第31回目の改善政策 2

 宇宙人は容疑者だけではなく、証言者しょうげんしゃや弁護士にも『思考読み取り装置』を使うと言う。これは大丈夫だろうか?


 心配そうな福竹アナウンサーの顔をよそに、宇宙人が淡々と説明をする。


「証言者の証言によっては、事件の審議が決まる事もあるでショ」


「ええ、ありますね。事件の決定的な証拠に採用される事もあります」


「ソノ重要な証言が嘘だとマズいよネ? できるだけ正確に真相を知る必要があるよネ?」


「そうですね。そう言われると冤罪えんざいなどを避けるためにも、『思考読み取り装置』を使った方が良いかもしれませんね」


 福竹アナウンサーが少しだけ納得をする。

 宇宙人の作った装置にミスはないだろう。間違いを減らす為には『思考読み取り装置』を、どんどん使っていった方が良いのかもしれない。



「証言者に使う理由は分りますが、弁護士にも使うのですか?」


 福竹アナウンサーが宇宙人に聞くと、こんな答えが返ってくる。


「弁護士も嘘をつく可能性があるからネ。それに弁護士に関しては、ワレワレに一定の数のクレームが入って来ているのヨ」


「どのようなクレームですか?」


「常識を疑うような、おかしな発言をする弁護士を、宇宙人側でどうにかしてくれないかって言われているのヨ」


「……確かに、理解不能で奇妙な弁護が飛び出してくる事もありますね」


「おかしな発言と感じている人がどれだけいるのか、試しにアンケートを取って見るカネ?」


「おっ、良いかもしれませんね。皆さま、弁護士ついてのアンケートのご協力をお願いします。お題は『弁護士の発言に関して、あきらかにおかしいと感じた事があるか?』です。回答は『感じた事がある』『感じた事は無い』の、どちらかをお答え下さい」


 福竹アナウンサーがそう言うと、僕たちの前にアンケート画面が現われた。



『弁護士の発言に関して、あきらかにおかしいと感じた事があるか?』


 あまりニュースを見ない僕でも、弁護士のおかしな発言を聞いた事は何度もある。

 本人は知らなかったので無罪だと訴えたり。殺人などの重罪事件でも、犯人を心神喪失しんしんそうしつ心神耗弱しんしんこうじゃくの状態だと言って、無罪を主張したり。

 あきらかに犯人側に非がある場合にも、無理やり無罪に持っていこうとする。


 最近の出来事だと、曰産いわさんの元会長、カーロス・ゴルゴンのパスポートを、鍵付きのケースに入れて、その鍵を弁護団が管理しなければいけなかったのだが、ケースの鍵は4桁のダイヤル式だったそうだ。

 この鍵なら、時間さえかければ素人の僕でも解除できる。

 そして、予想通りと言おうか、このパスポートは使われてしまったようだ。弁護団は何を考えて、この鍵にしたのだろうか? それに、この件に関して、弁護団は管理責任は問われないのだろうか?


 僕は迷わず『感じた事がある』という答えを選択する。周りを見ていると、全員が僕と同じだった。ニュースをほとんど見ていないミサキでさえ、おかしな発言を聞いたことがあるようだ。



「ええと、アンケートの結果が出たようです。おかしいと感じた事がある人は、97パーセントですね。これは、もうほとんど全員が、弁護士の発言に違和感を持っていると言って良いでしょう」


 福竹アナウンサーが、ちょっとあきれた表情をしながら、アンケートの結果を発表する。『感じた事がある』の方が多いとは予想していたのだろうが、ここまで多いとは思っていなかったのだろう。

 普段の弁護士が、いかに一般常識から外れている言動をしているのかが分った。



 福竹アナウンサーが引き続き、宇宙人から話を聞き出す。


「『思考読み取り装置』を弁護士に使うと、具体的にはどうなるんでしょうか?」


「他の人と同じく、本心が分るヨ。『今、弁護してるケド、この弁護にはそもそも無理があるネ』とか、内心が字幕で表示されるネ」


「それは…… ちょっと面白そうですね」


「ソレと、弁護士が容疑者に、違法に罪から逃れる方法を教えていたら『偽証罪ぎしょうざい』や『証拠隠滅しょうこいんめつの罪』、やり方によっては『詐欺罪さぎざい』に問われるネ」


「普通に弁護をしている分には、罪には問われませんよね?」


「ソウネ。事実を隠したり、真実を歪曲わいきょくする様な事をしなければ、全く問題は無いネ。ソレに事実確認が曖昧あいまいな物に関しては、ワレワレからも積極的に証拠を提出するネ」


「なるほど、分りました。事実に基づいた、実直な弁護が一番というわけですね」


 弁護士がおかしな弁護をすると、罪に問われるようだが、まあ普通の弁護さえしていれば、何の問題もなさそうだ。



 気が付けば、時間がかなり過ぎていた、福竹アナウンサーが慌てた調子で言う。


「おっと、そろそろお時間となりました。今週の政策と、宇宙人さんの支持に関しての、いつものアンケートをお願いします」


 アンケート集計画面が現われ、僕は「今週の政策は『良かった』」「宇宙人を『支持できる』」に投票する。



 しばらくすると集計結果が表示された。


『1.今週の政策はどうでしたか?


   よかった 93%

   悪かった 7%


 2.プレアデス星団の宇宙人を支持していますか?


   支持する 73%

   支持できない 27%』



 アンケート結果を見て、感心するように言う福竹アナウンサー。


「今週の政策の評価は、非情に高いですね」


「この国の司法に、今まで不安があったのカネ?」


「それもあるでしょうが、弁護士に対するフラストレーションも大きかったと思います。弁護士をする機関が身内にしか無く、今までやりたい放題だったのも、いけなかったかもしれませんね。これでかなり改善できると思います」


「ソウネ。これから良くなると良いネ」


「さて、お時間となりました。また来週、お会いしましょう」


「マタネー」


 こうして番組は終わった。

 今週の改善政策で、弁護士の問題の解決はもちろん、おそらく裁判がかなりスピーディーになるだろう。

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