農作業とパワードスーツ 3

「そのスーツを着たままで、殴り合いのバトルでもやってみる?」


「「「ええっ!」」」


 姉ちゃんがとんでもない事を言い出した。

 僕が正気を疑う発言を、本気かどうか確認する。


「殴り合いって、姉ちゃん本気で言ってるの?」


「うん、本気よ。そのパワードスーツには衝撃耐性しょうげきたいせいも備わっているから」


「……そうなの?」


「じゃあ、試しに弟ちゃんを蹴ってみるね」


 そう言うと、姉ちゃんはいきなり僕を蹴り飛ばす。

 前蹴まえげりを、お腹ぐらいの場所に喰らい、重力を6分の1に設定していた僕は、ポーンと空中に放り出された。

 そこそこの力で蹴られたと思うが、衝撃は全く伝わってこない。気がつけば、なぜだか空中を漂っていたような感じだ。


 しばらくして、僕が地面にふわりと着地をすると、ヤン太がちょっと心配そうに聞いてくる。


「2~3メートルくらい吹っ飛ばされていたけど、平気か?」


「うん、平気だった。衝撃とか全く無かったよ」


「そうね、人の力だと、蹴ったり殴ったりぐらいじゃビクともしないと思うわ。トラックとかバスにひかれても平気なはずだから」


 姉ちゃんがちょっと得意気に言う。宇宙人の技術を使えば、確かにそのくらいの事はできるかもしれない。



「ダメージがないなら遊んでみたいな。ちょっと楽しそうだ」


 ヤン太がそう言うと、キングがこんな提案をする。


「それなら『大格闘だいかくとうスマッシュ・ブレイカーズ』のルールでどうだろう。あのゲームのルールだとキャラクターのダメージは関係なくて、エリア外に追い出せば勝ちだぜ」


「スマブレか、確かにそのルールなら良さそうだな」


 大体のルールが決まると、僕らは試合の準備に取りかかる。



 僕たちは収穫の終わったスイカの畑を使う事にした。

 ビニールテープを相撲の土俵くらいの円の形にして、地面に仮止めする。

 全員の重力の調整を、月面と同じ6分の1に設定して、戦う準備が出来上がった。


 みんな円形のステージの中に入ると、僕は姉ちゃんに審判を頼む。


「時間はとりあえず3分くらいで良いかな? 姉ちゃん、時間計るのと審判をお願いね」


「わかったわ。場外になるとアウトなのよね?」


「そう、それでお願い」


「じゃあ行くわよ。3、2、1、スタート」



「とおおぉーう」


 スタートの合図と共に、勢いよくミサキはジミ子に跳び蹴りをかます。

 低重力の中でのジャンプはもの凄い。まるでゲームのキャラクターのような大ジャンプをする。


「よっと」


 ミサキの動きを確認すると、ジミ子が低くしゃがんだ。


「えっ、ちょっと、待って!」


 ミサキはしゃがんだジミ子の上空を通過して、ステージの外へと飛んでいった。

 開始2秒くらいでミサキは脱落をした。この低重力の中では、うかつにジャンプをしてはいけない事を、僕らはミサキの失敗から知る。



「いくぜ!」


 キングがヤン太に向って、体当たりで突っ込む。


「返り討ちだ!」


 ヤン太が突っ込んできたキングの腹を殴り、続けざまにあごの辺りに肘打ひじうちをする。

 普通の状態だと、キングはノックアウト状態になっているだろうが、パワードスーツを着ているので無傷だ。


 ヤン太の攻撃を無視するように、キングが体当たりをすると、体重差でヤン太が吹っ飛ばされた。


「うわぁー」


 ヤン太は、3メートルほど、ゆっくりと空中を浮遊して、ステージの外に着地する。

 ケンカだとヤン太の方が間違いなく強いが、このバトルだと、体の大きさと体重がもっとも重要らしい。



 ヤン太が吹き飛ばされる様子を見せられると、ジミ子は僕に目配めくばせをしてきた。

 ジミ子の言いたい事がすぐに解った。僕らは一時的に手を組んでキングを攻撃する事する。ここで共闘をして、先にキングを潰しておかないと、僕らは一人づつキングに吹き飛ばされて終わりだろう。


「行くよ!」


 僕が真正面からキングと当る。

 二人とも腕をつかみ合い、組み合った状態になった時、ジミ子が横からキングの片足を、持ち上げるように組み付いた。


「えっ、ちょっと待っ……」


 片足を完全に封じられたキングは、まともに踏ん張る事が出来ない。

 僕はそのままキングの体を押していき、エリアの外に出そうとする。


 あと一歩で押し出すことが出来るという時、僕は突然、後ろから押された。

 想定外の攻撃に、僕はキングともつれるようにして、エリアの外に押し出される。


「クックック、手を組むからと言って油断する方が悪いのよ」


 押し出された後、振り返ってみると、そこにはニヤけた顔のジミ子が立っていた。

 この試合は、ジミ子の勝利だ。



「もう一回やろうぜ!」


 ちょっと悔しそうに、ヤン太がみんなに言う。


「いいぜ」「もう一回、やりましょう」


 そして2回目の試合を開始する。



 2回目は僕が勝利をした。


 出来るだけ戦わないように逃げ回り、最後にミサキの自爆を誘って、見事に勝利を収めた。


 試合が終わると、他のみんなは、すぐに次の試合の催促さいそくをする。


「もう一回だ!」「今度こそは私が勝つわ!」「次は重力の負荷の数値を変えてやってみようぜ!」


 こんな感じで僕らはバイトの終了時間まで遊びまくった。

 まあ、この遊びも、パワードスーツの耐久力のテストなのだが、僕らは大いに楽しんだ。



「はい、時間が来ました。みんなどう? 怪我とかしてないよね?」


 バイトの終了の時間がきて、姉ちゃんがみんなに聞くと、ジミ子が笑顔で答える。


「ええ、大丈夫です。疲れましたけど」


「そうだね。装置も壊れてないみたい」


 僕らは腕を動かしたり、足を曲げてみたりするが、不具合は無いようだ。もちろん体にダメージも受けていない。


「みんな大丈夫そうね。じゃあコレがバイト代よ。またよろしくね」


 僕らはバイト代をもらうと、地元に返された。



 しかし今日は疲れた。低重力でも動き回れば、それなりに負担になるようだ。

 パワードスーツを脱いだ後の、地球の重力が苦痛に感じる。


 この日は疲れを癒やすため、ハンバーガーチェーンのメェクドナルドゥで甘い物をたっぷり食べて、充分に会話を楽しんだ後、解散となった。



 後日、この時のテストが誰かに撮影されていたらしい。

 ジミ子がネットに公開されている動画を見つけて来た。


「ちょっとコレをみて、あの時の動画だと思うんだけど……」


 みんなで動画を確認すると、かなり遠くから撮影していたらしく、輪郭りんかくがぼやけていたが、間違いなくあの時の映像だろう。パワードスーツを着て、空中を漂っている時の動画が上げられている。


 あのパワードスーツは、そのうち宇宙人が発表するので、バレても問題にならないと思うが、動画には困ったタイトルがつけられていた。


『空飛ぶ人類、フライングヒューマノイドの謎の儀式!』


 僕は微妙な顔をして返事をする。


「うーん。まあ、間違っていないと言えば、間違ってないんじゃないかな……」


 動画のコメントらんでは、色々な議論が盛り上がっていたが、僕たちはそれを無視するように、動画のページを閉じた。人は信じられない物を見ると、オカルト的な物と結びつけるのかもしれない……

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