釣りの一日 2

 僕らは学校に行くときと変わらない時間に集まる事にした。

 この釣りに行きたいと言い出したミサキは、


「そんな朝早くに起きられない」


 と言っていたが、僕らは構わず朝から集まる事にする。釣りは時間帯が重要だ、それにこの時間に起きられないようなら、2学期は全て遅刻になるだろう。



 釣りの当日となり、僕はミサキを呼びに行く。

 眠気半分のミサキを強引に連れて、一端、キングの家の前に集まった。


 全員が集まる事を確認したら、そこから空中サイクリングが始まる。

 夏の朝はすがすがしい…… と、思ったのだが、これがまた暑い。5分も経たないうちに、ミサキが文句を言い始める。


「あづい~、朝からなんでこんなに暑いのよ~」


 僕ががミサキに言い聞かせる。


「しょうがないじゃない、夏なんだから。それにミサキが釣りに行きたいって言い出したんだよ」


「でも、こんなに暑いとは思わなかった」


「ほら、黙って漕がないとたどり着かないよ」


 日陰の一切無い空中は灼熱地獄しゃくねつだ。僕らはこの地獄の中で、ひたすらペダルを漕ぐ。

 20分ほど空中を走り、僕らは目的の公園へと着いた。



 幅は50メートルほど、長さは500メートルを超える東西に広がる長い池。

 その周りを囲むように森林が囲み、遊歩道が用意されている。


 かなり広い公園で、池というより湖だ。森はうっそうと茂り、どこまでも広がっているように感じる。

 実際にこの公園はかなり大きく、東京ドーム4個分にもなるらしい。遊歩道には散歩している老人や、ジョギングをしている人達で賑わっていた。



 僕らは駐輪場に自転車を止め、公園の前にある釣具屋へと移動する。

 するとジミ子が不思議がる。


「昨日、釣り具は買いに行ったじゃない? 何か忘れた物でもあったの?」


「エサを買わなきゃならないからね」


 僕がそう言ってもジミ子は納得しない。


「エサも買ってたじゃない?」


「あれは粉から練る練りエサといって、買うのは別のエサなんだ」


「まあ、行ってくる。見た方が早いだろう」


 そう言ってヤン太は店の中へと入っていった。


 しばらくするとヤン太が小さなコンビニ袋を持って出て来た。


「何を買ったの?」


 ミサキが袋の中を覗き込む。

 すると、ヤン太が透明なコップのような容器を出しながら説明する。中には赤褐色せきかっしょくの物体が入っている。


「ミミズだぜ、やっぱり活きエサは食いつきが違うんだ」


 すると、ミサキが後ずさりをする。


「うわぁ……」


「私はちょっと無理かも……」


 ジミ子も似たような意見らしい。女子達は思いきり引いている。


「ミミズはダメだったか。それならウジ虫の方がよかったかな」


「いや、それも無理」


 ヤン太の提案をミサキがキッパリと否定した。



 僕らは公園の中へと入る。木の下の木陰に移動すると大分涼しい。水辺から風が吹いてくるとさらに涼しく感じる。


 キングがスマフォで確認をしながら言う。


「釣りが出来るエリアは決まってるんだ。ちょっと遠いぜ」


 僕らは揺れる水面を見ながら、遊歩道を歩く。森の中からはせみ幾重いくえにも鳴いていて、音が途絶える事は無い。

 途中の自販機で、ミサキは2度ほどスポーツドリンクを買っては飲み干した。



 10分近く歩くと、釣り糸を垂らした人達が見始めた。

 あまりの暑さの為か、あまり人は居ない。僕たちは空いている木陰を探し出し、ビニールシートを引いて場所を確保する。そして、竿を組み立てて、いよいよ釣りを開始する。


「さて、魚をどんどん食べ…… じゃなかった、釣るわよ! ツカサ、エサを付けて」


 ミサキが竿を僕に渡してきた。自分で付けられないのだろう。


「エサはミミズと練りエサがあるけど」


「練りエサで、ミミズはちょっと無理」


「わかったよ…… はい、付けた」


「行くわよ、えい!」


 行きよい良く竿を振ると、付けたエサがすっぽ抜けて落ちた。遠くにポシャンと落ちて、それを魚が食らいつく。

 練りエサはいわば泥団子のようなものだ、あまり頑丈なものでは無い。乱暴に扱うと直ぐに外れてしまう。


「……もう一度、エサを付けてちょうだい」


「そっと、水に入れるようにすれば良いからね」


 そう言いながら、僕はエサを付け直す。


「今度こそ、よっと」


 ミサキはゆっくりと仕掛けを水に浸した。

 そこまで慎重にやる必要はないのだが、まあ、丁寧な分には構わないだろう。


 ジミ子はヤン太にエサを付けて貰っている。こちらもミミズは嫌らしく練りエサだ。

 準備が終わった人から、釣りを開始する。

 僕もミミズを付けて、木陰の魚が居そうな場所に仕掛けを投げ入れる。久しぶりの釣りだ、上手く行くだろうか?

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