水着とプール 4
僕たちは水着のテストをしている。
ヤン太とミサキの水着のテストが終わった。
「じゃあ、次は俺が行くか」
そう言いながらキングが水に浸かると、姉ちゃんがこんな事を言う。
「泳ぎは不得意だっけ? ビート板とか居る?」
「あるなら
姉ちゃんはどこからかビート板を取り出し、それをキングに渡す。
「これを使ってね『みなさん~、今度は泳ぎの苦手な子が泳ぎます。まずは通常の状態で泳ぎますね~』」
周りの人達に状況を説明する。そして、それを聞いていたキングが動き出す。
「じゃあ、機能をオフのまま行くぜ」
キングはビート板を使ってバタ足を始める。一生懸命、全力でやっているが、あまり前に進まない。水を怖がって体が縮こまり、腰が沈み込んでいて上手く力を伝えられていないようだった。
10メートル程進んだ所で、姉ちゃんが声を掛ける。
「そこまででOKよ、浮遊力を調整するスイッチを動かしてみて。半分くらいで良いと思うわ」
「わかった。おっ、おおっ」
スイッチをいじった途端、体が浮き上がってきた。足先と肩から上が水面に出て、バスタブに入っているような姿になる。
「すごいな、これ。塩分濃度の高い
「それでちょっと泳いでみてちょうだい」
姉ちゃんに言われて、キングは再びビート板を構える。
「これなら泳げそうな気がする、いくぜ!」
再びキングがバタ足をすると、今度はちゃんと前に進む。沈む事が無いので、体を真っ直ぐと伸ばし、足の動きが上手く
ただ、浮力が強すぎるのか、水深20センチくらいの子供用のプールで泳いでいるように見える。お尻が極端に水の上に出て、ほぼ丸見えだ。そんな状態で泳いでいると、周りからはこんな声が聞こえてくる。
「どこかのアイドルか?」「エロい」「ちょっと俺、スマフォとってくるわ」「俺はこの光景を目に焼き付けるぜ」
どうやら、かなり注目されてしまっている……
キングが25メートルを難なく泳ぎ切り、こちらへ戻ってきた。
「これなら俺でも泳げるわ」
「そうね、これで、ちょっとずつ浮力を弱くしていけば、そのうち普通の水着でも泳げるようになるかもね」
姉ちゃんがそう言うと、キングもちょっとその気になる。
「ちょっと水泳にチャレンジして見ようかな」
キングの様子を見ていたジミ子が、自分も機能を試したくなったようだ。
「次は私が行きます。浮力が最大でも問題ないですよね?」
「そうね。テストしてないけど、最大にしてもミサキちゃんみたいに頭をぶつける事も無いでしょう。最大で構わないわ」
姉ちゃんから許可を取り、ジミ子は出力を最大にする。
「じゃあ、行きます」
プールにゆっくりと浸かるジミ子。だが、様子がちょっとおかしい。
「うん? あれ? 沈まない…… ウォーターベットみたいだわ」
よく見るとジミ子は
「ちょっと泳いでみてくれる?」
姉ちゃんに言われて、ジミ子は
「はい。ええと、とりあえず泳いでみます」
クロールで泳ぎ始めるが、水がまったく掛けない。ブヨブヨのクッションの表面を、軽く引っ掻いているようなものだ。ほとんど進まない。
「なにこれ? どうすれば良いのかしら?」
「
ヤン太に言われて、ジミ子は匍匐前進を開始した。柔らかな水の上を這うように移動する。進んではいるが、泳いでいるとはとても言えない。
「暑い、水に浸かりたい」
水面で匍匐前進を続けるジミ子が文句を言う。確かにこの気温で、この運動は辛そうだ。
「そんなに暑いなら、浮力を調整して水に浸かれば良いじゃない」
僕がそう言うと、気がついたようだ。
「それもそうね。浮力を落としましょう。ええと、わぷっ!」
ジミ子がスイッチをいじると、ドプンと沈んだ。いきなり出力を落としてしまったらしい。ジミ子は一端、完全に沈んだが、プールの底を蹴ってすぐに水面へと上がる。
「ケホッ、ちょっと水を飲んじゃった」
「大丈夫か? さっきは半分くらいの出力で上手くいったぜ」
「分ったわ。私もそれでやってみる」
キングがアドバイスをすると、ジミ子はそれに従う。
「おっ、これなら行けそうね。ちょっと泳いでみるわ」
浮力を調整して、ジミ子もようやく泳ぎだした。ジミ子はキングより泳ぎが苦手だが、ビート板などを使わなくてもそれなりに泳げるようだ。しかし、浮力が強いようで、やはりお尻がほとんど見えている……
周りの見物人からこんな声が聞えてきた。
「あの子、可愛くないか?」「たしかに。胸が無いけど、これはこれで良いな」「そうだな俺より胸がないけど良いな」
するとジミ子がキレた。ものすごい
「聞こえてるわよ! 『胸が無い』て言ったヤツ、今すぐ出て来なさい!」
「まあまあ、落ち着いて」「そうだ。落ち着けジミ子」
ミサキとヤン太が急いでフォローに回る。
しばらくなだめていると、ジミ子が落ち着いてきた。あらためてジミ子に胸の話題は禁句だと思った。
他の人のテストが終わり、いよいよ僕の番となる。
ただ、僕の水着は『ズレない』という地味な機能だ。早く泳いだり、浮力が調整できるわけではない。どんなテストをするのだろう?
「姉ちゃん。僕は何をすればいいの? とりあえず泳ぐ?」
「泳ぐのも良いんだけど、弟ちゃんはこの曲に合わせて踊ってくれる?」
「えっ、ダンスなんて出来ないよ」
「大丈夫よ、ほら踊れるから。出来るだけ激しく踊ってね」
姉ちゃんはそう言って、スマフォから曲を流す。
『ラジオ体操、第一、腕を前から上に~』
ああ、なるほど。踊りと言っていいのか分らないが、これなら踊れる。
僕はスマフォから流れる指示の通り、体を動かす。腕を大きく回したり、小刻みにジャンプをしたりする。
この水着はあまり胸を固定していないらしい、胸が大きく揺れて、引っ張られる。
僕は極めて健全な準備運動をしているだけだが、周りのギャラリーからはこんな声が聞えてきた。
「エロいな」「エロい」「エロすぎる」
恥ずかしい。早めに終わらせたい。
しかし、この後も曲は続き、ラジオ体操第二まで、しっかりとやらされた。
水着がズレる事は無かったが、このデザインは何とかして欲しい。
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