猫喫茶でのひととき 2

 キングが猫との対戦ゲームを選ぶ。すると、真っ白い猫がやって来た。

 その猫は貫禄かんろくがあり、かなり強そうに見える。


 僕たちのテーブルの前にくると、軽く会釈えしゃくをして、仕事に取りかかる。


「対戦ゲームでリバーシをご希望のお客さんはどちらです?」


「俺です」


「リバーシで上級難易度を担当している『白雪しらゆき』と申します。時間制限がありまして、私が相手をする時間は30分です。さっそく対戦と行きましょう」


 コイントスをして、先攻、後攻を決める。キングが黒で先行で、白雪さんが白で後攻となった。


「じゃあ行くぜ、初めはココかな」


定石じょうせきですね。では私はココへ」


 白雪さんは、猫の手で器用にリバーシのコマを掴むと、スッと置いていく。

 キングが置き、白雪さんがひっくり返す。勝負は流れるように進んだ。



 中盤、キングが押しているように見えるが、キングからポツリと独り言が漏れる。


「あっ、失敗した……」


「そのミスは致命的ですね。もらっていきます」


 その後、白雪さんが次から次へと盤面を白く塗り替える。そしてキングは負けてしまった。


「うわぁ、やられた! もう一度!」


「いいですわよ。制限時間まで、お付き合いしましょう」


 その後、2ゲームほどやったが、キングは勝てなかった。



「そろそろお時間となりました」


 白雪さんが時計をチラリと見て言う。するとキングが


「もう少しだけ、追加でやれます?」


「20分延長で、300円掛かりますよ」


「じゃあ、延長します。やりましょう」


 さらに2ゲームほどプレイをするが、やはりキングは勝てなかった。

 だだ、対戦のスコアは、だんだんと接戦になってきている。


「……負けました。お疲れ様です」


「なかなか筋がよいお客さんね。この本を読めば、もっと上達すると思うわ」


 そういって白雪さんは本のチラシを置いて去って行く。



 残されたチラシには『白雪さんの猫の手リバーシ講座』というタイトルの本がのっている。どうやら書籍を出すほど上手いらしい。


「……とりあえず、電子版を買うか」


 キングはさっそくスマフォで本を購入する。これで白雪さんにいくらかの印税が入るだろう。しかし、自分の本を売り込むとは、ちゃっかりしている。



 白雪さんが居なくなると、しばらくして、シマ柄の別の猫がやって来た。


「ヨガレッスンのお客様はどなたです?」


「俺だけど」


 ヤン太が手を挙げて返事をする。


「旦那ですね。私は『虎三郎とらさぶろう』と申します。以後、お見知りおきを」


 虎三郎さんは片手を前に出して、お辞儀をする。


「早速ですが、ヨガレッスンのコースはどうしましょう? 床で行なう本格的なコースや、椅子でも出来る簡易的なコースなど、様々なコースがありますぜ」


「椅子でも出来るコースなら、ここでも出来るかな?」


「ええ、では、ここにいる皆さんでやってみますか? ひとりに教えるのも、5人に教えるのも手間は大してかわりません。サービスで全員に教えましょう」


「じゃあ、それでお願いするよ」


「了解しました。では初めは『猫のポーズ』から行ってみましょう」


 こうして虎三郎さんのヨガ教室が始まった。


 背中を丸めたり、伸ばしたり。体を右や左にゆすったり。腕を組んで、腰を大きくひねったりと、緩やかなストレッチ運動が続く。


 そして、15分くらいでレッスンが終わった。発汗が良くなったのか、じわりと汗をかいていた。


「どうですか、ヨガをやった後の体の調子は?」


 虎三郎さんがヤン太に聞く。


「体が少し軽くなった感じだ、血行が良くなった気がする。また機会があったらレッスンを頼むよ」


「はい、お待ちしております」


 虎三郎さんは再びお辞儀をすると、去って行った。

 体を動かした僕たちは、ちょっと喉が渇いたので、冷たい飲み物のお代わりを注文する。



 2杯目の飲み物を、猫耳の店員さんが持ってくる。


 飲み物を置いて行くついでに、こんな事を聞かれた。


「ネコトークのお客様はどちらです?」


「はい、私です」


 ジミ子が答えると、次の質問が飛んでくる。


「普段よくみている雑誌とかテレビ番組とかはありますか?」


「うーん、テレビ都京ときょうの経済番組なんかよく見ますね」


「分りました。それに似合う担当の者を連れてきますね」



 しばらくすると、黒猫が2匹やって来た。


「私が『ナツ』、隣にいるのが『アキ』です。ネコトークのお客さんは、メガネの方ですよね」


「私です」


 ジミ子が返事をする。


「では、ネコトークを始めたいと思います。お題は『宇宙人の技術と、これからの経済の行方』というテーマで良いでしょうか?」


「それは面白そうね」


 ジミ子がメガネをクイッと上げて、ちょっとニヤつく。かなり乗り気のようだ。



 ナツさんの隣にいる、アキさんが、どこからかタブレット端末を出してきて、こう言った。


「こちら、宇宙人が来てからの、業種別の経済成長率です、ご覧下さい。医療費が抑えられた結果、介護と医療費のジャンルは著しく衰退しています。労働時間が短くなった影響から、時間に余裕ができ、外食産業が伸びています」


 業界ごとのグラフを表示して、分りやすい解説をする。

 ナツさんも補足するように説明を加える。


「最近ですと、今週の改善政策で、弁護士がほとんど居なくなり、かわりにロボットの弁護士が台頭する時代が来ると予想されます」


「そうね。そうなるとロボット派遣会社の勢いが増すわね。あなたたちはロボットがまだ手を出せないジャンルは何だと思う?」


 ジミ子が質問をすると、まずアキさんが答えた。


「エンターテイメントなどの創作、娯楽産業でしょうか。創作や娯楽をロボットが理解できるとは思いません」


 もっともな意見だと思ったが、ナツさんが反論をする。


「今はまだ創作とか出来ないかもしれないけど、彼ら宇宙人の学習能力はすさまじいです。学習を続けていけば、3年後とかには、良いモノを創れるようになるんじゃないかしら?」


 それを聞いたジミ子は、こんな発言をする。


「そうね。それなりの話が出来るかもしれないけど。あの宇宙人の考え方は、まともじゃないと思える時もあるわ。お話として破綻する可能性も高いと思うの」


「確かに」「それは言えますね」


 ナツさんとアキさんは、ジミ子の意見に納得をする。


 このやり取りを聞いていたミサキが、小声で僕に言う。


「ネコトークって、もうちょっとフワッとしたファンタジーなお話じゃないの?」


「えーと、ジミ子の興味のあるテーマに合わせているんじゃないかな?」


 この後、話は『投資をするならどの業界が良いのか?』という方向に移っていった。やはり猫たちもお金儲けに興味があるらしい。かなり白熱した討論となった。



 ジミ子とナツさんとアキさんのトークが盛り上がっている最中に、僕が呼ばれる。


「肉球マッサージの方、こちらへどうぞ」


 トークの内容が気になったが、呼ばれたので席を外す。

 猫耳の店員さんの後についていくと、とても狭い部屋に通された。


 部屋の大きさは1.5畳ほど、顔の所に穴があいていて、うつ伏せの状態で使う本格的なマッサージ用のベットが置いてある。


「どうも。『ミケ』と言います。まあ、とりあえずそこに寝て下さい。あん師の免許も持ってるんで安心してくださいね」


「はい、よろしくお願いします」


 僕は挨拶をすると、ベットにうつ伏せの状態で寝た。


「どこら辺を中心にやりますか?」


「ええと、できれば肩のまわりをお願いします」


「わかりました。お姉さん、肩、こってますね」


 ミケさんがギュッと体重を掛ける。凝り固まった肩甲骨けんこうこつに掛かる、肉球の柔らかい感触がたまらない。


「あふぅ、あっ、そこです。そこが気持ちいいです」


「じゃあ、ココとかどうです」


「ええ、とても気持ち良いですぅ……」


 僕はあまりの気持ちよさに、途中で寝てしまった。



「……ツカサ、ちょっと起きて」


 ミサキの声に起こされた。どれほど眠っていたのだろう?

 窓から外を見ると、もう太陽が落ちかけている。


「あっ、すいません。寝てしまって」


 ミケさんに謝ると、目を細めて、笑顔で答えてくれる。


「いえいえ、とても気持ちよさそうに寝ていたので、そのまま寝かせておきました。またお越し下さいね」


「はい、ありがとうございます」


 お礼を言って、僕らは店を後にする。

 僕の料金は890円だったが、みんなはそれより多くお金を払っていた。


「いや、ツカサが寝ている時、ちょっとデザートを食べたんだ」


 ヤン太が申し訳なさそうに言うが、ミサキはお構いなしに僕に写真を見せながら自慢する。


「とっても美味しかったわ、ニャンニャン特大パンケーキ。また食べにきましょう!」


「あっ、うんそうだね。またこよう」


 今度こそは寝ずにあのマッサージを満喫したい。そしてパンケーキも食べてみたい。この店は僕たちのお気に入りになりそうだ。

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