ブラックマンデー

 火星から帰ってきて、一夜が明けた。

 月曜になり、いよいよ期末試験が始まる。



 僕は朝食を取りながら、試験の為にまとめたノートを見ていた。

 するとテレビから、こんなニュースが流れてきた。


「昨日の報道番組のインタビューで、プレアデス星団の宇宙人が、ある問題発言をしました。これがその内容です。VTRどうぞ」


 どうやら宇宙人がまたやらかしたらしい。テレビを見ていると宇宙人が映り、いつもの口調で喋り出す。


「ワレワレのグループ企業デハ、利益を優先しないネ。社員の給料とボーナスが維持できれば、業績は成長しなくても良いネ。

 優先度は、社員の健康が最優先デ、株主の優先度は極めて低いネ」


 宇宙人は特に変な事は言っていないように思える。社員の健康をなによりも優先するのは、経営者として当然のことだろう。


 しかし世間では違うようだ。経済学者がテレビに出てきて、真剣な顔でこう言った。


「これは大変な事になりました。これが10日ほど前だったら何の問題もなかったのですが、労働基準法の適用で、立ちゆかなくなった会社が加盟する『プレアデス星団グループ』という、大グループ会社の会長の役職に就いています。

 株の持ち主、いわゆる株主かぶぬしには、株主配当かぶぬしはいとうと言って、年に一度、利益に応じて金利が払われますが、この分だと株主配当はあまり期待できそうにありません。株を手放す人も出てくるでしょう。

『プレアデス星団グループ』は中小企業が中心で、一部上場企業は少ないですが、その影響力ははかり知れません。今日は株価が荒れると思われます」


 経済の専門家は心配をしているが、僕は大した事にならないと思う。

 朝食のトーストを口に放り込むと、いつものようにミサキを迎えにいく。



 チャイムを鳴らしミサキの家に入ると、制服をちゃんと着て、準備の整ったミサキが待っていた。

 だらしのないミサキにしては珍しい。


「準備出来てるなら学校に行こうか。テストの対策はどう?」


「バッチリよ、さあ行きましょう!」


 ミサキが自信満々に答える。

 ミサキとの付き合いは長いが、こんな事は初めてかもしれない。



 教室にたどり着くと、ヤン太とジミ子とキングがノートを見ながら今までの勉強を確認している。

 その輪の中に僕とミサキも混じる。


「みんな、おはよう」


「おはよう。どうだった火星の学習収容所は?」


 ジミ子が僕とミサキに聞いてきた。


「バッチリだったわよ。今まで生きた中で一番、勉強をして来たわ」


「本当かよ、信じられねーな」


 ヤン太が疑いのまなざしでミサキを見つめる。


 まあ、確かに。ミサキが勉強をしたと言っても信じられないだろう。

 信じられないのはキングも同じようだ、こんな事を言い出した。


「じゃあ、ちょっと問題を出すから解いてくれよ」


「いいわよ」


 簡単な英単語の問題を出すと、ミサキはほとんど正解を答える。


「うおっ、すげえ。かなり合ってるぜ」


 驚きを隠せないキング。ヤン太とジミ子も信じられないといった目でミサキを見ていた。


「どうよ、すごいでしょう」


 ふんぞり返るミサキをよそに、僕がネタばらしをする。


「火星の食事は、普段は不味いんだけど、勉強をがんばった人には美味しい食事が提供されるんだ。ミサキは食事目当てにかなり勉強をしたんだよ」


「ああ、なるほどな。それなら納得が出来る」


 ヤン太が深くうなずく。この理由にはジミ子とキングも納得をしたようだ。


「しょ、食事に釣られた訳じゃないんだからね!」


 ミサキは否定したが、それは全く説得力が無かった。



 火星の話が終わった所で、担任の墨田すみだ先生がやって来た。


「ほら、お前ら席につけ! ホームルームの後に、直ぐにテストを始めるぞ」


 こうして一学期の期末試験が始まる。



 テストが始まると、火星の勉強の成果だろう。面白いように問題が分かる。

 もちろん、分からない問題もあるのだが、ほとんどの問題がスラスラと簡単に解けた。

 泊まりがけの勉強はやり過ぎだが、塾のように利用できるなら、あの場所へ通うのも良いのかもしれない。



 テストの緊迫した時間がまたたに過ぎていった。

 次々と3時間ほど違う教科のテストをこなすと、1日目の試験の予定が終了する。

 ホームルームが終わり放課後になると、ミサキが待っていたかのように、笑顔で僕らに自慢じまんしてきた。


「すごい良かったわ。苦手な英語のテストも、もしかしたら70点ぐらい取れてるかも?」


「本当かしら? ちょっと答え合わせをしてみる?」


 ジミ子に言われて、覚えている範囲の問題を見直してみる。

 すると、本当に6割ほどは正解しているようだ。


「火星はすげーな」


 ヤン太が驚いた表情を見せる。


「しばらく火星に居た方が良いんじゃないか?」


 キングが冗談まじりに言うと、ミサキはまんざらでもないらしい。


「そうね。火星で美味しい食事を取るのもいいかもね」


 ミサキが調子に乗った発言をした。

 この調子だと、いつか痛い目に会いそうだ。



 この日、テストが終わると僕らはまっすぐ帰宅する。翌日のテストに備える為だ。

 テストは3日間続く。火星で勉強しても、まだまだ勉強は必要だ。


 家に帰り、制服を脱ぐと、ふと、朝のニュースの事を思い出した。


「株価が大暴落するかもしれない」


 経済学者が大げさに言っていたのでちょっと気にはなっていた。スマフォで株価のニュースを覗いてみる。


 株価の動きは、午前中は大幅安になったものの、午後には買い戻しが発生して、心配するほどの値は下がらなかったようだ。あまり大きなニュースにはなっていない。


 僕は安心すると、明日に備えて勉強を開始した。

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