに残念な事ですが、お時間となったようです。またお会いしましょう」
こうして慌ただしく番組が終わる。
ミサキが残念そうに言う。
「番組、終わっちゃうのかなぁ?」
宇宙人があれだけ滅茶苦茶にしたので、この番組が終わってもおかしくないだろう。
「でも、あの分だと続くんじゃないの。番組のタイトルは変わるかもしれないけど、やる内容は同じでしょう」
ジミ子が予想を言った。確かに僕もそう思う。
「そうよね。10年以上続いた番組が、突然、終わることはないわよね!」
明るさを取り戻し、ミサキが笑顔で答えた。
この後、僕らはいつも通りの日常の話題をして、解散した。
しかし、この番組が10年以上続いているとは、本当に信じられない……
しばらくいつもの日常が続く。
翌週になると、ミサキがこんな事を言った。
「見たい番組があるの。今日はうちで遊ばない?」
「いいぜ」「いいわよ」
特に目的のない僕らはミサキの家に集まった。
ダラダラとミサキの家で過し、やがて夕方になると、ミサキはテレビをつける。
「そういえば、何の番組が見たかったの?」
僕が質問をすると、ミサキは不敵な笑みを浮かべながら答えた。
「今日から始まる新番組よ!」
やがてテレビには『
「始めまして『ジョルジュ・トカロフ』です。みなさまは『
テレビを見ていたヤン太とキングがつぶやく。
「これ、新番組か?」
「先週も同じ番組をみたぜ……」
「これは新番組よ! 先週までは『太古宇宙人飛行士説』で、今週からは『太古異世界人伝承説』だもの!」
ミサキがドヤ顔で答える。番組の内容はおそらく変わらないが、ミサキが楽しめるなら、それでも良いだろう。
「さっそくですが、『太古異世界人伝承説』とは、どのような説なのでしょう?」
ジョルジュがデルケン氏に質問をする。
「『太古異世界人伝承説』とは、簡単に言えば異世界人が遙か昔から地球に
「新たな文献ですか? 何か新しい発見はありました? 今までの『太古宇宙人飛行士説』とは、どこが違うのでしょう?」
これまで通りの主張を繰り返すのかと思ったら、ちょっと違う事を言い出した。
予想外の展開に、少し混乱するジョルジュに、デルケン氏は淡々と話す。
「まずは新たな文献をみてください。こちらに並べています」
デルケン氏に誘導されて、スタジオの一角にたどり着くと、そこには大きめのテーブルがあり、その上に『異世界モノ』のライトノベルが並べられていた。
ジョルジュがさらに混乱をする。訳が分らず、デルケン氏に質問をした。
「こ、これは、日本の新しい小説ですよね? これがどう関係するのでしょうか?」
「私はこれらの本を読んでみました。すると、不思議な事に、内容が恐ろしく類似しているのです。文明レベルの低い異世界に飛ばされ、現地の人に現代知識を教え、尊敬と信頼を勝ち取る。大体がそんな内容でした」
「一つならまだしも、そろいもそろって同じ内容というのは変ですね。明らかに異常です」
「そう、異常なのです。これは何かのメッセージだと考えるのが普通でしょう。これらの小説では、地球人が異世界人に教えるという設定ですが、真実は逆なのです。異世界から飛んできた異世界人が、古代の地球人に知識を与える。地球人は異世界人から様々な事を教わったのです!」
「例えば、具体的にはどのような事でしょう?」
ジョルジュがデルケン氏に質問すると、ちょっともったいぶって、こう答えた。
「日本人は『フグ』という毒の魚を食べます。この魚は、非情に毒が強く、かなりの確率で食べた者が死にます。誰がこんな魚を食べようというのでしょうか? 異世界人の『解体スキル』と『鑑定スキル』を使って、正しいさばき方を知らない限り、わざわざ犠牲者を出してまで、この魚を食べようとは思わないでしょう」
「なるほど。そうですね。まったくもってその通りです」
ジョルジュが納得しているテレビの手前で、深くうなずいている人物がいた。
「そうよね。死ぬかもしれない魚を食べるわけがないわよね」
僕はミサキに反論をしたかったが、上手い言い訳が思いつかなかった。ご先祖様は、本当に何でこんな魚に手をだしたのだろう。
この後も番組は続いたが、地球の様々な出来事は、すべて『異世界人』と、『異世界人の特殊スキル』という話に持っていく。
すべて宇宙人のせいにしていた頃より、より混沌とした番組になった気がする……
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