第25回目の改善政策

 参議院選挙が近づいてきた、ニュースでは立候補者が決まる前から、政党ごとの議席数を予測している。

 もう少し経つと、選挙カーが走り回りうるさくなりそうだ。


 そんな中、第25回目の改善政策が発表される。



 今日は夏休みなので、家のリビングで改善政策の放送を見る。

 母さんと二人でソファーに座って待っていると、正午の時報が鳴り、いつもの番組がはじまった。


「こんにちは。暑い中、みなさまどうお過ごしでしょうか? 第25回目の改善政策の発表です」


「ヨロシクネー」


「さて、早速ですが、今週の改善政策の内容な何ですか?」


「この国では、少し先に選挙が有るじゃナイ?」


「ええ、ありますね。 ……まさか? 選挙に立候補するのですか!」


 福竹アナウンサーが驚いた顔で宇宙人に話を聞く。


「ワレワレ、プレアデス星人は立候補はしないヨ、だけどコレを作ろうと思うネ」


 そういって用意しておいたテロップを出す。そこには『ロボット党』という文字があった。



 福竹アナウンサーが驚きながら言う。


「政党を作るのですか?」


「ソウネ。ロボットの政党を作るヨ」


 福竹アナウンサーは険しい顔をしながら、詳細を聞き出す。


「それはロボットが議員として立候補するのでしょうか?」 


「ロボットを議員として国会に送り込むヨ」


綱領こうりょう。ええと、政党の理念、方針や目的ですね、どういった理由で政党を作られるのでしょうか?」


「綱領は無いネ、目的も無いヨ」


「えっ! 何か目的や実行したい政策があるのでないのですか? 政党を作って直接的に政治に介入するのは、何かしら理由があるんでしょう?」


「全く無いネ」


「……じゃあ、なんでわざわざ政党を作るのですか?」


 宇宙人の意図が分らず、福竹アナウンサーは、珍しく、ちょっとふてくされながら問い詰める。

 確かに、今までの説明を聞くと、遊び半分で政党を作るような感じがする。



「政党を作るのは、民意を反映するためダヨ。説明するより実感した方が早いネ。手が空いている人は、プレアデス・スクリーンを表示してネ」


「「プレアデス・スクリーン・オン」」


 僕と母さんは宇宙人に言われるがままに、画面を表示する。

 すると、いつもの画面に『ロボット政党員【仮】』という、ボタンが追加してあった。



 宇宙人は続けて説明をする。


「その『ロボット政党員【仮】』のボタンは、ロボット議員に投票して、その地区のロボット議員が当選すると表示されるネ。今はテストだから、試しに押してみてヨ」


 ボタンを押してみると、今度はこんな画面が出てくる。


『【サンプル】法案A、テスト用の法案です、あなたは賛成しますか? 「はい」「いいえ」「どちらともいえない」』


「アンケート画面と同じシステムですね。テストなので、適当にボタンを押してみて下さい」


 福竹アナウンサーに言われて、僕は「はい」を選択した。母さんは、なんとなく「いいえ」を押している。



 しばらく時間が過ぎ、テレビ画面に、こんな結果が表示される「はい」が5割、「いいえ」が4割、「どちらともいえない」が1割。


 アンケート結果が出て来て、宇宙人がテロップを出しながら言う。


「分りやすい様に結果をチョット簡略化したケド、このアンケートの結果で、比例区でロボット議員が10人受かった場合は、議会の議決を取る時に『賛成』は5割なので5人、『反対』は4割なので4人、『無投票』や『投票の欠席』は1割なので1人となるヨ」


「なるほど、わかりました。アンケートの結果の比率通りに議員が決議をする訳ですね。これは比例区の例ですが、小選挙区の場合ははどうなります?」


「小選挙区の場合は、その地域の最も多かった意見に投票するヨ。『はい』が多ければ『賛成』に、『いいえ』が多ければ『反対』に、『どちらでもない』『無投票』が多かったら『投票を棄権』するネ」


「これは直接民主主義にかなり近いシステムですね」


「ソウネ。民意を出来る限り誠実に反映するヨ」


 宇宙人が『政党の方針が無い』と言った理由が、この説明を受けてよく分る。

 ロボット政党に宇宙人の意思はまるで無く、投票者の考えを尊重するシステムのようだ。



 ロボット政党の概要が分ると、福竹アナウンサーが矢継ぎ早に質問を浴びせかける。


「立候補者はどのくらい立てるのですか?」


「選挙区に必ず一人は立てるネ。候補者として必ず選べるように配置するヨ」


「そういえば、議員年金とかはどうなります?」


「年金だけでは無く、報酬は受け取らないネ。無料で働くヨ。政党補助金も受け取らないネ」


「国政だけですか? 県政や市議、町議、村議会などにも参入しますか?」


「参入するネ。選択肢の一つとして、必ず有るようにするネ」


「『ロボット政党』は、日本だけで行なわれるのですか?」


「世界中で実行する予定ネ」



 熱心に質問をしていると、時間が来たようだ。


「アンケートの時間になってしまいました。みなさまご協力をお願いします」


 いつものアンケート画面が現われ、僕は「今週の政策は『良かった』」「宇宙人を『支持できる』」に投票する。



 しばらくすると集計結果が表示される。


『1.今週の政策はどうでしたか?


   よかった 84%

   悪かった 16%


 2.プレアデス星団の宇宙人を支持していますか?


   支持する 61%

   支持できない 39%』



 アンケートの結果を見て、福竹アナウンサーが感想を言う。


「今週の政策は好評のようですね。ロボット政党に関しては、他にも色々と質問があったのですが、時間が足りませんでした」


「ソレハ、選挙の番組で答える事にするヨ」


「そうですね。それでは、また来週会いましょう」


「マタネー」


 こうして番組が終わる。

 僕はまだ選挙権が無いが、投票権が存在したら、この政党に入れるかもしれない。

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