ロボ党 1

 第25回目の改善政策の放送が終わった後、みんなは僕の家に集まった。

 夏休みの宿題をする為だ。


 夏休みの宿題はそこそこの量がある。英語のプリント、数学のドリル、読書感想文など面倒くさい物もあるが、真面目に取り組んでいれば一週間ほどで終わるだろう。

 計画的に勉強をすれば、一日当り20分も掛からないと思うが、それが出来ない人もいる。ミサキは最後の最後まで、一切、手を付けないタイプだ。こうして定期的にみんなで集まってやらないと、大変な事になる。



 集合時間が来て、みんなが集まった。リビングと台所のテーブルに分かれ、僕らは勉強を開始する。

 教科書とノートを広げて、10分もしないうちにミサキがこんな事を言い出す。


「ちょっとテレビでも見ない? 『ロボット政党』に関する特別番組がやるみたいだし」


「じゃあ、数学のドリルの第一章が終わったら、テレビをつけよう」


 僕がそう言うと、ミサキはうなずく。


「分ったわ。じゃあ、やっちゃいましょう!」


 ミサキはものすごい勢いで問題を解き始めた。

 火星の学習収容所での成果がここでも現われているのかと、初めは感心をしていたが、僕の回答と照らし合わせると、答えはほとんど間違っている。

 まあ、ミサキが全問正解していると不自然だが、この低すぎる正解率はどうなんだろうか……



 僕とミサキは台所のテーブルで、ヤン太とジミ子とキングはリビングのテーブルで勉強をしていたのだが、問題を解き終わったミサキはリビングへと移動して、ジミ子の隣に座るとテレビをつけた。


 ジミ子は驚いた様子でミサキに言う。


「もう問題は終わったの?」


「今日の分は終わったわよ。バッチリよ! それよりテレビを見ましょう『ロボット政党』の番組がやるわよ」


 全然、バッチリではないが、僕もロボット政党には興味がある。勉強をしながら、そのまま番組を見る事にした。



『緊急、政党討論番組、夕方ぐらいまで生テレビ!』


 即興で作った番組のロゴが表示され、スタジオが映る。かなり大きな机に、各政党の党首が並んで座っていた。その中には宇宙人の姿も見える。司会はおなじみの福竹アナウンサーだ。


 福竹アナウンサーはこちらに向って深く一礼をした後、こう話しを切り出した。


「本日はお忙しい所、政党の党首のみなさまに集まっていただきました。プレアデス星団の宇宙人の方が新しく『ロボット政党』を作るという事なので、忌憚きたんの無い意見を頂けたらと思います。

 最初に宇宙人さんから、何か一言ありますか?」


 話しを宇宙人に振る。すると、こんな答えが返ってきた。


「特にないネ。ただ、この『ロボット政党』が最も民意を反映出来るシステムだと思うネ」


 この一言を聞いて、各党首の顔が険しくなる。

 確かに、この政党が出来れば、民意そのものと言っても構わない気がする。



「今回、新しい政党が生まれる訳ですが、何か懸念点けねんてんはあるでしょうか?」


 福竹アナウンサーがそう聞くと、野党の党首の一人が手を上げた。そしてこんな質問をする。


「法案の立案はどうするんですか? 民意の反映も大切ですが、法案の立案も同じように大切です。アンケートの反映だけでは法案は作れませんよ!」


 もっともな意見だったが、ヤン太がこんな一言を言う。


「この政党、何か法案を作ったっけ?」


「そう言えば、与党に反対してる印象しか無いわね」


 ジミ子もポツリと漏らす。キングがスマフォで調べて、こう言った。


「少なくとも、ここ1年は法案を提出していない見たいだぜ」



 テレビの向こう側では、この点に対して特に突っ込みも無く、番組は進行していく。

 先ほどの質問に宇宙人が答える。


「ロボット政党に投票した人は『意見』が投稿できるネ。プレアデススクリーンからボタンを押して『意見』を言うと、AIが要点をまとめて『法案のアイデア』という項目に追加されるネ」


「『法案のアイデア』に追加された後はどうなるんですか?」


 福竹アナウンサーが聞くと、宇宙人はテロップを出しながら答える。


「出て来た『法案のアイデア』の中で、人気投票を行なうネ。

 人気が高かった法案は、初案をAIが作るヨ。『初案A』『初案B』『初案C』といった具合にネ。

 ソレカラ、作った初案の中でアンケートを取るネ。アンケートの結果が最も高い物を、法案として国会に提出するヨ」


「なるほど、分りました。この件に関して何か質問はありますか?」


 福竹アナウンサーは、他の政党の党首に話しを振るが、追加の質問は出てこなかった。意外と考えられたシステムなのかもしれない。



「他に質問はありますか?」


 福竹アナウンサーが聞くと、今度は与党の党首が手を上げて発言をする。


「予算の割り振り、まあ、予算案の提出ですね。それはどうするんです?」


「ソレもアンケートで決めるネ」


 宇宙人がそう答えると、与党の党首は少し嫌な顔をしながら問い詰める。


「どうやってやるんですか?」


「説明するヨリ、サンプルを見て貰ったほうが早いネ。興味がある人は、プレアデススクリーンを表示してみてネ。表示したら、次に『ロボット政党員【仮】』ボタンを押して、『予算案のアンケート【仮】』ボタンを押すネ」


 言われるがままに党首達はプレアデススクリーンを表示した。

 そこには、予算の項目の一覧があり、『プラス』や『マイナス』やその他の小さなボタンが、それぞれの項目の横に付いている。RPGのステータスの割り振り画面のような感じだ。



「俺たちもやってみようぜ!」


 ヤン太がそう言って、プレアデススクリーンを開いた。

 画面には『社会保障費』『教育費』『公共事業費』『地方交付金』などの項目が並ぶ。

 項目の横には、『プラス』『マイナス』『既存値』『論理的最小値』『論理的最大値』『詳細項目』といった小さなボタンが付いている。


「この『詳細項目』って、何だろう?」


 僕が疑問をぶつけると、


「とりあえず押してみるか」


 そういって、ヤン太はボタンを押した。



『教育費』の『詳細項目』を押すと、こんな項目が出てくる。

『給食費無料』『教室に冷房設置』『高校生の学費無料』などの項目のリストが表示される。

 それら項目の横にはチェックボックスがあり、必要だと思われる物にチェックがつけられるようになっていた。


「とりあえず『高校生の学費無料』は欲しいわよね」


 ジミ子がそういってチェックをする。


「『給食費無料』も必要なんじゃない」


 ミサキがそう言ってチェックをしようとするが、僕がそれを阻止する。


「僕らは高校生だから給食はもう関係ないじゃない」


「そっか。それもそうよね」


 よかった。ミサキの給食費を税金が負担するとなると、いくら掛かるか分らないだろう。



「大体分ったから、とりあえずやってみるか。『社会保障費』は最大が良いだろう。『教育費』も最大。『公共事業費』もついでに最大にしてみるか」


 ヤン太が全てのパラメーターを最大にして行く。


「どうよ、最強の予算案だぜ!」


 ヤン太はちょっと得意気に言うが、キングがこの予算案の欠点を言う。


「右下のパラメータを見てみろよ、『消費税』が『237パーセント』になってるぜ」


「げっ、本当だ!」


「まあ、予算が増えたら、税収も増やすしかないわね」


 ジミ子が冷静に分析をする。

 たしかにそうだが、消費税が237パーセントになったら、ろくに買い物ができなくなりそうだ。



「今の予算案は失敗だ。余計な費用を押さえ込むぜ」


 今度は、ほとんどの費用に最小値を割り振る。なかでも『公共事業費』には『ゼロ』を割り振った。

 すると、消費税が、『237パーセント』から、『1パーセント』にまで減少する。


「この最小の予算案はどうよ!」


 ヤン太はまたも得意気に言うが、こんどは『警告』のマークが出て来た。


「『警告』が出てるわよ。どんな『警告』なのかしら?」


『警告』マークの横には、『詳細内容の表示』ボタンがあり、ジミ子がこれを押す。

 すると、こんなメッセージが出て来た。


『道路が維持できません。10年以内に20パーセントの道路が荒れ地に変わります』

『50年以内に60パーセントの橋が使えなくなります』

『最寄りの市役所は15年以内に無くなります』

『電力供給が不安定になり、停電が頻繁に起きます』

『水道管が劣化し、飲み水として使えなくなります』


 こんなメッセージが延々と表示される。


「予算案って難しいわね」


 ミサキがポツリと呟いた。確かに、消費税1パーセントになったとしても、こんな未来は嫌だ。



 僕らが独自の予算案を作ろうとしていると、テレビの中の福竹アナウンサーは時計を気にし始める。

 そして、緊急番組らしいイベントが起こった。


「そろそろ宇宙人さんが退席する時間です。ここまでありがとうございました」


「ソウネ、他の地区で政策発表をしなければならない時間なので、退席するヨ。

 ロボットを一体、置いていくので、何か質問があったら、ソッチに聞いておいて。マタネー」


 宇宙人はいつものノリでスタジオから外へと出て行く。



 この後、残された党首達は、ロボットに質問する事無く、こんな的外まとはずれな議論を開始した。


「議員としての品格がー」「ロボットは人では無いので人権がー」


 どうでも良い内容に感じたので、僕らは再び宿題に打ち込むことが出来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る