ロボ党 6

 ロボット議員が誕生して、初めての国会が開かれる。

 僕らはいつも通り遊ぶのだが、今日は僕の家に集まり、みんなで国会中継を見る事になった。国営放送のNHCをつけ、ソファーに座る。


「国会中継なんて、真面目に見たことないわ」


 ジミ子が言うと、ヤン太も同意する。


「そうだな。せいぜいニュースでワンシーンが流れるくらいだよな」


 確かに、国会中継をちゃんと見るのは、生まれて初めての事かもしれない。



 国会が始まる直前になって、ロボット党の議員達が入って来た。

 議員は、普通のそこら辺にいるロボットとは違いスーツを着ていた。


 これを見て、ミサキが素直な感想を言う。


「スーツを着てるわね、ちょっと変な感じ」


「国会に服装規定があるみたいだから、合わせたんだろ。服装でゴチャゴチャ言われるのは馬鹿らしいからな」


 キングがスマフォで調べながら言う。

 他の政党の議員は何を言ってくるか分らない。クレームをつけられそうな事は避けるに越したことはないだろう。



「そろそろ始まるぜ」


 ヤン太に言われて、僕らはテレビを集中して見る。

 テレビの中では、天皇陛下から挨拶が述べられ、国会の開会が宣言された。


 国会が始まると、『公職選挙法の一部を改正する法案』に関しての審議が始まる。

 これは、国会議員を100人から94人に減らす法案だ。


 この法案は与野党で調整が終わっており、既に衆議院を通っている。

 特に質疑があるわけでなく、軽く説明をして議決に移る。



 決議が始まる前に、何体かのロボット議員は退出する。字幕でこんなメッセージが表示される。


『ロボット党の議員はアンケートの結果によって投票をします。

 アンケートの答えが【はい】の割合の分だけ、賛成の白票はくひょうが投じられ、

 【いいえ】の割合の分だけ、反対の青票せいひょうが投じられます。

 【分らない】や、アンケートに答えなかった分は、棄権とみなして無投票になるそうです。

 ただいま、無投票に当るロボット議員が退出していきました』



 これを見てジミ子が言う。


「このアンケートの結果が国民の意見と思ってもいいわよね」


「まあ、そうだね」


 僕が答えると、ジミ子はこんな意見を言った。


「これで国会議員の投票と差がついたら、国民の意見とかけ離れている事が簡単に分るわね」


「そうだね。これは分りやすいかもしれないね」


 確かにジミ子の言うとおりだ、僕らはロボット議員の投票に注目する。



 ロボット党は43議席を持っている。投票の行方を見守ると、ロボット達はこの法案に対して、賛成31票、反対7票、棄権5票となった。

 議席数は与党が圧倒的多数を占めている。結果として数えるまでもなく賛成多数で可決する。


 この結果を見て、ヤン太が残念そうに言う。


「賛成多数か、無難な結果だな。もっと面白い事になるかと思ったのに……」


「そもそも議席数が足りてないから無理だぜ、ロボット党の全員が反対に回ってもひっくり返せないぞ」


 キングが答える。するとヤン太はふてくされたように答える。


「そうなんだよな。もっと議席数が増えれば面白くなると思うんだが……」


 参議院では議席数の半分ずつしか選挙を行なわない。

 今回の選挙では、ロボット党は議席を大量に確保できたが、参議院の全体の議席数は245。そのうち与党は134、野党は68、ロボット党は43議席に留まる。

 ロボット党が本領を発揮するには、参議院の次の半分の入れ替えの3年後まで待たなければならないかもしれない。



 この法案の決議が終わると、次の法案の審議に移る。

 どうやらロボット党が新しい法案を提出するようだ。


 ロボットの代表の一体が、中央の演壇えんだんに登る。

 すると、一言も発する前に議席からヤジが飛んできた。


「ロボットに法案が作れるかー」「どうせろくな法案じゃないだろ、引っ込めー」


 誹謗中傷ひぼうちゅうしょうが飛んでくる酷い状態となった。小学生にこの光景を見せたら、イジメと取られてもおかしくないだろう。


「国会にふさわしくない服装とか、一時期騒いでいたけど、この態度のほうが遙かに問題よね」


 ジミ子があきれながら言う。確かにその通りだ。



 ロボットはヤジを全く気にせず、自分の仕事をこなす。


「ワレワレは『国営放送、NHC日本放送チャンネルとの契約の改正』を提案しマス。ワレワレのアンケートの結果でトップでシタ。国民の多くはNHCの受信料に不満を抱いていマス。『受信料の5割削減』か『契約解除の選択の自由』を求めマス」


 圧倒的な多数を誇る与党は、この案を審議に掛けずに否定する事も出来る。

 だが、このロボット党の後ろには国民の意見がある事を与党は気づいているようだ。NHCの会長を呼びつけて、参考人招致を行なう事にしたらしい。



 NHCの会長がやってきて、議長が会長に意見を聞く。


「受信料が高すぎるという指摘がありました。値段を下げる事はできますか?」


「いえ、財政が苦しいので値下げは厳しいです。職員の給料も生活がぎりぎりなので下げる事はできません」


 すると、ロボット議員が手を挙げた。議長が発言を許す。


「はい『JP-01-2704-002』さん。発言をどうぞ」


「ワレワレの調査では職員の給料を減らさなくても3割の値下げが可能デス。例えば、会長の昨日の行動。銀座のガールズバー、バニーランドでの打ち合わせデスが……」


 思わぬ爆弾発言に、NHCの会長が慌ててこの発言を遮る。


「あああぁ、はいはい。経営努力で受信料下げられます。下げさせてもらいます。ただ3割はちょっと難しいです。2割、2割くらいなら行けます!」


 この発言を受けて、議長が取りまとめる。


「わかりました。では受信料を2割ほど下げる方向で審議を進めましょう」


 こうしてこの法案は、2割引きという話でまとまった。

 ヤン太が感想を言う。


「無難な結末だったな。でもNHCの会長が慌てた場面はちょっと面白かったな」


「たしかにね」


 ジミ子が鼻で笑う。宇宙人は常に地球を監視をしているので、下手な言い訳は出来そうにない。これから「記憶にございません」は通用しなくなりそうだ。



 この後、与党が法案を提出するのだが、普通だった。

 まあ、普通が当たり前なのだが、見ていて面白くは無い。淡々と事務的な作業のシーン続く。

 やがて僕らは飽きてTVゲームへと切り替えた。



 ロボット党のデビューはニュースになったものの、この後は次第に影響力を失っていく。

 その理由は、アンケートの集計システムにあった。


 アンケートに答えれば、その結果をそのまま国会に反映されるが、アンケートに答えなければ、無効票としてカウントされてしまう。これは決議の時に棄権として扱われる。

 新規法案の提案も、無茶苦茶な物は審議に掛けられる前に却下される。


 飽きっぽい日本人は、次第にアンケートに答えなくなっていった。つまり投票を棄権するロボット議員が増えていった。


 たまに話題になる法案の時は、そこそこ力を発揮するが、普段は欠席者が目立つダメな党というイメージがやがて根付いてしまう。まあ、ロボット党がダメな訳ではなく、国民の代弁者だいべんしゃであるロボット党員がサボっているのが原因だったりするのだが……



 しかし、この先の未来、このロボット党が躍進やくしんする時が来るのだが、僕たちはまだ知らない。

 ロボット党のシステムは世界中で実施され、海外の活躍は目覚ましかった。100年の時を経て返還された自治区が独立国になったり、一党独裁の国の独裁体制が崩れたり、北の将軍様がロボ将軍様に政権交代する事態になるとは、この時は思いもしなかった。

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