ロボ党 3

 参議院選挙が始まった、『ロボット党』は正式に選挙に参入する。

 ちなみに、政党略称は『ロボ党』で登録したらしい。


 今回の選挙戦は新たな勢力が参入してきたので、熾烈しれつを極めた。

 各政党の選挙カーが声をまき散らしながら走り回る。ひとつの騒音が消えたと思ったら、次の騒音が入れ替わるようにやって来る。凄まじい選挙戦が繰り広げられた。


 各政党の主張が激しくなる中、『ロボット党』は何も主張しない。

 選挙カーも、遊説も、駅前での握手も、何も行なわない。


 選挙ポスターは貼られているが、見分けの付かないロボットの写真と共に『JP-01-1906-007』と、機械的に割り当てられた認識番号があるだけだ。


 ロボット党に関して、他にある情報と言えば、アンケートの説明のWebページぐらいなものだ。

 各政党は、人気を取るため、様々な魅惑的な政策を発表していると言うのに……

 これでは勝てない気がしてきた。



 やがて長くて短いような選挙期間が終わり、選挙当日を迎えた。


 この日、投票権の無い僕らは、いつも通り遊んで夕方ごろに帰宅する。

 リビングには父さんと姉ちゃんが居て、二人でお酒を飲みながら話をしていた。その内容はもちろん選挙の話題のようだ。


「あら、お帰り、弟ちゃん」


 姉ちゃんは僕を見かけると声をかけてきた。僕は気になる質問をぶつけてみる。


「選挙には行ったの?」


「行ったわよ。父さんと母さんと一緒にね。みんなロボット党に投票したわ」


 すると父さんがこんな事を付け添える。


「投票所の公民館は混んでいたぞ、いままで選挙に行った中でも一番混んでいたかもしれない」


「そんなに?」


「ああ、テレビによると、ここ最近では最高の投票率のペースだそうだ。ほら」


 そう言ってテレビを指さす。すると、ちょうどそのニュースをやっていた。



 テレビの中のレポーターがこんな事を言う。


「前回の参議院の投票率は54.7パーセントですが、現在の投票率は62パーセントを超えています。投票締め切りまでには、まだ2時間程の時間があります。最終的な投票率は70パーセントに近づきそうです」


 かなり高い投票率のようだ。レポーターの人が、やや興奮しながら喋っている。


「投票結果の発表は午後8時からだっけ?」


 僕がそう言うと、姉ちゃんが答える。


「そうね。投票締め切りまでは投票率しか発表できないからね。選挙に影響するとかいう理由で」


「ふーん。じゃあ、シャワー浴びてくるね」


 テレビでは事前にあれだけ議席数を予測して居たのに、投票日となると放送できないらしい。ちょっとおかしな話しだ。

 早く結果を知りたかったが、焦ってもしょうがない。僕はシャワーを浴びて、選挙結果の放送に備える事にした。



 夕食を食べ、リビングのテレビの前で選挙特番を待つ。

 時刻はやがて夜の8時になった。


 好感度調査でトップの春藤はるふじアナウンサーが司会のようだ。隣には解説の政治評論家が立ち、背後には選挙区一覧の図が大きく表示され、各政党の勢力図が一目で分るようになっていた。


 春藤アナウンサーは、やや緊張した様子で喋り出す。


「この度の選挙は『ロボット党』が参入してきて、人々の高い関心を得ました。投票率は、なんと68.3パーセントを記録しました。ここ30年以内では、トップの投票率です。﨑田さきたさん、今回の選挙をどう見ますか?」


 春藤アナウンサーは隣にいる政治評論家の崎田さんに話しを振る。


「今回の選挙は荒れましたね。『ロボット党』の評判は高く、思った以上に票を集めました。与野党逆転とまでは行きませんが、どこまで与党の議席が減るのか予想のつかない部分もあります」


 僕はスマフォで選挙の記事を確認する。選挙が始まる前は、124人の議席の予想は『与党76人、ロボット党13人、その他野党35人』という数字だった。

これがどこまで食い込めるだろうか?



 番組がはじまり2分もしないうちに、「ティロンティロン」と速報を告知する音がなる。字幕で『東京8区、岐阜4区が当選確実しました』とメッセージが流れてきた。議席はいずれも与党の議員だった。


「やっぱり選挙は簡単じゃないかぁ」


 姉ちゃんが、ちょっとガッカリしながら言う。すると父さんが励ます。


「まだ2議席だぞ、面白くなるのはこれからだ」


 続いてテレビは当選した議員を映す。満面の笑みで春藤アナウンサーのインタビューを受けている。



 開票から30分が過ぎた、与党の議員23人、野党の議員6人が決まる中、ロボット党は一人も受かっていない。

 春藤アナウンサーが評論家の崎田さんに質問をする。


「『ロボット党』はやはり難しいのでしょうか?」


「いいえ、小選挙区で当確がでて、比例区からの当確がでてくるここからが勝負ですね。出口調査では、中間層の票を集めていますので、そろそろ受かる議員が出てくるかもしれません」


 そんな話しをしていると、それは現実となった。速報のアラームが鳴り『東京比例区からロボ党の議員、当確』とメッセージが流れる。


「やったわ」「やったぞ」


 姉ちゃんと父さんがハイタッチをして喜ぶ。続いて「乾杯!」と声を上げて、グラスに残っている酒を一気に飲み干した。


 テレビでは、初のロボット議員のインタビューが行なわれる。



 カメラは中継先の姉ちゃんの会社に切り替わり、ロボットのアップが映し出される。そして、春藤アナウンサーがロボットに質問をする。


「ええと『JP-01-2704-002』さん、おめでとうございます。喜びの声を聞かせて下さい」


「ワレワレはロボットなのデ、感情はありまセン」


「ええと、そうですね。意気込みとか、国民に向けてのメッセージはありますか?」


「東京選挙区でロボット党の議員が受かりまシタ。東京比例区でロボット党に投票した人は、これからアンケートを通して、法案ごとに投票が可能デス。アンケートの投票は決議の5分前マデにお願いしマス」


「ええと、他に何かありますか?」


「使い方で分らない事があれば、プレアデススクリーンからヘルプを呼び出して、質問をして下サイ。以上デス」


「あっ、はい。わかりました。ありがとうございます」


 ロボット相手のインタビューはやりにくそうだった。



 この後も、ロボット党の議員がポツリポツリと受かり始める。


 姉ちゃんと父さんは、ロボット党の議員が受かるたびに乾杯をしていた。


 地元から立候補した『JP-01-1906-007』も当選するのだが、姉ちゃんと父さんは飲み過ぎて区別が付いていないようだった。ほかの議員が受かった時と同じように乾杯をして、その後も淡々とテレビを見続けていた。



 姉ちゃんが酔い潰れて、時刻は夜の24時になる。

 124議席中。122席の当確が決まった。

 内訳は、与党63人、野党16人、ロボット党はなんと43議席。


 与党には及ばないものの、断トツの野党第一党となった。

 政治評論家の崎田さんが、この状況を解説する。


「新党がここまで勢力を取れるとは、正直に言うと思いもしませんでした。これからは直接民主主義の時代なのかもしれませんね」


 感慨深かんがいぶかく番組の最後を締めくくる。


 確かに崎田さんの言う通りだろう。いままでは選挙でしか政治に関わる事はなかったが、これからは直接的に関与出来る時代がやって来た。政治もおそらく変わっていくだろう。

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