第31回目の改善政策 1
リビングで、テレビをつけて待っていた。
お昼になると、いつもの二人が映る。
「こんにちは、第31回目の改善政策です。今日もよろしくお願いします」
「ヨロシクネー」
福竹アナウンサーと宇宙人が出て来て、改善政策の番組が始まる。
「さて、本日はどのような改善政策をするのでしょうか?」
「改善政策を発表する前に、
「もちろん知っていますよ。世間ではそのニュースで持ちきりですね。噂だと、逃亡費用に16億円も掛かったとか」
「記者会見をして、彼は日本の司法を批判していたよネ」
「ええ、『独房に長期間、閉じ込められて、弁護士の同席のないまま聴取を取られた。
「そこでワレワレが改善をする事に決めたヨ」
「おお、それは良いかもしれません。ところでカーロス・ゴルゴン氏の逃亡に関しては、宇宙人さん側で、行動は把握していなかったんでしょうか?」
「イヤ、把握はしていたヨ。でも、警察からの逮捕の協力要請が無かったからネ。特に何もしなかったヨ」
「……そうですか。まあ、良いです。改善政策の具体的な内容を教えて下さい」
警察が事前に状況を察知していたら、自ら動いて拘束をしていただろう。福竹アナウンサーは、あきれた表情で番組を進行する。
「ワレワレの行なう改善はこれネ」
宇宙人が紙のテロップを出すと、そこには『スピーティーな事情聴取と裁判』と書かれていた。
「『スピーティーな事情聴取と裁判』ですか?
「事情聴取と裁判で『
「『嘘発見器』と言っていますが、それは以前に導入された、人間の思考を読み取って嘘かどうか判断をするだけではなく、思考そのものを文字に変換する装置の事ですよね?」
「ソウネ。『思考読み取り装置』と言っても良いネ。この装置を使って事情聴取を行なえば、長い時間をかけて、
「確かにそうですね。思考を読み取れれば、無駄なやり取りが相当な数、減ると思います」
刑事ドラマなどでは、犯人を追い詰めるように、何度も同じ質問をする。
ドラマだと、数回で犯人側が折れる場合もあるが、それは作り話だからだろう。現実だと、意地でも認めないと思う。
それが、このシステムを使えば、おそらく一回で済むはずだ。何週間、何ヶ月かけて行われる事情聴取も、おそらく一日や二日で充分になるはずだ。
「そういえば、
福竹アナウンサーが宇宙人に聞くと、こんな答えが返ってくる。
「黙秘権を行使しても良いヨ」
「不利益になる事は喋らなくても良いんですね」
「『思考読み取り装置』は稼働させたままの状態だけどネ。試しに喋らないでみてヨ」
「私がですが? では、少しの間、黙ります」
「昨日は何をしていたカネ?」
「…………」
福竹アナウンサーは黙ったままだったが、テレビ画面の下にテロップが出てくる。
『昨日はグルメ番組の収録で、コース料理をいただきました。とても美味しかったのですが、あまりに上品で、とても量が少なく、ホテルに戻ってから、カップ焼きそばのペユングを食べてしまいました』
「『思考読み取り装置』の内容は正しかったカネ? 正常に稼働しているカネ?」
宇宙人が福竹アナウンサーに感想を聞く。
「ええ、間違いありません。ただ、これだと黙秘権の意味がほぼ無くなりますね」
「ソウネ。デモ、全世界の法律を確認したケド。思考の読み取りを禁止する項目は無かったから大丈夫ネ」
宇宙人は当たり前の様に言うが、今まで思考を読み取る装置などは無かったので、法律関係の書物に書いてないのも当然だ。
「しかし、事実上の黙秘権の廃止ですか…… これは大丈夫でしょうかね?」
福竹アナウンサーは心配そうにつぶやいた。すると宇宙人は、いつもの調子で、こんな事を言う。
「『黙秘権』トハ、
「そうですね、明確に否定する方が良いと思います」
「関わってないなら、ハッキリと否定をすれば良いじゃナイ。ソレニ、黙秘をシテ、事件の真相が分らなくなる寄りも、真実をハッキリとさせた方が良いよネ?」
「出て来た真実で、不利益を被るとしてでもですか?」
「その不利益の内容を、犯罪かどうか判断して、正当な方法に基づいて裁く場所が裁判所だよネ?」
「まあ、そうですね、やってない犯罪を押しつけられるのは問題外ですが、自ら犯した罪を裁かれる場所が裁判所です。犯罪に相応の罪は償わなければいけないでしょう」
「それなら、黙秘権が無くなっても良いじゃナイ」
「えっ、うーん。そうなのかな? そう言われると、そうかもしれませんね」
福竹アナウンサーが宇宙人に言いくるめられた。
まあ、宇宙人の言いたい事も分る。犯罪を犯したら、それなりの罪を償わなければいけないだろう。
福竹アナウンサーが、更に詳しい話を聞いていく。
「そういえば、確か先ほど、『スピーティーな事情聴取と裁判』とおっしゃてましたよね。裁判でも、この装置は活用されるのでしょうか?」
「裁判でも使うネ。その方が間違いが無いデショ?」
「そうですね、そうかもしれません。審議も早く終わりそうですし」
「『思考読み取り装置』は、
「えっ、証言者や弁護士にもですか? それは大丈夫でしょうか?」
宇宙人は手当たり次第に思考を読み取るらしい。これは大丈夫だろうか?
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