クローンとアンドロイド 1

 クローンとアンドロイドが発表されると、世間では大いに話題になる。

 テレビでは連日、特番が組まれて、放送されている。

 しかし、やはり実際にクローンを作ろうとしたり、アンドロイドを使ったりする人は少ないらしい。


 クローンは、やはり倫理観の壁があるようだ。実際にクローンの製作に踏み切った人は、まだ極々一部らしい。マスコミの発表によると、うちの国では、まだ2000人分くらいの依頼しか来ていないようだ。


 アンドロイドの方は、やはり企業秘密が公開されるのが嫌なのだろう。高齢者の仕事の手伝いなど一部の例外を除き、こちらもあまり広まっていないようだ。



 そんな中、僕らはキングの家に集まって遊ぶ。この前に遊んだ、すごろくゲームの『モソポリー』をキングも買ったらしい。このゲームはサイコロを転がしていれば、ゲームが進むので、ミサキにも楽しめる。


 サイコロを転がしながら、ミサキがこんな話をしてきた。


「私もアンドロイドを雇いたいわ。宿題とか押しつけたい」


「未成年者はアンドロイドを借りれないでしょ。それに、それじゃあ勉強にならないじゃない」


 ジミ子があきれながら言う。

 確かに勉強は本人の為にやる事だ。もし、ミサキがアンドロイドを雇えたなら、徹底的にサボるだろう。そういった意味では、未成年が扱えないようにしたのは正解かもしれない。



「まあ、ミサキがアンドロイド使って宿題をやらせたら、すぐにバレると思うけどな」


 ヤン太がサイコロを振り、自分の駒を動かしながら言う。


「なんで? どうしてなの?」


 ミサキが疑問に思うと、キングが横からこんな答えを言ってきた。


「まず、ミサキが宿題を提出するのがおかしい」


「そうだな」「それもそうね」


 キングの本気か冗談か分らない発言に、ヤン太とジミ子はうなずく。


「ちょっと酷い。私だって、意外と宿題は出しているのよ」


 ミサキは反論するが、その事に関して、僕は一言、口出しをしなければいけない。


「ほとんど僕の宿題の写しだよね?」


「あっ、まあ、そうね。いつも助かっています」


 ミサキは僕に向って深いお辞儀をした。ミサキのこういう所は憎めない。謝り方だけは一流と言えるだろう。



 ヤン太が再び話題を戻す。


「まあ、それはそれとして、やっぱりアンドロイドにやらせると、バレると思う」


「どうして?」


 ミサキが質問をすると、こう答えた。


「まあ、アンドロイドの中身はロボットだからな。数学とか理科は間違いなく答えられる。社会も基本は教科書の丸暗記だし、英語も簡単な受け答えしか出てこない。おそらく高校生レベルの宿題は、完璧にこなすだろう。それが問題だな」


「どうしてそれが問題なの?」


 ミサキはまだ答えが分らないらしい。ヤン太が更に説明を続ける。


「ミサキはこれらの教科を1問も間違いなく答えられるか? 特に数学で、計算ミスをしないで答える事は無理じゃないか?」


「ああ、うん。無理だわ。間違いなくバレるわ」


 ミサキが納得したようだ。赤点ギリギリのミサキが完璧に問題をこなすと、確かに怪しまれるだろう。

 もし、先生に「ここでもう一度、同じ問題を解いて見ろ」とか言われてしまうと、それで終わりだ。これまでの宿題をさかのぼって、やり直しになるかもしれない。



「そういえば、あの3人のツカサのアンドロイドはどうなったの?」


 ミサキが話題をそらすように僕に聞いてきた。

 あの3体のアンドロイドのその後は、姉ちゃんから聞いている。


「ええと、ミサキの学習させた1体は、月面の動物の王国の学校に通うみたい。普通の学生として、学習を続けさせるってさ」


「動物たちの学校で勉強なんて素敵ね、楽しそう」


 ミサキは目を輝かせながら言う。かなりメルヘンチックな学校を想像していると思うが、姉ちゃんの話だと現実は違うらしい、授業内容はこちらの学校と同じと言っていた。



「私とヤン太が学習させたアンドロイドはどうなったの?」


 ジミ子が聞いてくるので答える。


「ジミ子とヤン太の学習させた1体は、農業についてかなり詳しくなったから、更に農業を学ばせるらしい。火星刑務所で農業の実地訓練じっちくんれんだって。囚人の人達に色々と教わりながら、経験を積ませるらしいよ」


「ふーん。なるほどね。もしかして将来は農業のスペシャリストになるかもね」


 確かに、あのスピードで実際に学習を重ねれば、かなりの専門家になれるはずだ。



 最後にキングが聞いてくる。


「俺が教えたアンドロイドはどうなったんだ?」


「キングの学習させた1体は、宇宙人の宇宙船『銀色の月』で、宇宙人の技術と、地球のインターネットから学習を続けるみたい。宇宙人の技術を知り尽くした、地球人の1人の人格として扱われるらしいよ」


「そうか…… でも、ネットを学習して、ろくでもない性格になっていたからな。これから大丈夫だろうか……」


 キングの心配は分る。ネットを必要以上に学習させた事によって、足の引っ張り合いやののしりり合い、人付き合いでの負の部分を多く学んでしまった。あれが地球の人格のサンプルとして扱われると、人類としても困るだろう。あのアンドロイドの性格では、宇宙人の技術を、悪用しそうにも思える。



 僕の3体のアンドロイドの行方が分ると、ジミ子はこう言った。


「それぞれ立派に成長しそうね。未成年の私達は無理だけど、できるなら今すぐにでも、アンドロイドは使ってみたいわよね」


 僕がみんなに話を振る。


「みんなは自分のアンドロイドが使えるとなったら、何をさせるの?」


 するとヤン太がこう答える。


「決闘だな。自分自身の壁を越える! よく少年漫画にもあるじゃないか!」


「でも中身はロボットだからね。たしかあのロボットは、戦車で撃たれても平気だったし、いくらヤン太でも無理じゃないかな」


「ああ、そういえばそうだった。勝つのは難しいか……」


 僕が適当に理由をつけて、アンドロイドとのケンカを断念させた。マンガだと必ず主人公が勝つが、相手が宇宙人の作った機械では、勝てる可能性は無いだろう。



「俺もアンドロイドが1体欲しいぜ、ゲームの良い練習相手になりそうだ」


 キングがそう言うと、ジミ子はこんな事を言い出す。


「それじゃあダメよ。中身は高性能なロボットなんだから、もっと有効活用をしないと。その計算能力の高さを使って、株式の価格予想や外貨取引の値動きを予想させて、みんなでガッポリと儲けましょうよ!」


 ジミ子にアンドロイドを使わせたらダメだろう。酷い事になりそうだ……



「ミサキはどうなの?」


 僕がミサキに聞いてみると、ミサキは意外な事を言う。


「うん。まあ、本当に自由に使えるんなら、私はツカサのアンドロイドが1体欲しいわね」


「えっ、僕の? 僕のアンドロイドを何につかうの?」


「何って…… そんなのみんなの前で言えるわけないじゃない!」


 顔を真っ赤にするミサキ。いったい、何に使おうとしていたのだろうか、ジミ子以上に嫌な予感がする……


 その後も色々な話をしたが、結局、未成年の僕達には、クローンもアンドロイドも関係がまるで無いと結論が出た。

 この時は、確かにそう考えていたのだが……

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