ロボ党 5
父さんと姉ちゃんはロボット党のアンケートを答えている。
ロボット党の党員は、だれでも新規法案のアイデアを投稿出来る。
投稿されたアイデアは人気投票にかけられ、上位の物は正式な法案として国会に提案されるらしい。
どんなアイデアが投稿されているのだろうか?
僕らは、他の人が投稿した、『新規法案』の『急上昇順』の一覧を表示してみる。
すると、こんな項目が表示される。
『児童保護法案に対する改正』
『逮捕状、裁判所請求に関しての改正』
『国営放送、NHCとの契約の改正』
僕らは一つ一つ見ていく事にした。
「父さん、『児童保護法案に対する改正』って項目を押してみて」
「わかった、押してみるぞ」
項目名をタッチすると、『詳細を表示しますか? 【はい】・【いいえ】』と出て来た。父さんは迷わず【はい】を押すと、こんな説明文が出て来た。
『現在、体罰の禁止などを法律で規制して、児童虐待の防止強化が行なわれようとしています。しかし、これだけでは足りません。児童相談所の職員の数が足りず、早急な対応が出来ていないのです。
現状では、児童相談所が指示を出さないと、何も動けない状態です。
警察や宇宙人の警備ロボットにも、ある程度の権限を与え、独自に活動できるようにするべきです。【良いネ!】・【ダメだネ!】』
なるほど、児童相談所だけでなく警察や宇宙人にも動いてもらうわけか。
試しにスマフォで児童虐待の数を調べると、年間13万3千件ぐらいらしい。職員1人だけで24時間対応は不可能なので、労働基準法の6時間毎に区切り、最低でも4人体勢で対応する必要がある。すると、一人当り176件を受け持たなければならない。
これら職員が相手にする親は、いずれもまともではないだろう。そんな相手が一度だけ言っただけで言う事を聞いてくれるとは思えない。何度も何度も執拗に言い聞かせ、長期間の監視が必要だと思われる。ちょっと目を離すと、何をしでかすか分らない相手だからだ。これは明らかに人手不足に感じる。
児童虐待については、宇宙人のアーマーによる保護システムがあるが、あれは緊急措置で、作動すると被害も大きい。事前に防げるのなら、それに越したことはないだろう。
父さんは一通り文章を読むと、ウンウンとうなり、【良いネ!】をタップした。
続いて、次の項目、『逮捕状、裁判所請求に関しての改正』に移る。
これの詳細を表示した所、こんな文章が出て来た。
『最近、警察が犯人を拘束しようとして逃げられる事件が多発しています。
幸い、宇宙人の追跡システムをつかって大事にはなっていませんが、この先、どんな重大事件に発展するか分りません。
そこで、逮捕、及び拘束時に宇宙人のロボットに協力して貰うのはいかがでしょう?
銃弾も効かないロボットが複数居れば、犯人も無駄な抵抗はしないと思います。
【良いネ!】・【ダメだネ!】』
これはその通りだ。最近は逃亡する人が多すぎて数えられない。
もっと早くに、このアイデアを実行しても良いくらいだ。
「これはその通りだな」
父さんも納得して【良いネ!】をタップする。
項目を移し、『国営放送、
今度はこんな文章が出て来た。
『NHCは視聴料を取り過ぎています。職員の平均年収は、国民平均のおよそ3倍。
この間は、新社屋の建て替え費用に3400億円の経費を出してきました。
ちなみに建築費の参考として、大阪のあべのハカルスは760億円。東京都庁第一本庁舎は1569億円です。
どれだけ国民から金を搾り取っているのでしょうか。そんな余分な金があるなら、視聴料を下げろ、もしくは解約できるようにしろ!【良いネ!】・【ダメだネ!】』
「これは酷いな。あべのハカルスを4つ建ててもお釣りが来る。こいつらの金銭感覚はどうなってるんだ?」
父さんはそう言いながら【良いネ!】をタップした。
確かにそうだ。都庁の建物を二つ建てても、まだ予算が余る。都庁でさえ、かなり無駄が多いように見えるのに、いったい何を建てようとしているのだろうか……
父さんが【良いネ!】を押すと、続いてこんなアンケートが出て来た。
『あなたはNHCがどうなるべきだと思いますか?
【受信料3割引き】・【受信料5割引き】・【受信料7割引き】・【受信料無料化】・【契約解除の自由化】・【組織の解体】・【分らない】』
「金が余ってそうだからな、3割引き位は行けるだろう」
そう言って父さんは【受信料3割引き】をタップする。すると横に居た姉ちゃんがこんな事を言う。
「彼らの年収は、国民平均の3倍なんだから、7割引でも行けるでしょう」
【受信料7割引き】のボタンを容赦なく押す。
会話をしながら、こんな事をしていると、母さんが台所の片付けを終え、リビングへとやって来た。
「あら、楽しそうね。父さん達は何をやってるの」
「楽しくはないかな。かくかくしかじかで、こんな事をやっていたのさ」
父さんが説明すると、母さんも同じアンケートに答える。
そして、
さすがに無料はないだろう。NHCの中の人は食べていけなくなる。
僕がちょっと注意しようとした。
「母さん、無料はちょっと酷すぎない?」
「なぜかしら? 民法はみんな無料よ。稼ぐためにコマーシャルでも入れれば良いじゃない。採算が取れなければ解体すればいいわ」
この後も、提出された新法案を覗いては、【良いネ!】を押す作業が続いた。
そんな事を繰り返しているうちに、父さんが何かを思いついたらしい。
「これって、新しく自分のアイデアを載せるにはどうすれば良いんだ?」
「そんなときは、メニューの『新規法案の提案』のボタンを押して」
姉ちゃんが身を乗り出しながら操作の仕方を教える。
父さんは姉ちゃんの言うとおりに操作をすると、画面にこんなメッセージが出て来た。
『新規法案について、何か意見が有りましたら、どうぞ言って下さい』
ゴホンと咳払いを一つして、父さんはこんな事を言う。
「野球の審判をロボットにやってもらいたい。人間だとダメすぎる」
すると、こんなメッセージが表示される。
『それは野球だけではなく、スポーツ全般に適用されますか?』
「そうだな。スポーツ全般で良い。ロボットが正式な審判として、公式試合に出られるようにしてほしい」
『了解しました。【ロボット審判の正式化】として登録します』
そう表示されて、画面は一端、閉じる。
野球を見ている父さんは、文句を言っている場面が多い。
「今のはボールだろう?」「いまのはセーフだろう?」「なんだ、このヘボ審判は!」
いつもそんな調子でテレビに向って
今まで宇宙人の技術による、ビデオ判定の支援システムは有ったが、審判そのものをロボットがやる事はなかった。ロボットが審判なら、間違えは滅多に起こさないだろう。
投稿してからしばらくすると、この提案に【良いネ!】が沢山ついた。父さんはちょっと誇らしげにしている。
こんな感じでワイワイとみんなでアンケートに答えていると、時刻は23時を回っていた。
「そろそろ終わりにしない?」
僕がそう言うと、父さんが同意する。
「そうだな。明日も仕事があるし」
「私まだシャワーを浴びてないわ。急いで浴びてこないと」
そういって姉ちゃんは洗面所の方へ消えていった。
市民が政治に直接触れる事ができるようになった。これらの意見は、明日以降の国会で役立てられるはずだ。
僕は、ちょっとだけ政治に興味が湧いてきた。
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