猫喫茶でのひととき 1

 僕たちは、朝の9時から市民プールに行って、ひと泳ぎする。

 途中に昼食を取って、午後の2時半までたっぷりと遊んだ。


 プールを上がるとクタクタだ。しかし、家に帰るにはまだ時間が早い。

 この後、どうしようかと話し合っていると、ミサキがスマフォで地元の駅の『猫喫茶ねこきっさ』のクーポン券を出してきた。ドリンクが2つと、何かしらの猫喫茶の特有の接客オプションが付いてきて890円だそうだ。


 この店は、以前にレオ吉くんと一緒に行った事がある。動物ノ王国の直営店だったはずだ。いかがわしい店では無いだろう。

 特に目的の無かった僕たちは、この話しに乗る事にした。



 猫喫茶の駐輪場に自転車を止めて、店の入り口に移動する。店先には『コーヒー1杯280円から』という看板が出ていた。普通の喫茶店と値段があまり変わらない。僕たちは安心して店の中に入る。


 店内に入ると、けっこう賑わっている。

 店内の落ち着いた雰囲気と、コーヒーの値段も比較的安い事から、普通におばさん達のたまり場となっているようだ。


「あっ、このクーポン券のコースで、5人でお願いします」


 ミサキが入り口で、猫耳の店員さんにクーポン券を見せる。


「分りました5人でお越しですね。こちらの席へどうぞ」


 僕らは奥の方に通された。3人掛けのソファーがついに配置された、6人用のテーブル席だ。

 適当な場所につき、腰を下ろすと、体に合わせてソファーが程よく沈み込む。

 とても座り心地が良く、いつも座っているメェクドナルドゥのシートとは大違いだ。


「お飲み物はこちらからお選び下さい、オプションのメニューはこちらです。お決まりになったら、そちらの呼び出しボタンを押して下さい。ごゆっくりどうぞ」


 猫耳の店員さんは、説明を終えると、いったん席を離れる。



「飲み物はどうする?」


 ヤン太がみんなに聞くと、それをミサキが遮るように言う。


「そんな事より、みんなはどの接客オプションを選ぶ?」


 接客のオプションのメニューを見てみると、『ふれあいタイム』『肉球マッサージ』『ヨガレッスン』『ネコと対戦ゲーム』『ネコトーク』などと、色々なオプションがあるようだ。


 ミサキが興奮ぎみに声をあげる。


「やっぱり『ふれあいタイム』でしょう。いや『ネコトーク』もすてがたいわ。でもやっぱり『ふれあいタイム』よね。これは外せないわ」


 ミサキはやはり猫とふれあいたいようだ。


「俺は『ネコと対戦ゲーム』をやってみたいぜ。猫はどのくらいの腕前なのか知りたいからな」


 キングは対戦ゲームを選んだ。次にヤン太がメニューから選ぶ。


「どうせだったら違うのを選ぶか。俺は『ヨガレッスン』を選ぼうかな」


「じゃあ私は『ネコトーク』にしようかしら」


 ジミ子はトークを選び、残りはマッサージだけとなる。


「じゃあ僕は『肉球マッサージ』にするよ。そう言えば飲み物はどうする?」


「私はアイスコーヒーでお願い」「じゃあ俺も」「俺もそれでいい」


 みんな適当に飲み物を決め、その後、呼び出しボタンを押して注文をした。



 しばらくすると猫耳の店員さんが飲み物を持ってくる。

 注文した飲み物を飲んでいると、すぐに白と黒の模様のネコがやって来た。丁寧にお辞儀をした後、しゃべり出す。


「ぶちネコの『ハチ』と申します。『ふれあいタイム』をご注文のお客様はいますか?」


「はいっ、私! 私です!」


 鼻息が荒いミサキが返事をする。


「お客様ですね。『ふれあいタイム』はネコ。まあ私とですが、ふれあう事ができます。ただ、いくつか注意点があります」


「はい、なんでしょうか」


「ちょっと、お客様、近いです。少し離れて下さい」


 ぶちネコのハチさんが、顔を必要以上に近づけているミサキの顔を押しのける。

 ミサキは先ほどから、ちょっと興奮状態だ。久しぶりに猫とふれあえるのが、よほどうれしいのだろう。


「失礼しました。撫でる場所は、背中と頭に限ります。他の場所は触らないで下さい、下手をするとわいせつ罪になります。あと、あまり乱暴に扱わないで下さいね」


「大丈夫よ。私のなで方は、ネコ業界から一定の評価を受けているから」


 ネコ業界とは一体何だろう? ミサキは適当な事を言いつつ、さっそくハチさんの体をなで始めた。


「あっ、思ったより丁寧に撫でますね。心地よいです」


「そうでしょ、そうでしょ。あっ、私の膝の上に座る?」


「ではちょっと失礼します」


 ハチさんはミサキの膝の上にのり、目を細めて、ミサキに体をゆだねている。ちょっと気持ちよさそうだ。

 ミサキも猫と充分にふれあう事が出来て、ご満悦まんえつで、顔がニヤけっぱなしだ。



 ミサキとハチさんが幸せそうにしていると、猫耳の店員さんがやって来て、こんな事を聞いてきた。


「『ネコと対戦ゲーム』をご希望の方はどなたです?」


「はい、俺です」


 キングが返事をする。


「ここにリストがあります。この中からゲームを選んで貰えますか?」


 猫耳の店員さんはプリントを一枚、キングに渡す。

 そこには『リバーシ』『将棋』『チェス』『バックギャモン』『麻雀』などのゲームの一覧があった。


「テレビゲームじゃなくて、アナログのゲームなのか…… ちょっと予想外だった。ええと、この中だと『リバーシ』で良いかな」


「相手の腕前うでまえは、どのレベルにしますか?」


「腕前? いわゆる対戦レベルかな? じゃあ、最高レベルでお願いするぜ」


「分りました。では準備させて頂きますね」


 猫耳の店員さんが奥の方の控え室に引っ込む。

 キングは将棋やチェスといったアナログのゲームも得意だ。リバーシもかなり強いと言って良いだろう。はたして猫が相手になるのだろうか?


 そんな事を考えていると、真っ白い猫がやって来た。

 なんとなく貫禄かんろくがあり、強そうに見える。

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