第30回目の改善政策 1

 お昼の時報が鳴り、宇宙人と福竹アナウンサーがテレビに映る、


「残暑厳しいおり、皆さまいかがお過ごしでしょうか? 第30回目の改善政策が始まります」


「ヨロシクネー」


 今週も、いつもの番組が始まった、



 挨拶が終わると、すぐに福竹アナウンサーが宇宙人に話を振る。


「さっそくですが、今週の改善政策は、どんな内容でしょうか?」


「先週の改善政策で、地方の農家からものすごクレームがきたネ。そこで、今週の内容はこれネ」


 そう言って宇宙人は紙に書いたテロップを取り出した。


 そこには『労働力と後継者』と書かれている。



「『労働力と後継者』ですか、これは想像がつきませんね。具体的には何をするんでしょうか?」


「ワレワレはこの問題に関して、二つの具体的な解決法を用意したヨ。一つ目はクローン人間の提供ネ」


「ク、クローンですか? それは、本人の複製を作るわけですよね?」


「今回の改善政策では、記憶まではコピーしないカラ、厳密に言うと複製とは言えないネ」


「なるほど、そうですか。確かに人口を増やす事ができれば『労働力と後継者』は解決しますね」


 宇宙人がとんでもない事を言い出した。どうやら人間のクローンを作り出すらしい。

 ……まあ、姉ちゃんも、僕のクローンを酔った勢いで作り出そうとしていたので、宇宙人の技術を使えば問題なく出来るのだろう。



 福竹アナウンサーが真剣な顔で宇宙人に聞く。


「クローンと言えば、倫理的な問題を数多く抱えています。そこら辺の所はどうなっているんでしょうか?」


「クローン技術で作られた生命は、この惑星の法律に基づくと、『子供』という立場になるネ」


「子供ですか?」


「ソウネ。親が1人の子供ネ。この惑星でも、単独で増殖できる生命もあるでショ」


「確かに、植物とか、プランクトンとか、一部の生命体は単独で増殖はできますが……」


「ソレと同じネ。人間だって、単独で増殖しても良いじゃナイ」


「ええ、まあ、そうなんでしょうかねぇ」


 宇宙人と話していると、常識的な感覚が麻痺してくるのだろうか。福竹アナウンサーが説得されそうになる。



 ただ、このクローンの製作には問題がある。日本などの国では人口は減りつつあるが、地球全体で見ると爆発的に増えている。ここでクローン技術を使ってしまうと、人口増加に歯止めが効かなくってしまうかもしれない。


 そんな心配をしていると、宇宙人がこんな事を語り出す。


「ただし、このクローンを受けるには、いくつかの条件があるネ」


「ほう、それはどういう条件でしょうか?」


「まずはこれネ」



 テロップを出すと、『おひとり様、一品限り!』と書かれていた。そんな書き方だと、まるでスーパーの特価品のようだが、言いたい意味は伝わってくる。いちおう、福竹アナウンサーが内容を確認する。


「『おひとり様、一品限り!』ですか。つまり、1人につき、クローン体は1体まで、という事ですね?」


「ソウネ、まだ条件はあるヨ」



 次のテロップを出す。そこには『タバコやお酒やクローンは二十歳になってから!』と書いてある。


「これは年齢制限ですか。とりあえず成人以上の年齢だったら大丈夫なのでしょうかね?」


「ソウネ、クローン体の年齢制限は、成人以上を対象とするヨ。この年齢制限に関しては、各国の政府に任せるネ。次の条件で最後ネ」



 テロップには『普通の子供とクローンの子供は同じ!』と書かれている。これはちょっと意味が分りにくい。福竹アナウンサーが誤解が起こらないように、意味を聞き出す。


「ええと、これはどういう事でしょう? 詳しい説明をお願いします」


「普通の子供も、クローンの子供も、同じ権利を持つネ。人権や養育権、財産分与の権利を持つヨ」


「なるほど…… あっ、ちょっと待って下さい、クローンの人間も権利は同じなんですよね? だったら『おひとり様、一品限り!』という事は、例えば夫婦で子供がいた場合はどうなるんです?」


「夫婦だとこの国では2人だカラ、子供が居ない場合はクローンはそれぞれ1体づつ、合計2体までOKネ。

 子供がひとりの場合、どちらか1人のクローンか、夫婦の遺伝子をミックスしたクローンの、1体の生成が可能ヨ。

 子供が2人以上の場合は、クローンは作れないネ」


「なるほど。ちなみにクローンを作った後に、子供が生まれても問題はありませんよね?」


「問題ないネ。子供が二人以上いる場合は、更に新たなクローンの生成は出来ないという意味ネ」


「了解です。よくわかりました。」


 どうやら人口増加している地域に関して、ちゃんと対策を練っているようだ。

 人口は増えることは増えるが、このやり方なら爆発的には増えそうにない。



 クローンを製作する条件が分ると、次の段階の質問に移る。

 福竹アナウンサーは、こんな質問をする。


「クローンの製作には、それなりの年月がかかりそうなんですが、どうなんでしょう?」


「時間はかかるネ。生成にかかる時間は、熟成じゅくせいさせる時間に比例するヨ」


「『熟成』ですか? なんでしょうそれは?」


「生成するクローン体の年齢ネ。0歳児のクローンの場合、熟成期間はナシで、精製までおよそ3ヶ月。

 3歳児の場合は、精製期間の他に、熟成期間は2ヶ月、知識の学習に1ヶ月で、合計6ヶ月。

 6歳児の場合は、熟成期間は4ヶ月、知識の学習に3ヶ月で、お渡しマデ10ヶ月かかるヨ」


 食べ物のような言い方が気になったが、内容は伝わって来た。福竹アナウンサーが、ちゃんと確認をする。


「要は、クローンの年齢が上がれば上がるほど、引き渡し期間が延びるわけですね。ちなみに何歳くらまで熟成できるのですか?」


「技術的な期限は無いネ。90歳の老人も10年くらい熟成させれば作れるヨ。でも、秘書に言われて、年齢の上限は15歳までにしたネ」


「ええ、まあ、そのくらいを上限にした方が良いでしょうね」


 福竹アナウンサーが納得するように答える。

 姉ちゃんの言いたい事は分かる。いきなり老人として生まれてきたら、そのクローンの人は不幸としか言いようがないだろう。



「クローンに関しては、おおよそ分りました。そう言えば番組の冒頭で『労働力と後継者』に関して、二つの解決法が有るとおっしゃってましたよね。一つ目はクローン、もう一つはなんですか?」


「もう一つは『アンドロイド』ネ。これから説明するヨ」


 どうやらクローンだけではなく、アンドロイドも投入するらしい。

 番組はまだまだ続く。

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