ロボ党 4

 参議院選挙の翌日、124議席中、与党63人、野党18人、ロボット党43議席と、ロボット党は大奮闘だいふんとうをした。翌日になると、ニュースやワイドショーではさかんにこの事を伝えている。


 しかし、いまいち盛り上がらない。ロボット議員に何かをインタビューしても、機械的にアンケートの取り方しか答えないからだ。マスコミ的には、もっとセンセーショナルな発言を期待したようだが、そんな物は一切無かった。何を聞いても同じ答えしか返さないロボットに対し、テレビはロボット党にインタビューをしなくなる。


 一方、野党の議員へのインタビューは大幅に増えた、議席数をロボット党に大きく削られて苛立いらだっているのか、マイクを向けられると、「ロボットなんかに政治はできない!」と名指しで激しくののしる。ロボット党は単なるアンケートを反映するシステムで、国民の意見をダイレクトに伝えている事を分っていないようだ。ロボット党への悪口は、この党に投票した国民に直接、悪口を言っている事を理解していない。



 選挙の翌日も、僕らは遊びに行く。この日はキングの家でテレビゲームをして遊んだ。遊んでいる最中にも、ロボット党の話題が出てくる。僕らなりに、この党について話し合うが、具体的な話にはならなかった。

 それはまだ何も動き出していないからだ。これから先に起きることは、全く予想がつかない。



 一通りゲームを楽しみ、家に帰ってくる。

 家族全員で夕食を食べている途中、姉ちゃんがこんな事を言い出した。


「夕飯を食べ終わったらみんなでロボット党のアンケートに答えてみない?」


 すると、父さんが乗り気で答える。


「そうだな。ロボット党員として、清き一票を投じるか!」


 僕は投票権が無いが、父さんと母さん、あと姉ちゃんはロボット党に入れたので、アンケートに答える義務がある。

 しかし、父さんと姉ちゃんはアルコールが少し入っているが、こんな状況で政治的な判断をしていいのだろうか……



 食事を食べ終え、リビングのソファーに着く、母さんはまだ台所でカチャカチャと食器を片づけている。

 父さんが台所の方へ声を上げる。


「母さん、まだかかりそうか?」


「お父さん、先にやってて下さい、後から行きますよ」


「わかった、じゃあやっているぞ」


 そういってプレアデス・スクリーンを広げた。

 僕はソファーに座らず、父さんの後ろから、肩越しに様子を覗く。



 父さんのプレアデス・スクリーンには『ロボット政党員』というメニューが加わっていた。

 それを押すと『提出中の法案について』『新規法案の人気投票』『新規法案の提案』『新着メッセージ』というサブメニューが現われた。


「『新着メッセージ』ってなんだ?」


 父さんがそう言うと、脇にいる姉ちゃんが答える。


「まあ、政党からのお知らせよ。見た方が早いと思うわ」


「そうなのか、じゃあ見てみるか」


 そういって父さんは『新着メッセージ』のボタンを押す。


 すると、日付と共に、『選挙結果のお知らせ』が表示された。その内容は、今回受かった43議席のロボットの選挙区と、取得した票の数が書かれており、挨拶や政党方針などは無いものの、ちゃんとした『政党からのメッセージ』といった感じがした。



 一通りメッセージを読むと、父さんが動き出す。


「なるほどな。じゃあ、早速、本題に移るか」


 そういって、『提出中の法案について』のボタンを押した。



『提出中の法案について』のボタンを押すと、始めにこんなメッセージが出て来た。


『法律について、難しい表現があります。意訳しますか? 【原文のまま表示】・【意訳する】』


 それを見て父さんが言った。


「やはりここは多少は難しくても、原文のままで行こうじゃないか」


 そう言って、『原文のまま表示』を選択する。


『原文か意訳の選択は、右上のメニューで簡単に切り替えられます』


 確認のメッセージが出て、改正法案の一覧が出て来た。改正法案の項目は30ほどあり、こんな項目が続く。


『公職選挙法の一部を改正する法案』

『国会議員の経費に関わる改正法案』

『児童保護法案に対する改正法案』


 などなど。難しそうな表題が続く。



「……こんなに有るのか、まあ、一番上から見ていくか」


『公職選挙法の一部を改正する法案』を選択すると、こんな文章が出てくる。


「第4条、第12項、百名を、九十四人に改める。

 第8条、第3項前段及び第11項を削り、第7項を第6項と改める

 第12条、第9項、及び第10項、百名を、九十四人に改める。

 第17条、第8項…………」



こんな意味不明の文章が延々と続いていた。印刷するとA4用紙にみっちりと5枚くらいは行きそうだ。


「……なんだこれは? やはり素人に政治は無理だったか……」


 父さんがなげくようにつぶいた。

 この意見に僕は同意する。やはり政治は政治家に任せておいた方がよかったのかもしれない。



 深刻な表情を浮かべていると、姉ちゃんが、明るい声でこんな事を言ってきた。


「大丈夫よ。その為に『意訳』があるんだから、それと同じ法案でも、『意訳』だとこうなるわよ」


 そう言って、自分のプレアデス・スクリーンを指さす。


 そこには、『参議院の議員を100名から94人に減らす』と、一文のみがあった。


「アレの文章がこうなるの?」


 驚いた僕が姉ちゃんに質問をする。すると、姉ちゃんはドヤ顔で答える。


「そうよ。これだけの事を、原文では小難こむずかしく書いてあるだけよ。

 ちなみにベテランの政治家でも原文だと意味が分らない人がほとんどだから、自分は理解力が無いとか、そんな事は思わなくてもいいわ」


 なるほど、そういわれてみれば審議の場でも、政治家もよく官僚に紙を渡され説明を受けている。


「じゃあ、父さんも『意訳』に直してして、答えるか」


 こうして、30個ある改正法案のアンケートを一つ一つ答えていく。



 一通り法案に対してのアンケートを答えると、次は『新規法案の人気投票』という項目だ。

 この項目は、ロボット党員が『新規法案の提案』で提案した法案がここに表示される。ここで人気の高い物が、そのうち法案として、正式に国会に提出される事となるだろう。


「どんな『新規法案』があるの?」


 僕が父さんに言うと、父さんも興味津々でボタンを押しながら言う。


「ちょっと待ってろ、どんなのがあるのかな?」


 ボタンを押すと法案の種とも言えるアイデアの一覧があった。

 それは『人気順』『急上昇順』『新着順』などと、ランキング別で表示出来るようになっていた。


「試しに『急上昇順』で表示してみるか」


 父さんがボタンを押すと、こんなリストが表示される。


『児童保護法案に対する改正』

『逮捕状、裁判所請求に関しての改正』

『国営放送、NHCとの契約の改正』


 他にも色々と項目が続いて居たが、とりあえず一つ一つ詳細を見ていく事にした。

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