ロボ党 2

 今週の宿題のノルマを終え、みんなが帰って行く。

 帰り際、ミサキはこんな主張をする。


「宿題なんてしないで、夏休みなんだから遊びに行こうよ!」


「一人で宿題を終わらせれば大丈夫だけど、ミサキは大丈夫なの?

 夏休みの終わり頃に、『宿題を見せて』って言い出さなきゃ、別に集まってやらなくても良いと思うけど」


 僕がそう言うと、ミサキは以前の事を思い出したようで、ちょっと反省したようだ。


「そ、そうね。できれば一人で、少し進めてみるわ」


「じゃあ、次回に集まる時、すでに宿題を終えていれば、その分だけオヤツを出すよ」


「本当? 私、絶対頑張る!」


 これで少しはやる気をだしてくれれば良いのだが、どうだろうか……



 みんなが帰ると、すぐに父さんが帰ってきた。時刻は17時ちょっと。労働時間が6時間になってからは、このくらいの時間に帰ってくる事も珍しくは無い。


 父さんは背広を脱ぐと、今日の話題を振ってきた。


「『ロボット党』の発表はテレビで見たよな?」


「うん見たよ、参議院選挙に候補者を立てるみたいだね」


「今年の参議院選挙は荒れそうだな。ちょっと面白くなってきた。父さんも試しに『ロボット党』に清き一票をいれてみるか」


「そんな面白そうだからって理由で投票先を決めても良いの? もっとちゃんと考えなきゃダメなんじゃない?」


「いや、投票先なんて意外と適当な理由で決めるもんだ。会社の同僚だと、顔や雰囲気で決めてたヤツもいたぞ。もし、ツカサが投票権を持ってたらどこへ入れる?」


「……僕も『ロボット党』かな」


「じゃあ、父さんが『ロボット党』に入れる事に賛成してくれるかな。そういえばこの政党の党首は宇宙人になるのかな。そうなると幹事長は、もしかするとアヤカかもしれないな」


 姉ちゃんが幹事長になったら大変そうだ、この政党の行き先が一気に不安になってきた……



「そういえば、昼間の政党の討論番組は見たか?」


 討論番組とは、先ほどまで見ていた番組の事だろう。僕は父さんに答える。


「うん、見たよ」


「どうだった?」


「ええと、法案の立案のアンケートの説明と、予算案のアンケートの説明があったかな。あと、党首の討論会があったけど、どうでもいい内容だった」


「なるほど、ちょっとテレビをつけてみるか」


 テレビをつけると、ちょうど政治の話題をしていた。番組の中では政党別の取得議席数を予測している。



 アナウンサーが専門家に話を振る。


「『ロボット党』は参議院選挙で、どのくらい議席数を取れると思いますか?」


「そこそこの議席は取れるでしょう。与党の議席もある程度は削るとは思いますが、野党第一党か第二党止まりでしょうね」


「前評判だと、与党に迫る勢いとか言われていますが」


「流石にそれは無理です。そもそも参議院なので、全議席の半分しか今回の選挙で変わらないので、与野党逆転なんて、まず起こりません。それに、選挙の鍵を握るお年寄り達は、新しいものが苦手ですからね。今まで通りの議員や政党に投票するでしょう」


「なるほど」


「それに、宇宙人に対して敵対的な思考の人も少なからず居ます。そういった人々は、ロボットを宇宙人の手先としてとらえてしまうでしょう。そうなるとこの政党には投票はしないでしょうね」


「そうですね」


「しかし、今回ばかりは、流石に予測が付かない部分があります。今までの政治に嫌気がさしている人にとっては、この政党は魅力的に映ると思います」


 そういって専門家は議席数の予想表のテロップを出す。

 参議院の議席数は242人、そのうち、今回の選挙で決まるのは、約半数の124人。

 この専門家の予想だと、与党76人、ロボット党13人、その他野党35人、という予想だった。


 この予想をみて父さんがつぶやく。


「うーん、面白くないな。この予想」


 選挙に面白さを求めるのは間違っているかもしれないが、まあ、確かにこの結果だとつまらない。


 選挙の話しをしていると、夕食が出来上がった。



 出来たての夕食を話しながらゆっくりと食べていると、食べ終わる頃に姉ちゃんが帰ってきた。


「はぁ~、今日は大変だった。晩ご飯はなに?」


「かにクリームコロッケとアスパラと海老フライよ」


 母さんがそう言いながら、揚げずに取っておいた、コロッケとアスパラと海老を、温めた油の中へと投入する。


「やっぱり揚げたてよね。さすが母さん」


 姉ちゃんはスーツを脱ぎ捨てると、いつものだらしないシャツ姿になり、食卓に着いた。



「何が大変だったの?」


 僕がそう聞くと、姉ちゃんはハイボール缶を飲みながら答える。


「いや、チーフがさ、『ロボット党を作る』とか言い出したじゃない。そしたら裁判所が、『人権が無いと立候補は認められない』とか言い出したわけ。

 それを聞いたチーフがさ、『ソレナラ、ロボットに人権を与えれば良いじゃナイ』とか言い出して、私が慌てて止めたの」


「ロボットに人権を与えると、そんなにマズいの」


 僕が素朴な質問をすると、姉ちゃんが真剣に語り出す。


「マズいわよ。だってロボットが人権を持ったら、6時間就労を守らせなきゃいけないじゃない。そんな事したら、社会が回らなくなるわよ。6時間就労を無視して働かせたら、私が刑務所行きだし」


 ああ、なるほど。自分が刑務所に行くことになるから、この件に関しては必死なのか。

 でも、火星の刑務所で働いている様子をみると、姉ちゃんは刑務所の中でも上手くやって行けそうか気もする。



 姉ちゃんの事はどうでも良いが、僕は、この話の結末を聞く。


「それで、裁判所の方はどうなったの?」


「とりあえず裁判所には事情を説明して、民意を出来る限り反映させるという条件で、特別に認めてもらったわ。何とかなりそうよ」


「大丈夫そうだね」


「ええ、参議院選挙、応援してね!」


 こうして『ロボット党』は、参議院選挙に挑む事となった。

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