釣りの一日 1

 夕飯を食べ終わった直後、ミサキからLnieでメッセージが飛んできた。


『物置を片付けていたら、釣り竿がでてきたんだけど、試しに釣りにいってみない?』


『僕はOKだよ』


 そう返事を返すと、


『行っても良いぜ』『俺もいいぜ』『みんなが行くなら良いわよ』


 と、全員の返事が返ってきた。



 釣りに行くことが決まったら、今度は場所の話題が出る。


『ミサキはどこか行きたい場所があるのか?』


 ヤン太の質問に、ミサキはこんな返事をする。


『ニジマスとか良いわね、綺麗らしいじゃない。あとイワナとか、ヤマメとか、あゆとか』


『それって見た目じゃなくて、食べたい魚なんじゃないの?』


『えへへ、バレた?』


 ジミ子の突っ込みに、ミサキはあっさりと本音をバラした。



 釣りは簡単なものではない、ヤン太はまず、ミサキの間違いを指摘する。


『そんな魚は清流にしかいないだろ? かなり山奥に行かないとダメなんじゃないか?』


 ヤン太がそういうと、キングが調べてくれたらしい。


『近くにある事にはあるな。ニジマスとイワナが居る釣り堀で、距離はナビで15キロくらいの場所にある。空飛ぶ自転車だと、おそらく直線で12キロぐらいだから、行けない事はないな』


『そこに行きましょう』


 すぐにミサキが返事をするが、キングがこんな情報を言う。


『1時間、1000円かかるってよ』


『そんなにお金無い』


 ミサキはお金の使い方に計画性がまるでない。少しは使い方を考えてほしいのだが……

 しょうがないので、僕が助け船を出す。


『たしか、4駅ぐらい先の、池のある公園に、釣りが出来るエリアがなかったっけ?』


 ヤン太が昔の話しを持ち出した。


『あったなたしか。小学生か、中学生くらいの時には、そこそこ行ってたよな』


『そうそう、子供だったからザリガニとか、メインで釣ってたけど』


 僕も思い出しながら答える。するとキングが情報を補足してくれた。


『あそこは確か、こいやフナ、あとブラックバスが釣れたはずだぜ』


『鯉は洗い、フナはフナ寿司、ブラックバスはスズキに似た味で、美味しいらしいわね』


『あんたねぇ……』


 ミサキの返事にジミ子が突っ込むが、あまりに酷く突っ込みきれない。



『いつ頃に行こうか?』


 僕がそう言うと、ミサキがすぐに返事を返してくる。


『明日はどう?』


『準備があるから、明日は無理だよ』


 僕がそう言うと、またすぐにミサキから返事が返ってきた。


『じゃあ、あさってはどう?』


『まあ、あさってでいいか』


 ヤン太がOKを出す。するとジミ子がこんな事を言い出した。


『私、未経験で道具とか持ってないんだけど』


 たしか僕の家には釣り竿がいくつかあったはずだ。


『竿は僕の家に余っているから、それを使ってよ。細かい道具は明日、買いに行こう』


『分ったわ』


 こうして釣りに行くことが決まる。

 釣りは、小学生から中学生の時に、ヤン太とキングと共に、やって居た時期が事がある。

 詳しく覚えていないが、あまり得意では無かったが気がした。魚はほとんど釣れずに、簡単に引っかかるザリガニばかり取っていた気がする。



 釣りに行くには道具が必要だ。僕は母さんに釣り竿の場所を聞く。


「母さん、釣り竿ってどこにしまったっけ?」


「珍しいわね。たしか物置の右側の方にあったわよ」


「ちょっと見てくるね」


 僕は懐中電灯を片手に、物置を探す。すると、釣り竿の入った袋が簡単に見つかった。何年も使って居なかったが、やたらと長いこの棒は、簡単に見つけ出す事が出来た。



 袋のホコリを払いリビングに持ち込む。次に僕は袋から釣り竿出して、使えるかどうかを確認する。

 試しに軽く組み立ててみて確認すると、どうやら大丈夫らしい。


 竿は4本ある。リールを使うルアーロッドが2本。組み立て式の竹の竿が2本。

 リールは意外と難しいので、ジミ子には竹の竿を貸すことにした。


 竿の近くにあった道具箱には、昔つかった釣りの用具が一通り入っていた。

 足りないものがないかチェックしていると、姉ちゃんが帰ってくる。

 そして釣り道具をいじっている僕に声を掛けて来た。



「弟ちゃん、珍しいわね。釣りに行くの?」


「そうなんだ。急にミサキ言い出してね。あさってに行くことになりそうだよ」


「ふーん。……そうだ、姉ちゃんもその釣りに参加しても良い? あさっての午後から、ささいな夏休みなの」


「『ささいな』ってどういう事?」


「毎週、改善政策があるじゃない。だから私は大型連休が取れないのよ。そのかわり、3連休を3回。4連休を2回取る事にしたわ。あさってからは3連休ね」


「わかったよ。釣りの場所は4駅先の公園なんだけど」


「仕事が一段落したら、あとから合流するわ。

 そうね、釣りを始めるには、まず形からかしら。とりあえずポケットのたくさん付いたベストを買おうかな、今日買えば明日には届くし……」


 そういって、通販サイトでそれらしいグッツを買い物のカートに放り込む。

 姉ちゃんは、格好だけは一人前になりそうだ。



 翌日、僕たちは足りない物を買いそろえて、釣りの当日に備えた。

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