第24回目の改善政策

 今回のテストは好感触だ、やはり火星の勉強が良かったのだろう。

 僕とミサキは、一学期の期末試験を順調にこなしていった。



 そして無事に最後のテストが終わった。

 答案用紙が回収されると、ミサキが両手を伸ばしてリラックスした様子で言う。


「ようやく終わったわ。これで思いっきり遊べるわね。放課後はどこへ行く? いつものメェクドナルドゥ?」


 大声で話していると、担任の墨田すみだ先生から注意された。


「お前ら、昼食の後に改善政策の番組を見なければならないから、まだ帰るなよ」


「はーい、わかりました」


 ミサキが気の抜けた返事をする。

 普段なら、こんな態度を取ったら怒られるだろうが、今はテストが終わったばかりだ。墨田先生も大目に見てくれる。


「テストが終わったからって、はしゃぎ過ぎるなよ」


 そう言い残して教室から出て行った。


 僕らは昼食を楽しく取ると、番組までの時間をゆっくりと過ごした。



 例の番組が始まる10分前、墨田先生がやって来た。

 改めて出席を取り、全員が揃っている事を確認すると、テレビの電源をつける。

 しばらくすると正午の時報が鳴り、いつもの番組が始まった。


「はい、みなさんいかがお過ごしでしょうか。第24回目の改善政策の時間です」


「ヨロシクネー」


「今日は何を発表する予定ですか?」


 福竹アナウンサーと宇宙人が挨拶をして、さっそく本題へと入る。今日はどのような改善を行なうのだろう?


「今日は改善の発表はしないネ。『プレアデス星団グループ』について問い合わせが多いカラ、グループ会社の運営方針について説明する予定ネ」


「なるほど、『プレアデス星団グループ』といえば、ついこの前に発足ほっそくしたばかりの会社ですね。かなり大きな会社だと聞いていますが」


「ソウネ、この国の中小企業は約360万あるんだケド、およそ17パーセントが加入しているネ」


「大きいですね。従業員は何人くらいなのですか?」


「この国デハ、およそ490万人ネ」


「『この国』という話しですが、たしか世界中に展開をしていましたよね?」


「一部の国を除き、ほとんどの国に存在しているネ。全労働者の、およそ12パーセント。4億人が加入しているネ」


「4億ですか……」


 口数の多い福竹アナウンサーが言葉を失った。

 まあ、無理もない。4億もいるグループ会社など聞いた事がない。



「『プレアデス星団グループ』の親会社と、グループ子会社の関係はどうなっています?」


「従業員が足りないと派遣したり、資金が足りないと融通したり、仕事が無ければグループ内で仕事を回したりするヨ。お互い足りない部分を補完しあう組織ダネ」


「なるほど、経営権とかはどうなっています?」


「子会社によって違うケド『共同経営』という形ダネ。子会社の経営者が望めば、ワレワレが株を買収して、経営権を完全に掌握しょうあくする事もあるヨ」


「そこら辺は経営者の自由なのですね?」


「ソウネ。ただ、従業員の子会社の間での異動は自由だカラ。酷い経営者からは従業員が離れるネ。良識的な経営者のもとに人が集まるネ」


「わかりました、グループ会社になっても安泰あんたいとはいかないようですね」


 宇宙人のグループに入ると、従業員も職場や経営者を選べるらしい。

 あまりに酷い経営をしていると、人がいなくなって、その子会社は潰れるだろう。



 続いて、福竹アナウンサーがいつになく真剣な顔で宇宙人に質問をする。


「さて、それで、その巨大グループ会社の経営方針とはどのようなものでしょうか?」


 すると宇宙人は、いつもの軽い調子で答える。


「ワレワレのグループ会社は、従業員の生活を優先するネ。利益は適当テキトーに出てれば良いネ」


「て、適当ですか…… 良いんですか、そんないいかげんで?」


 驚いた顔で福竹アナウンサーが聞き直す。


「良いネ。ワレワレの技術を導入して生産活動をすると、おそらく同業他社がつぶれるネ。適度に手を抜いて経済活動をするのが良いネ」


「たしかにそうですね。あなた方の技術を導入して本気をだされたら、ほかの会社は潰れてしまいます」


 考えてみれば、彼らは火星や月面に人の住める環境をあっという間に作っていた。

 宇宙人の技術を総動員して、生産する光景を見てみたい気もするが、それだとこれまでの企業は全滅するだろう。そう考えると、宇宙人の経営方針は良識的に思えた。



「利益より、社員の健康を優先するのですね?」


「ソウネ。社員は給料はそんなに払えないケド、できるだけ楽をさせるネ。ロボットの作業員を派遣して従業員の仕事量を減らすよ。今は一日の労働時間は6時間だケド、5時間、4時間とさらに短くしていく予定ネ」


「なるほど。そういえば他局のインタビューで『株主の優先度は極めて低い』といった趣旨しゅしの発言をしていましたが、そこの所はどうなのですか?」


「極めて低いネ。『株主配当』も銀行の金利を少し上回るくらいを考えているネ」


「銀行の金利くらいですか? 確かほとんどゼロだった気が……」


 スタッフが書いた手書きのテロップを渡され、福竹アナウンサーがそれを読み上げる。


「ええと、わが国の銀行の普通預金の年利は『0.001%』だそうです。100万円を一年預けても10円にしかなりませんね……」


「配当に不満があるなら、ソノ株を手放せば良いじゃナイ」


「まあ、たしかに株のやりとりは自由ですが、さすがにこれは株価が暴落しませんか?」


「暴落しても良いじゃナイ。この惑星の歴史でも、何度か起こってるデショ?」


「ええ、そうですが…… 確かに何度か起こってます」


 社会の教科書に金融危機や不況の問題が出ていたが、この流れは大丈夫なのだろうか……



 福竹アナウンサーが時計を気にしだした。番組の終了時間が近づいている。


「今日は、いつものアンケートは無いですか?」


「無いネ」


「時間が少しできました。『プレアデス星団グループ』の会長として、もし株価が荒れたらどうしますか?」


 ここで福竹アナウンサーが、宇宙人に対して弁明べんめいの機会を与える。

 宇宙人が上手く乗り切る事ができれば、株価の暴落や金融危機は起こらないかもしれない。


「株価とかどうなってもワレワレは興味が無いネ。自由にやり取りすれば良いんじゃないカナ」


 せっかくの最後のチャンスを宇宙人は無駄にした。

 福竹アナウンサーは驚いた表情を見せ固まる。


 しばらくして、ようやく口を開いた。


「……はい、わかりました。それでは来週をお会いしましょう」


「『プレアデス星団グループ』をヨロシクネ~」


 不安を残したまま、番組は終わった。

 宇宙人は楽観的らっかんてきに考えているようだが、これはどうなってしまうのだろうか……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る