第30回目の改善政策 2

「もう一つ、アンドロイドも労働力として利用できるようにするネ」


 宇宙人が、クローンだけではなく、アンドロイドも投入するらしい。



「アンドロイドですか? ロボットとどう違うのですか?」


 福竹アナウンサーが宇宙人に違いを訪ねる。


「ロボットは、機械として仕事をこなすネ。アンドロイドはベースとなる人間を模倣もほうする所が大きな違いダヨ」


「模倣ですか? 普通のロボットに作業させるのと、どう違うのでしょうか?」


「今回は農家からクレームが来たカラ、農業で例えるヨ。

 普通のロボットの場合、人間の指示が必要ネ。雇い主から、あの場所を耕して、コレを植えて、水をまいてなど、何らかの指示が必要ダヨ。

 アンドロイドの場合、計画の立案から行えるネ。あの場所にコレを植えよう。ここには、アレを植えよう。種まきの時期は、7日後。収穫は作物が順調に育てば90日後。必要によっては、他の労働者に依頼をしたりもするネ」


「なるほど、ちょっと違いが分ってきました。ロボットはあくまで人間の指示を仰ぎ、仕事のサポートをする役目。アンドロイドは、指示が無くても状況を判断して、自立型で仕事をする人間の代わりとなる存在なのですね」


「ソウネ。アンドロイドは人間に取って代われるネ」


 宇宙人の言い方だと、人間が要らないように聞えるが、確かにそうかもしれない。

 この間、僕はアンドロイドの学習能力についていけなかった。あのスピードで学習して行けば、人間より、より良い社会を築けるのかもしれない。


 ただ、ひとつ、心配がある。

 間違った方向に学習させると、とんでもない事になりそうだ。ミサキの学習させたアンドロイドのように、占いで農作物を決めたら、大変なことになってしまう。



「他にも見た目に違いがあるヨ。1体、用意したネ」


 宇宙人がそう言って、手で合図を送る。すると、福竹アナウンサーそっくりのアンドロイドが現われた。

 自分とそっくりのアンドロイドを目の前にして驚く福竹アナウンサー。


「これが機械ですか? まるで本物の人間ですね。ちょっと触ってみても良いですか?」


「イイヨ。触ってみてネ」


「じゃあ、ちょっと失礼して。おっ、肌の質感といい、触り心地やぬくもりまで本物と変わりませんね」


 アンドロイドの手や顔をいじくりまわす福竹アナウンサー。いつまでもいじっていると、アンドロイドが声を上げる。


「そろそろ次の話題に移ってはいかがでショウ」


「おっ、声もそっくりですが、イントネーションが微妙におかしいですね」


「まだデーターが足りないネ。本人に付き添って1ヶ月も経てば、完全な発音をマスターできるヨ」


「なるほど、そうですか。そうなると、本物と区別がつきませんね」


 確かにそうだ。特にテレビを通すと違いは全く分らない。ある日、アンドロイドと入れ替わっても気づかないおそれもある。



「ところで、技術の凄さは分ったのですが、このアンドロイドはどのように活用するのでしょうか?」


「即戦力の労働力として働いてもらうヨ。本人とほぼ同じ仕事は出来るからネ」


「おっしゃる通りで、すぐにでも働けそうですが、そうなると人間は要らなくなりません?」


「要らないネ」


「じゃあ人間はどうなるんですか? 仕事をしなくても良くなるんですか?」


「賃金は労働者に払われるべきネ。アンドロイドが働けば、アンドロイドに賃金を払うべきヨ」


「ええと、それだと本人にお金が入ってきませんよね?」


「ソウネ。メインで働かせる場合は、お金がほとんど入ってこないネ」


「メイン…… メインって本人として働かせるって意味ですよね。その言い方だと、何か別の働かせ方があるのでしょうか?」


「あるネ。助手として働かせる場合は、労働費が無料になるヨ」


「無料! なんとタダですか! メインと助手の違いはなんでしょう? 是非、教えて下さい!」


 タダと聞いて福竹アナウンサーの目の色が変わり、あきらかに興奮し始めた。一方、アンドロイドの福竹アナウンサーは冷静なままだった。



「助手として働かせるには、条件がいくつかあるネ」


 そう言って宇宙人はテロップを出す。

 テロップには次のような事が書かれている。


『1.労働時間は本人の7割まで』

『2.作業の知識やコツなどを、助手にちゃんと教える』

『3.助手に教えた知識は、人類の共有の知識として公開される』


「ええと、これらの条件を守れば、アンドロイドを無料で使えるわけですね。これから一つ一つ条件を確認していきたいと思います」


 興奮気味の福竹アナウンサーは、宇宙人に質問をし始めた。



「『労働時間は本人の7割まで』という事ですが、これは分りやすいですね。使用する時間の制限があるわけですね」


「ソウネ。労働時間に制限があるヨ。でも、一部で例外もあるネ」


「例外とはどのような事でしょうか?」


「本人が怪我や病気の場合、代わりに働かせる時の時間はカウントされないネ。あと、高齢者の場合は、本人より長い時間を働かせてもOKネ」


「なるほど、病欠の場合と、高年齢者の場合は大丈夫なんですね。例としてですが、畑仕事などは重労働に入るでしょう。高年齢者に長時間の重労働はキツすぎますからね」


「ソウネ。詳しい条件が分らない事は、個人で質問して来てネ。答えるヨ」



「次の質問に行きたいと思います。『作業の知識やコツなどを、助手にちゃんと教える』とありますが、これはどういう事でしょう?」


「助手に対して本人は作業のやり方を教育をしなければならないネ。デモ、助手は見ているだけで、作業のほとんどの工程を覚えるから、教える労力はほとんど要らないヨ。時々、理解できない時に、アンドロイドが質問をしてくるカラ、それに答えるだけでイイヨ」


「わかりました。あまり手間は掛からなそうですね。次の質問に行きたいと思います」



「では、最後の質問です『助手に教えた知識は、人類の共有の知識として、公開される』。これは助手が学習したデータが、世間一般せけんいっぱんに公開されると思って良いですか?」


「ソウネ。できるだけ分りやすい形で公開するネ」


「そうなると、企業秘密とかがなくなりますよね。例えば、料理などでは、レシピとか秘伝の隠し味とかも、公開されてしまう訳ですよね?」


「公開するヨ。どんな知識でも、失われるより公共の知識として保存する方が有意義だからネ」


「まあ、そうですが。そうなると利用する方も、業種によりますが、それなりのリスクがありますね……」


 確かに『タダより高いものはない』と言うが、これは大丈夫なのだろうか、あまり気軽に使えない気もする……



 福竹アナウンサーがうなっていると、横に居るアンドロイドの口が開く。


「そろそろお時間のようデス。アンケートのご協力をお願いしマス」


 本人が慌てて仕切り直す。


「あっ、私のお仕事を…… すいません、もうこんな時間だ。それではアンケートをお願いします」



 いつものアンケート集計画面が現われ、僕は「今週の政策は『悪かった』」「宇宙人を『支持できる』」に投票する。

 アンドロイドを3体も勝手に作られた僕の立場では、今回は反対せざるおえないだろう。



 しばらくすると集計結果が表示された。


『1.今週の政策はどうでしたか?


   よかった 37%

   悪かった 63%


 2.プレアデス星団の宇宙人を支持していますか?


   支持する 62%

   支持できない 48%』



 やはり今週のアンケートの結果はあまり良くは無い。

 クローンについては、拒否反応をする人も多いだろうし、アンドロイドに関しては、やはり商売の知識が公開されるのが嫌なのだろう。



「あまり結果がよくありませんね、タダで労働力が使える政策もあったのですが、不思議です……」


「ソウネ。原因が良く分からないネ」


 福竹アナウンサーと宇宙人は二人で頭をひねる。

 宇宙人はしょうがないが、福竹アナウンサーの倫理観りんりかんはどうなっているのだろう。やはり『倫理』より『無料』が、なによりも優先されるのだろうか……



 二人が原因を考えていると、福竹アナウンサーのアンドロイドの口がまた開いた。


「ソレデハ、また来週、お会いしまショウ」


「マタネー」


「また私の仕事を、そ、それではまた来週」


 こうして番組は、慌ただしく終わった。

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