水着とプール 5

 一通りテストが終わると、姉ちゃんは僕らに向って言う。


「ありがとう、とりあえずテストは終わったわ。あとはココで遊んでいって良いわよ。ちょっと待ってね」


 そういって、スマフォで電話を掛けると、一体のロボットがやって来た。


「このロボットを執事役として置いていくわ、分らない事があったら何でも聞いて。あと、遊び終わって帰る時になったら、このロボットに声を掛けてね、どこだってドアで送ってくれるわ。それとコレを渡しておくね」


 姉ちゃんはビニールのおもちゃの腕輪を僕らに渡す。


「ブレスレットですか、これは何でしょう?」


 ジミ子が姉ちゃんに聞く。すると、姉ちゃんは腕輪に付いたスイッチを指さしながら説明をする。


「これ、浮き輪なの。そのスイッチをひねってみて。膨らむから気をつけてね」


 ジミ子は言われた通りにスイッチをひねる。すると腕輪はゆっくりと膨らみ始め、やがて通常の浮き輪のサイズとなった。


「反対側にひねると縮むから。あと、これはビーチボールね。あっちのエリアだと遊ぶ事ができるわ。じゃあまたね」


 姉ちゃんはピンポン球くらいのビーチボールを僕らに渡すと、執事ロボットが出した『どこだってドア』をくぐって、どこかへと戻っていった。


「お姉さん、忙しそうね」


 ミサキが僕に言う。


「そうだね。でも夏休みは取るみたいだから、それが理由で忙しいのかもしれないよ」


 この間の休みの時は、姉ちゃんはTシャツ一丁いっちょうで、酒を飲んではダラダラと過ごしていた。あの姿は他の人に見せられない。



「とりあえず、あっちのプールに移動するか。あっちだと浮き輪やビーチボールを使っても良いらしいし」


 ヤン太が『ファミリープール』と書かれた一角を指さす。

 そこは子供向けのプールだった。浮き輪を付けた小学生がキャッキャッとはしゃいでいて、中学生くらいの子供は走り回って遊んでいる。高校生の僕らはちょっと恥ずかしいが、このプールへと移動する。


 ファミリープールの中に入ると、水深は70cmほど。太ももあたりまでしか水がない。

 水に入ると、キングは姉ちゃんにもらった浮き輪をさっそく広げた。

 すると、執事ロボットが説明をしてくれる。


「スイッチのヒネリ具合で大きさがある程度、変えられマス。最大サイズは2メートルデス」


「2メートルはデカすぎるな。このくらいでいいか」


 キングはちょっと大きめに浮き輪を膨らますと、輪の部分にお尻を落とし、ソファーのように腰掛ける。そしてスマフォを取り出して、ゲームを始めた。


「こんな所でゲームをやらなくても良いのに」


 ミサキはそう言うが、水にプカプカと浮かびながら優雅にスマフォをイジるキングは、かなり快適そうだ。



「まあ、俺らはもらったビーチボールで遊ぼうぜ。キングもデイリーのクエストをこなしたら落ち着くだろう」


 そういってヤン太は姉ちゃんからもらったビーチボールを膨らませた。


「どうせだったら何か勝負をしない?」


 ミサキがヤン太に勝負を持ちかける。


「そうだな。とりあえずバレーボールの要領で、ボールを落とした方が負けでどうだ? アタックや取れない位置へのパスは無しで、あくまでミスをした方が失点というルールでいいか?」


「良いわよ、受けて立つわ。チーム分けはどうしましょう?」


「グーパーで決めようぜ」


 ヤン太の提案で、グーパーでチーム分けをする。ミサキとジミ子、僕とヤン太のペアに分かれた。



「じゃあ、いくぜ」


 そういってヤン太はビーチボールを空中に放り投げる。

 ビーチボールは、ポーン、ポーンと何度かトスが続くのだが、あまり回数が続かない。背が低いのが不利なのか、だいたいジミ子の所で失敗する。


 負けが込んできたジミ子は強硬手段きょうこうしゅだんに出た。


「はい、次はヤン太ね」


 そう言ってヤン太の方にビーチボールを放ると、その直後に両手を使って水を浴びせかける。


「うりゃぁ」


 たまらずビーチボールを落とすヤン太。だが、ただやられっぱなしではない。


「うおっ、やったな。これでもくらえ」


 ヤン太はビーチボールをそっちのけで反撃に出る。

 二人で激しく水を掛けあっていると、ミサキもそこへ参加する。


「ほら、ツカサも参加しなさい。そりゃぁ」


 勢いよく放たれた水は、僕を頭からずぶ濡れにして、キングにも掛かった。


「何やってるんだ? うわぁ」


 ミサキによって、キングも浮き輪ごとひっくり返された。


「もうゲーム終わったでしょ? あそぼうよ」


 無邪気に笑いながら言うミサキに、キングは怒る気を無くしたようだ。


「わかった。ちょっとロボットにスマフォを預けてくる」


 キングはロボットにスマフォを渡し、この後、僕らは徹底的てっていてきに遊んだ。

 波の打ち寄せるプールで、波に逆らって泳ぎ。流れるプールでは、浮き輪に捕まり何周も漂った。


 ウォータースライダーでは、ミサキが水の抵抗を減らして滑ろうとしたので、慌てて止めた。ミサキ曰く「ちょっとだけ」という話だったが、ミサキのちょっとは当てにならない。あの水着は、何らかの安全装置が必要かもしれない。



 遊び疲れて、浮き輪をソファー代りに休んでいると、閉園の音楽が流れてきた。時刻は夕方の4時45分。気がつけば日が傾いて来ている。


「帰るか」「そうね」「そうしましょう」


 ヤン太に言われて僕らは返事をする。水から体を引き上げると、重く感じた。歩くとちょっとフラフラする。

 僕らは着替えを済ますと、どこだってドアをくぐり抜け、地元へと戻ってきた。

 別れの挨拶をして、それぞれの家に帰る。

 きょうはクタクタだ。日に焼けたのか、肌もヒリヒリする。



 家に帰ると、姉ちゃんが既に帰宅していて、ソファーに座ってお酒を飲んでいた。

 姉ちゃんは僕に気がつくと、テレビを指さしながら言う。


「そろそろニュースで新作の水着の話題が出るかも。発表の時に昼間の映像を使ったから、もしかしたらみんなもテレビに出るかもよ」


「えっ、本当? ちょっとLnieでみんなにメッセージを投げるよ」


 僕はこの事をメッセージで伝えると、テレビをジッと見つめる。

 普通のニュースが続いた後、宇宙人の新作の水着の話題となった。


 アナウンサーが原稿を読み上げる。


「このたび、宇宙人の技術を使った水着の試作品が発表されました。『水の抵抗を減らして泳げる水着』『浮力を調整して、泳ぎやすくなる水着』『絶対にズレない水着』近々、正式に発売される予定です。こちらの映像をご覧下さい」


 そして画面が切り替わり。昼間のプールの映像となった。


 まずはヤン太が勇ましく泳ぐシーンが映り、アナウンサーが解説する。


「この少女は、水の抵抗を減らす水着を付ける事により、2秒半近くのタイムが減りました」


 続いてミサキの水面を滑る映像が流れる。


「この映像は作られたものではありません。水の抵抗を最大限減らすと、ここまで早くなるようです」


 次はキングのお尻が映った。姉ちゃんのカメラワークが下手なのか、顔は全く映っていない。


「これは浅瀬ではありません。浮力を最大にすると、このような状態になるようです」


 次はジミ子の匍匐前進ほふくぜんしんが映る。


「浮力を最大にすると、どうやら水に沈むこと無く、移動する事もできるようです」



 いよいよ僕の番となった、初めてテレビに出るとなると、ドキドキしてきた。


「最後はズレない水着です。ズレないので、かなりきわどいデザインでも実現可能となります」


 アナウンサーに言われて思い出す。僕はあの恥ずかしい水着を着ていたんだった。一日中着ていたから、最後の方は慣れてしまっていたが、アレの姿が放送されるとなると、恥ずかしくてたまらなくなった。

 だが、後悔しても始まらない。テレビので映像が流れる。


 それは僕が水の中でラジオ体操をしている映像だった、しかし顔にモザイクが掛かり、誰だか分らないようになっている。


「こちら、被写体が未成年という事なので、映像を加工させていただきました。このように激しく動いても全くズレません」


 姉ちゃんが独り言のように言う。


「弟ちゃんの水着、あれは凄かったからね~ たしかにモザイク掛けないとダメかもね~」


 僕の尊厳そんげんは守られたものの、納得はいかない。


「姉ちゃん。アレ、何とかならかなったの?」


「えっ、何? モザイクの事? 顔じゃなくて水着の方に掛けてもらえばよかったかな?」


「それはやめて。そうじゃなくて、もっとデザインを大人しくすればよかったんじゃないの?」


「ああ、それは私も思ったんだけど。弟ちゃんにはコッチが似合うかと思ってね」


「次からは僕にも確認してよね」


「うん。分ったわ」


 ……本当に分ったのだろうか? 酔っ払い気味の姉ちゃんの返事は、全く信じられない。とりあえず、次にバイトを受けるときは、もっと慎重に確認をしよう。

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