引っ越し稼業 1

 午前中の授業を終え昼休みになった途端とたん、狙いをすましたかのように、姉ちゃんから電話が掛かってきた。


「弟ちゃん、ちょっと良い、今日の放課後は空いているかな?」


 姉ちゃんが早口で喋る、どうやら少し焦っているようだ。


「うん、まあ、多分あいてるよ」


「じつは緊急でバイトを引き受けて欲しいの、バイト代をはずむから、お友達もどう?」


「どんなバイトなの?」


 姉ちゃんからの依頼は注意が必要だ、気軽に引き受けると、大変な目にあうだろう。



「ええとね、引っ越しのバイトだね」


「引っ越し? 引っ越しって意外と知識や技術が無いと危ないんじゃないの? 僕らは全くの素人だよ?」


「今回のテストは素人の方が良いの。だからお願い」


「力もあまり無いけど、それでも良いの?」


「ええ、出来るだけ非力で素人の方が良いわ。簡単な作業だから、お願い!」


 姉ちゃんに強くお願いされてしまった……

 ここまで言われると断りにくい。僕はみんなに事情を説明する。


「ごめん、みんな。急なんだけど今日の放課後、アルバイトを引き受けてくれないかな? 姉ちゃんからの依頼で、引っ越しのバイトみたいなんだけど」


「いいぜ」「いいわよ」「是非、引き受けるわ」「かまわないぜ」


 みんなは、こころよく引き受けてくれた。


「大丈夫みたい。全員参加できるよ」


 僕が報告すると、姉ちゃんが明るい声で応える。


「ありがとう。会社で待ってるから、放課後きてね」


 そう言って電話が切れた。


 引っ越しか…… 姉ちゃんは簡単な作業と言っていたが、僕らで大丈夫だろうか?



 放課後になり、姉ちゃんの会社へと到着した。

 チャイムを鳴らし、会社の扉を抜けると、姉ちゃんが作業着姿で待機している。


 姉ちゃんは片手を前に突き出し、『ごめんね』のポーズを取りながら、僕らに話しかけてきた。


「急にごめんね、バイト代ははずむから」


「いいえ、いつでも呼び出して下さい。なんでも協力します」


 ジミ子が笑顔で返事をする。姉ちゃんを信じ切っているようだが、いつか痛い目を見るだろう。



 ジミ子の事は放っておいて、僕は姉ちゃんから事情を聞き出す。


「かなり急だけど、どうしたの?」


「今週の改善政策で、来週から労働時間が短くなるじゃない」


「うん」


「それでね、引っ越し業界から悲鳴に近いクレームが上がったのよ。

 この間、ニュースになったけどアパート経営会社のルオパレス23の話は知ってる?」


「知ってるよ、1万5千棟ちかくが施工不良で、建築法違反の恐れがあるんだよね」


「そう。それでね、改修工事するには、住人に一端は退去してもらう必要があるの。

 退去するには、もちろん引っ越しが必要じゃない」


「まあ、そうだね」


「今の時期は引っ越し業界が忙しいらしいんだけど、ただでさえ忙しい時期に、この大量の引っ越しの案件が追加されたわけ。しかも労働時間の短縮で、どうにもならなくなった訳よ」


「なるほど。それで僕らは何をすれば良いの?」


「宇宙人のシステムを使って、引っ越しの支援をするシステムを作ったわ。それを試して欲しいの。作業着と靴を用意したから、まずは着替えてちょうだい」


「わかったよ、じゃあ着替えてくるね」


 僕らは姉ちゃんの指示通り、女子と元男子に別れて、更衣室で作業着に着替える。

 作業着はごく普通だったが、靴がちょっと異常だった。

 やたらとゴツゴツとしていて重い。靴底がやたらと厚く、何か機械が埋め込んでいるような感じだ。



 着替え終わった僕らは、姉ちゃんの元に集合する。

 すると、一枚の紙を渡された。


「今日、引っ越しする、おおよその家具の配置ね」


 渡された紙には、洗濯機やタンスなど、家具の位置が書かれている。

 しかし予想外に数が多い。部屋の間取りと家具の多さからみて家族なのだろう。


「これ、今日中に終わるの?」


 僕が質問すると、姉ちゃんは気楽に答える。


「大丈夫じゃない。ロボットも少しだけ手伝うから」


 なるほど、ロボットが手伝ってくれるのか。それなら間に合うのかもしれない。


「じゃあ準備ができたみたいだから、出掛けましょうか。ちなみにA市からZ市の引っ越しだからね」


「えっ、県の端と端じゃない。そんな引っ越し、今日中に間に合わないよ」


「平気だと思うわ、さあ行きましょう」


 こうして僕たちは引っ越しの作業に駆り出された。

 バイト代はよさそうだが、かなり過酷なバイトになりそうだ。

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