水着とプール 1

 シャワーを浴びて、夕食までリビングでダラダラと過ごす。

 すると姉ちゃんが帰ってきた。


「ただいま~ いやぁ今日も暑かった。あっ、弟ちゃん、ちょうど良いところに居た、楽なバイトがあるんだけど、引き受けてみる?」


「どんなバイトなの?」


「水着を着てプールで一日過ごすだけのバイトよ。日給はなんと3万円よ」


 ……ただ水着を着ているだけで、そんなにお金が貰えるとは思えない。これは、いかがわしいバイトなんじゃないだろうか?


「なんか怪しいんだけど、何をさせられるの?」


「宇宙人の技術を使った水着を開発してるの、それのテストをやって欲しいの。あとバイト代が高いのは水着のモデル代ね。写真を何枚か撮って、カタログか何かに使わせてもらうわ」


「モデルなんて仕事、僕らに務まるの?」


「いちおうポーズは取って貰うけど、立ったりしゃがんだりするだけで大した事はやらないわ。水着を作っているメーカーにサンプルで配るカタログだから、スーパーのチラシレベルで大丈夫よ。その気があるならグラビアアイドルみたいな写真を撮っても良いけど」


「いいよ、そんなのは」


「他のお友達にやるかどうか聞いてみて」


「わかった、みんなに聞いてみるね」


 そう言ってLnieのアプリでメッセージを流す。



『姉ちゃんからバイトの誘いがきたんだ。宇宙人の作った水着のテストと、その写真撮影らしい。一日で3万円もらえるって、みんなはやる?』


 すぐに、ヤン太、ミサキ、キング、ジミ子から返事が返ってくる。


『やるよ、大金だな』『やるわ』『やるぜ』『是非、やらせて下さい』


 僕はすぐに姉ちゃんに報告をする。


「みんなOKみたいだよ」


「いちど、打ち合わせをしたいのだけど良いかしら? 体のサイズも測らなきゃならないし」


「わかった。予定を聞いてみるね」


 この後、みんなの予定を聞いて、翌日の午前中、姉ちゃんの会社に集まる事になった。



 翌日になり、みんな会社の前に集まった。

 全員が集まると、丁度良いタイミングで受付のロボットがやって来る。


「お待ちしておりまシタ。こちらへドウゾ」


 僕たちは会議室に通されると、姉ちゃんがやって来てこんな説明をする。


「バイトを引き受けてくれてありがとうね。今日は体のサイズの測定と、どういった水着にするか話し合いましょう」


「どんな種類の水着があるの?」


 僕が質問をすると、姉ちゃんはこう答える。


「そうね、まずはサイズを測っちゃいましょう。それから話すわ」


 そう言いながら部屋の片隅にある電話ボックスのような物を指さした。



「まずは弟ちゃん。入ってみて」


「これ、大丈夫だよね?」


 僕はそう言いながら、電話ボックスのドアを開けて中に入る。


「弟ちゃん。足は肩幅くらいに開いておいて。背筋を伸ばしてあごを引いて」


「わかった。こんな感じかな?」


「もう測定は終わったわ。外に出て良いわよ」


「えっ、もう終わり?」


「ええ、試しに映像として映してみる?」


 そういって姉ちゃんが手をかざすと、僕の立体映像が浮き上がった。



「良くできてるわね。本物と同じようだわ」


 ミサキがまじまじと僕の映像を見る。


「弟ちゃんを立体的に完全にスキャンしたからね。動かすことも出来るわよ、『歩いて』」


 姉ちゃんがそう命令すると、僕の映像は空中で歩き始める。


「3Dのキャラとして完全に扱えるわ、これで弟ちゃんをラブモンGOのキャラとしてゲームに出す事も可能よ」


「絶対にやめてよ」


 僕が姉ちゃんに強く言う。


「分ってるわよ。水着が出来たらデータを消すから安心して」


「ゲームに出てこないのはちょっと残念ね」


 ジミ子がボソリと言う。僕のキャラがあのゲームに出て来た所で、何もできないだろう。周りはバケモノのキャラばかりで、せいぜいゾンビかグールにされるのがオチだ。


 この後、みんなも測定装置に入り、完全な3Dデーターをスキャンした。



 全員のデータを取得すると、姉ちゃんが水着について説明をし始めた。


「ええと、今回作った水着のタイプは3つ有るんだけど、この中で泳ぎが得意な人は居るかな?」


「この中だと俺かな」「はい!私も!」


 運動の得意なヤン太とミサキが手を挙げる。


「じゃあ、その二人にはスポーツタイプの水着をつけてもらいましょう。ちょっと前に水泳競技で問題になった水着って覚えてる?」


「ええと、水の抵抗が少なくて問題になったヤツですか?」


 ヤン太が姉ちゃんにそう言うと、ミサキも思い出したようだ。


「ああ、あの、記録を更新しまくって規制された水着ですよね」


「そうそう。その水着を更に強化した物だと思ってちょうだい。かなり水の抵抗が少なくなるの」


 僕が姉ちゃんに聞く。


「そんなの作って大丈夫なの?」


「あくまで試作だからね。実際に競技で使うわけじゃないから。とりあえず泳ぎ心地を調べるだけだから大丈夫。これを着て、二人には思い切り泳いで欲しいの」


「分りました!」「任せろ!」


 二人とも力強く答える。



「ええと次の水着は、この中で、泳ぎが不得意な人は居るかな?」


「……はい」「俺も得意じゃないな……」


 ジミ子とキングが控えめに手を挙げた。確かに二人はあまり運動が得意ではない。


「じゃあ二人には泳ぎやすくなる水着を試してもらいましょう」


「泳ぎやすくなるって、どういう事ですか?」


 ジミ子が姉ちゃんに聞く。すると、こんな説明が返ってきた。


浮力ふりょくを調整できる装置の付いた水着をきてもらうわ。見た目は普通の水着と変わらないけど、体のあちこちにきを付けたような感じになって、水に簡単に浮けるようになるわ」


「それなら、けっこう泳げるかもしれないな」「そうね。25メートルくらい行けるかも」


 キングとジミ子がちょっと安心したように答えた。

 確かに、浮きが付けばスピードは落ちるかもしれないが、泳げるようになるだろう。



 残り一人となった。姉ちゃんは僕に向って言う。


「じゃあ最後の水着は弟ちゃんで良いかな?」


「とんでもない水着じゃないよね?」


 念のため確認する。変な水着は絶対に嫌だ。


「大丈夫よ。着心地きごこち、というか水着だから付け心地かな? まあ、それに関する機能だから」


「どんな機能なの? 想像できないけど」


 僕が疑問をぶつけると、予想以上に地味な答えが返ってきた。


「まあ、一言で言うと『ズレない』機能かな。ビキニ型の水着って、動いていると意外とズレるのよ。それが起こらないの、いちいち直さなくてもいい水着ね」


「それは良いかも」「良いですね」


 僕はよく分らないが、ミサキとジミ子はこの機能を褒めたたえた。

 これは意外と役に立つ機能なのかもしれない。



「あと小物を何点か作ったわ。防水の携帯の人は居る?」


「はい!」「俺も」


 ミサキとキングが返事をする。


「浮力を増強して、水に沈まなくなるスマフォケースを作ったんだけど」


「欲しい、絶対に!」


 いつもスマフォでゲームをしているキングが、姉ちゃんに強く主張をする。


「わかったわ。これはキングくんにテストしてもらいましょう。あとで携帯の型番を教えてね」


「OKだぜ」


「あとの小物は現地で渡すわ。水着のデザインは、グループ会社の人に任せるから、ちょっと時間をちょうだい」


「姉ちゃん、ちょっとってどのくらい?」


「おおよそのデザインは出来てるらしいから、あとは微調整で1~2日くらいで大丈夫らしいわ。3日後、テストと撮影はどう?」


「大丈夫です」「行けます」「OKだぜ」「分りました」


 みんな了解の返事をする。


「じゃあ決まりね。これバイト代、今回は前払いだから大切に使ってね」


 封筒に入った現金を渡される。


「「「「ありがとうございます」」」」


 こうして僕たちは大金を手に入れた。



 そして3日が過ぎ、バイト当日を迎える。

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