山と雲海 3
僕らはミサキに急かされて、ロープウェイへと乗り込んだ。
このロープウェイはかなり大型で、160人ほどが一度に乗れるらしい。
ミサキがロープウェイの最前列の窓に貼り付く。
「雲がすごいわね~、大丈夫かしら?」
不安そうに、これから登る山頂を見つめる。
僕も山頂を見てみると、分厚い雲に覆われて、先が見える気配がまるでしない。
「まあ、山頂は雲の中で、何も見えないかもしれないわね」
ジミ子が、落ち着いた口調で言う。
確かに、天気ばかりはどうしようもないだろう。
ロープウェイはやがて動き出す。
動き出すと、あらかじめ録音されていると思われるアナウンスが流れ始めた。
「本日は
ロープウェイはかなりの速度で進んでいるようだ、眼下の森が次々と流れて行き、標高がどんどん上がっている。耳がボーッとしてきて、僕は口を開けて耳抜きをした。ふと、後ろを振り返ると、麓の駅は、もう遙か彼方の点のようになっている。
しばらくすると、僕らの乗っているロープウェイは、白い壁のような雲に突っ込んだ。雨粒が窓にまとわりつく。
ここでロープウェイのアナウンスが再び入る。
「左手に見えるのが
「いや、何もみえないだろ」
思わずヤン太が突っ込んだ。
「まあ、何も見えないわねぇ」
ミサキが窓に額を付けながら言う。
濃い霧に包まれて、周りはなにも見えない。
「これ、大丈夫か? 山頂も駄目なんじゃないのか?」
キングがちょっと心配そうに言った。
登ってくる前も不安だったが、その不安は的中するかもしれない。
この調子だと、頂上に行ったものの全く何も見えないという、最悪の事態も覚悟しなければならないだろう。
深い霧の中を進む事、およそ3分間。そろそろ頂上に着くかという時だった。
目の前の霧が突然晴れて、眼下に雲の海が現われた。
「おお」「すげー」「綺麗」
思わぬ絶景に、僕らは声を上げる。
青い空と、どこまでも続く雲の大海、島のように点在する、山々の山頂。
息を呑む光景とは、この事だろう。
この光景に心を奪われていると、あっという間にロープウェイは山頂の駅に突入して、速度を大幅に落とす。
山頂には、テラスとカフェテリアがあるはずだ、そこで空中サイクリングの貸し出しもやっていると紹介されていた。
やがてロープウェイは完全に静止して、ドアが開くと同時にミサキが外へと飛び出す。
「さあ、はやく…… 寒っむい」
走り出そうとしたミサキが、両手で二の腕を押さえるように縮こまる。
僕らもロープウェイの外に出ると、確かに寒い。
たしか標高が100メートル上がる毎に、気温が0.6度さがったはずだ。
ロープウェイでおよそ800メートル近く登ってきたので、さきほどより4度くらいは低くなっている。
「ミサキが寒そうだから、空中サイクリングは辞めておこうか?」
僕が、そう提案すると、ミサキは真っ先に否定した。
「ここまで来たんだから、私は行くわよ。あそこに受付がみえるから、はやく行きましょう」
ミサキがちょっと震えながら、小走りで受付の方へと走っていく。僕らはその後へと続いた。
受付を住ませて、僕らは注意事項を聞く。
僕らは空飛ぶ自転車を持っていたので、簡易的な説明がされただけだった。
いつもの自転車と違うのは、電動アシストが着いているのと、レンタルの制限時間が迫ると、告知などのメッセージが自動で表示される事ぐらいだ。
説明を聞き終えると、受付の人に、20分間、1200円という大金を払い、僕らは自転車にまたがった。
走り出す前に、ジミ子がベルトを取り出し肩から斜めに掛ける。そして、スマフォをそこにくくりつける。
「それは何? どうするの?」
僕がそう聞くと、こんな答えが返ってくる。
「動画をとって、ためしに
そう言いながら、にんまりと笑う。なるほど。大もうけは出来ないかもしれないが、このレンタル代くらいは稼げるかもしれない。
ジミ子の設定が終わると、僕らは空へと飛び出した。
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