釣りの一日 3

「そろそろ魚が引っかかってないかしら?」


 仕掛けを水に入れて、1分も経たないうちに、ミサキがこんな事を言い出す。

 僕は、落ち着きの無い子供に言い聞かせるように言う。


「まだ早いよ、釣りの仕掛けの『浮き』が全く動いてないじゃない」


「わかったわ。『浮き』が動いたら引っ張れば良いのね」


 引っ張るだけでダメだと僕が言おうとした時、浮きがピクッと、ちょっとだけ動いた。


「とうりゃぁ」


 ミサキが力一杯、引っこ抜く。

 タイミングが早すぎる、魚はまだ様子をみてエサをつついていただけだ。

 針が水面から上がると、予想通り、魚はまだ引っかかっていなかった。



 ミサキは何もかかっていない針を見てガッカリした後、僕に文句を言ってきた。


「釣れてないじゃない」


「まだ早いよ、ちゃんと食いつくのを待ってから引き上げないと」


「エサを見たら、すぐに食いつくんじゃないの?」


 魚は意外と警戒心が強い、特に釣りの盛んなこの池では慎重な魚がほとんどだろう。エサを見たら迷わず食らいつく、ミサキのような魚は滅多にいない。


「ええとね。もっとちゃんと食いつくタイミングに合わせないといけないんだ」


「どうすればいいの?」


 具体的なタイミングを説明するのは難しい。スマフォでサンプルの動画でも見せようと思った時だ、ヤン太が僕らを呼ぶ。


「こっちに当りが来たぞ、ちょっと見ててみな」


 浮きは、チョンチョンと、軽く動いた後、ググッと水中に引き込まれる。


「今だ!」


 ヤン太が強く竿を引き上げる。すると魚がくっついて上がってきた。

 体長は10cmくらいの、手のひらに収まりそうな、かなり小さな魚だ。


「釣れたけど、小せーな」


 あまりの小ささにヤン太がちょっと微妙な顔をする。


「何その魚? 見たことないんだけど?」


 ジミ子が釣れた魚を覗き込みながら言う。僕も気になって見てみたが全く分からない。


「日本の魚じゃないよね?」


「どうみてもそうだな。南米あたりに居そうな感じだな」


 ヤン太も魚をじっくりと観察するが、どうやら分らないらしい。



 それを見てキングがこんな提案をする。


「ちょっと俺のトゥイッターに上げてみるよ。誰か分る人が反応するかもしれないぜ」


 そういって写真を撮ってトゥイッターに上げた。

 魚は魚籠びくという、水に浸した網の中に入れておく。小さい魚だが、魚籠の編み目は細かいので逃げられないだろう。



 しばらくすると、キングのトゥイッターに書き込みがあったようだ。スマフォを見ながらキングが言う。


「ええと、『ブルーギル』っていう魚らしいぜ」


 名前が分ったので僕も調べてみる。すると、あまり良くない情報ばかり目に付く。

 この魚は『特定外来生物』、つまり外国から来た魚で、雑食で食欲旺盛しょくよくおうせい。他の魚の卵や稚魚を食い荒らし、日本の生態系を壊しているらしい。場所によっては日本の魚を絶滅させる勢いのようだ。


「『特定外来生物』で、あまり良い魚じゃないみたい。生態系を壊すってさ」


 僕がそう言うと、ヤン太が返事をする。


「じゃあ、捕まえたら放流せず持ち帰るか」


「この魚って食べられるの?」


 ミサキが聞いてくるので僕が調べると、どうやら食べられるようだ。


「ええと、皮を厚く剥げば、けっこういけるみたい。バター焼きやムニエルが良いって」


「ふふふ、じゃあ沢山とらなきゃね。生態系の改善の為に」


 食べられる魚だと分かり、ミサキがやる気を出した。



「おっ、ジミ子の竿が引いてるぜ」


 キングに言われてジミ子が慌て出す。


「ど、どうすればいいの?」


「浮きが消えたら、引っ張ればいいのさ」


「わかったわ。よいしょっと」


 浮きが沈んでしばらくしてからジミ子は竿を引っ張った。

 ちょっとタイミングが遅かったが、上手く引っかかったようだ。魚がグイグイと竿を引っ張る。


「けっこう強い。助けて」


 ジミ子に言われて、ヤン太が竿を支えにまわり、キングが捕獲する為の網を構える。

 魚は2~3回、大きく抵抗したものの、その後は素直にキングの網の中に収まった。


「やったわ!」


 20cmちょっとのブルーギルを釣り上げ、無邪気に喜ぶジミ子。今まで暑さでぐったりとしていたが、笑顔に変わってはしゃぐ。その様子はちょっとかわいらしい。



「なかなかの大物だぜ」


 そう言っているキングの竿がピクリと動き出した。


「キング引いてるよ」


「おっと、じゃあヤン太、後は頼んだ」


 釣れたばかりの魚をヤン太に任せて、キングは自分の竿を握る。

 僕らはあまり釣りをしていなかったが、キングはゲームの中では、そこそこ釣りをしていたらしい。

 タイミングよく竿を魚に合わせて釣り上げた。


「釣れたが…… ちいさいな。10センチちょっとくらいか?」


 ヤン太より少し大きなブルーギルが釣れる。


「ブルーギルばっかりだね」


 僕がそう呟くと、僕の浮きも動いた。タイミングを慎重に合わせて、竿を上げる。


「ちょっと遅かったかも…… あっ釣れてる」


 手応えがあまりなかったが、7cmくらいのブルーギルが引っかかっていた。



 この後、ミサキ以外の人は釣れまくる。ミサキからは殺気か食欲でも漏れているのだろうか、魚が寄りつかないようだ。


 ヤン太の浮きが動く。


「おっ、またきた。流石にブルーギル以外の魚が来い……」


 ヤン太がそう言いながら竿を上げるが、針には小さいブルーギルが付いていた。これで連続で21匹目だ。


「この池はブルーギルが多いのね」


 ジミ子の質問にキングが答える。


「いや、中学の頃は一匹も見なかったぜ。外来種と言えば、ブラックバスが居たが、せいぜい5匹に1匹ぐらいだった、ここまで酷くはなかったぜ」


「昔はコイやフナとかもちゃんと釣れたんだけど……」


 僕がそう言うと、ミサキが反論する。


「まあ、食べられるんだから良いじゃない」


 ……あまりこの状況は良いとは言えない。数年でここまで繁殖したとなると、この池の生態系が心配だ。



 ジミ子が22匹目のブルーギルを釣り上げている時、僕のスマフォが鳴る。


 画面を確認すると、姉ちゃんからのメッセージだ。


『仕事が片付いたから、そっちへ向うね。興味を持った会社の人が居たから、その人も連れて行くね』


 僕はこのメッセージをみんなに伝える。


「姉ちゃんがそろそろ来るってさ。会社の人もひとり、連れてくるみたい」


 するとヤン太がこんな心配をする。


「釣り道具が足りなくなるんじゃないか?」


「大丈夫だよ。僕が竿を一本余計に持って来たし、姉ちゃんは新しく買いそろえたみたいだから」


「それならいいけど、所で誰を連れてくるんだ?」


「う~ん。だれだろ? 同じ会社の人だと、レオ吉くんくらいしか思い浮かばないけど?」


 そんな会話をしていたら、上空からロボットがやって来て、どこだってドアを設置する。


 そして、そのドアをくぐってきたのは、大きなクーラーボックスを持った姉ちゃんと、身長3メートルを超える巨大な人影。フラットウッズ・モンスターの宇宙人だった。

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