第31回目の改善政策 1

 リビングで、テレビをつけて待っていた。

 お昼になると、いつもの二人が映る。


「こんにちは、第31回目の改善政策です。今日もよろしくお願いします」


「ヨロシクネー」


 福竹アナウンサーと宇宙人が出て来て、改善政策の番組が始まる。



「さて、本日はどのような改善政策をするのでしょうか?」


「改善政策を発表する前に、曰産いわさんの元会長、カーロス・ゴルゴンがレノバンに逃亡したニュースを知っているカネ?」


「もちろん知っていますよ。世間ではそのニュースで持ちきりですね。噂だと、逃亡費用に16億円も掛かったとか」


「記者会見をして、彼は日本の司法を批判していたよネ」


「ええ、『独房に長期間、閉じ込められて、弁護士の同席のないまま聴取を取られた。初公判はつこうはんに1年以上、判決はんけつになると5年くらい掛かると言われた、なぜそんなに時間が掛かるのか? 私の人生は終わってしまう』とか言ってましたね」


「そこでワレワレが改善をする事に決めたヨ」


「おお、それは良いかもしれません。ところでカーロス・ゴルゴン氏の逃亡に関しては、宇宙人さん側で、行動は把握していなかったんでしょうか?」


「イヤ、把握はしていたヨ。でも、警察からの逮捕の協力要請が無かったからネ。特に何もしなかったヨ」


「……そうですか。まあ、良いです。改善政策の具体的な内容を教えて下さい」


 警察が事前に状況を察知していたら、自ら動いて拘束をしていただろう。福竹アナウンサーは、あきれた表情で番組を進行する。



「ワレワレの行なう改善はこれネ」


 宇宙人が紙のテロップを出すと、そこには『スピーティーな事情聴取と裁判』と書かれていた。


「『スピーティーな事情聴取と裁判』ですか? 迅速じんそくな対応を行なう為に、何を行なうのでしょうか?」


「事情聴取と裁判で『嘘発見器うそはっけんき』を必ず使うヨ」


「『嘘発見器』と言っていますが、それは以前に導入された、人間の思考を読み取って嘘かどうか判断をするだけではなく、思考そのものを文字に変換する装置の事ですよね?」


「ソウネ。『思考読み取り装置』と言っても良いネ。この装置を使って事情聴取を行なえば、長い時間をかけて、尋問じんもんをしなくてすむデショ」


「確かにそうですね。思考を読み取れれば、無駄なやり取りが相当な数、減ると思います」


 刑事ドラマなどでは、犯人を追い詰めるように、何度も同じ質問をする。

 ドラマだと、数回で犯人側が折れる場合もあるが、それは作り話だからだろう。現実だと、意地でも認めないと思う。

 それが、このシステムを使えば、おそらく一回で済むはずだ。何週間、何ヶ月かけて行われる事情聴取も、おそらく一日や二日で充分になるはずだ。



「そういえば、黙秘権もくひけんとかはどうなるんでしょうか?」


 福竹アナウンサーが宇宙人に聞くと、こんな答えが返ってくる。


「黙秘権を行使しても良いヨ」


「不利益になる事は喋らなくても良いんですね」


「『思考読み取り装置』は稼働させたままの状態だけどネ。試しに喋らないでみてヨ」


「私がですが? では、少しの間、黙ります」


「昨日は何をしていたカネ?」


「…………」


 福竹アナウンサーは黙ったままだったが、テレビ画面の下にテロップが出てくる。


『昨日はグルメ番組の収録で、コース料理をいただきました。とても美味しかったのですが、あまりに上品で、とても量が少なく、ホテルに戻ってから、カップ焼きそばのペユングを食べてしまいました』


「『思考読み取り装置』の内容は正しかったカネ? 正常に稼働しているカネ?」


 宇宙人が福竹アナウンサーに感想を聞く。


「ええ、間違いありません。ただ、これだと黙秘権の意味がほぼ無くなりますね」


「ソウネ。デモ、全世界の法律を確認したケド。思考の読み取りを禁止する項目は無かったから大丈夫ネ」


 宇宙人は当たり前の様に言うが、今まで思考を読み取る装置などは無かったので、法律関係の書物に書いてないのも当然だ。



「しかし、事実上の黙秘権の廃止ですか…… これは大丈夫でしょうかね?」


 福竹アナウンサーは心配そうにつぶやいた。すると宇宙人は、いつもの調子で、こんな事を言う。


「『黙秘権』トハ、不利益ふりえきを喋らなくても良いという権利だよネ。でも、本当に関係の無い事なら、ハッキリと否定した方が良いよネ?」


「そうですね、明確に否定する方が良いと思います」


「関わってないなら、ハッキリと否定をすれば良いじゃナイ。ソレニ、黙秘をシテ、事件の真相が分らなくなる寄りも、真実をハッキリとさせた方が良いよネ?」


「出て来た真実で、不利益を被るとしてでもですか?」


「その不利益の内容を、犯罪かどうか判断して、正当な方法に基づいて裁く場所が裁判所だよネ?」


「まあ、そうですね、やってない犯罪を押しつけられるのは問題外ですが、自ら犯した罪を裁かれる場所が裁判所です。犯罪に相応の罪は償わなければいけないでしょう」


「それなら、黙秘権が無くなっても良いじゃナイ」


「えっ、うーん。そうなのかな? そう言われると、そうかもしれませんね」


 福竹アナウンサーが宇宙人に言いくるめられた。

 まあ、宇宙人の言いたい事も分る。犯罪を犯したら、それなりの罪を償わなければいけないだろう。



 福竹アナウンサーが、更に詳しい話を聞いていく。


「そういえば、確か先ほど、『スピーティーな事情聴取と裁判』とおっしゃてましたよね。裁判でも、この装置は活用されるのでしょうか?」


「裁判でも使うネ。その方が間違いが無いデショ?」


「そうですね、そうかもしれません。審議も早く終わりそうですし」


「『思考読み取り装置』は、証言者しょうげんしゃや弁護士にも使うヨ」


「えっ、証言者や弁護士にもですか? それは大丈夫でしょうか?」


 宇宙人は手当たり次第に思考を読み取るらしい。これは大丈夫だろうか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る